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親友以上恋人以上。
6位 武藤蓮
(パラレルで恋人設定です。)
『恋人』と『友達』は違う。
なら、
『恋人』で『友達』って、どういう事なのかな。
「蓮様に馴れ馴れしいんだよ…。平凡のくせに…!」
「…っ、」
擦れ違い様に、ぶつけられた言葉。
それは随分前から…寧ろ武藤とつるみはじめた当初から言われていた筈の言葉で、なんら珍しいものでは無かった。
言う人は日毎に違うけれど、言葉の意味合いや刺の込められた度合いなどはほぼ大差無く、
何故今更こんなにもグサリと刺さるのか、と動揺した。
「…凛?」
少し前を歩いていた武藤が、足を止めオレを振り返る。
オレにのみ聞こえるように呟かれた言葉は、武藤には聞こえなかったようで疑問顔を向けられた。
どうした?と、
言葉で無く問う瞳に、なんでも無い、と慌てて首を振って駆け寄る。
訝しむ視線から逃れるように、早足で歩き始め、オレは僅かに俯いた。
「………………、」
じっと後頭部に刺さっていた鋭い視線は、やがて苦い嘆息と共に消え、武藤は黙ってオレの後ろを歩きだす。
「…………。」
ホゥ、とオレも、小さく安堵の息を吐き出した。
……よかった。
聞かれたって、答えられやしないんだから。
武藤のファンの子の言葉に傷付くのは、あの子達が変わったんじゃなくて、
寧ろ、変わったのはオレの方。
昔は流せていた事に、一々傷付いてしまうのは、
『友達』から『恋人』に変わったから。
武藤の『恋人』としての自分に、
…自信が持てない、から。
武藤が好きだから、
大好きになればなる程、
相応しくない、という言葉への反論に詰まる。
秀でたところは何もないし、顔は平々凡々。性格も良いとは言えないし。
…友達の時は気にしなかった事を、気にしているネガティブな部分も、知られたくない。
武藤が好きになってくれたオレは多分、こんなオレじゃない、と思うからこそ、
オレは負の思考の螺旋に填まっていくのだ。
「……凛。」
「……え?」
突然呼ばれ、オレは足を止めた。
振り返ると、離れた後方で足を止めた武藤が、オレをじっと見ている。
「………?」
人形のような無表情なのに、やけに瞳だけは強い光を放ち、
視線でオレを絡め取ろうとしているかのように、執拗だ。
「……む、とう?」
その強過ぎる視線の前では、全てを暴かれてしまいそうで、
オレは無意識のまま、一歩後退った。
「……………。」
「……っ!?」
後退ったオレに、武藤は不愉快そうに眉をひそめ、オレの腕を掴んだ。
「武藤っ!?」
そのまま引き摺られるように、強く腕を引かれる。
呼んでも振り返ってくれない武藤に不安は募り、嫌な想像ばかりが膨らんだ。
…もしかして、もう嫌になったのかな。
こんなオレ、苛々するのかな。
もう――別れようって言われたら、
どうしたら、いいの?
ガチャッ…バンッ!!
ガンッ
「…っ!!!」
空き教室に入り扉を閉めた瞬間、扉に押し付けられた。
背に武藤の腕が回されていた為、痛みは殆ど無かったが、衝撃は凄い。
「………!!?」
ぎゅうっと瞑っていた目を、ゆっくりと開く。
すると一番先に視界に飛び込んで来たのは、至近距離にあるアッシュグレイ。
近過ぎて焦点を合わせる事も難しい、薄墨色の瞳。
武藤は、激情を無理矢理抑えたかのような目で、オレを睥睨していた。
「………む、と…」
「………嫌になったか?」
「……え…?」
言われた意味が分からなくて、目を瞠るオレをどう勘違いしたのか、武藤は苦く顔を歪め、自重するかのような笑みを浮かべる。
「オレの傍にいればいる程、嫌な思いをするからな。」
「!?」
「ダチの頃からそうだったのに、恋人ともなれば、外野は益々煩くなる。おまけに西崎に近寄り過ぎれば、オレに妙な嫉妬されて…良い事なんか、何もねぇだろ。」
「……………、」
オレは意外な言葉にただ驚いて、なにも言えなかった。
武藤、西崎に嫉妬なんてしてたんだ。
顔にでにくいから、全然分からなかった。
「ただのダチだった頃の方が、マシだろ?」
「っ!!?」
武藤の呟かれた一言に、オレは息を飲む。
その後に続く言葉を予想して、背筋を嫌な汗がながれた。鼓動がいやに煩い。
ただのダチに、戻ろう。
そう続けられる気がして、オレは泣きそうになるのを懸命に堪える事しか出来ない。
嫌だ―――嫌だよ、武藤。
未練がましくすがり付きそうな自分に、吐き気がする。
それでも簡単には、頷けない。
オレはまだ、
「……凛、」
「……っ、」
まだ、武藤が大好きなんだ。別れたくなんて、無い。
「…でも、終わりになんかしてやらねぇから。」
「…………………………………………は?」
俯いて、まるで判決を待つ罪人のような心地で待っていたオレの耳に届いたのは、…予想と全く違う言葉で、オレは呆気にとられた。
顔を上げると、追い詰められたかのように悲壮な顔をした男前。
…………あれ?
此処に来て漸く、オレ達が行き違っている…というか噛み合ってない事に気付いた。
「む、武藤…?」
「どんな陰口たたかれても、お前はオレを頼りやしねぇ。…西崎には簡単に寄り掛かるくせに。」
「!」
聞こえてなかった訳じゃないんだ。
武藤はオレが泣き付くのを待ってたって事?………………あれ?そんなオレ、嫌なんじゃないの?
「西崎の方がいい、なんて今更言われても、…どんなにお前が嫌だろうと、逃がさねぇよ。………どれだけお前が欲しかったと思ってやがる。」
「!!!」
黙ったままのオレをどう思っているのか、普段全く言わない愛の言葉を、ダダモレにさせる武藤に、オレは硬直した。
「……無様なのは重々承知だ。……それでも、お前は手放さない。
愛してんだよ……凛。」
「………………、」
イケメンの真剣告白にオレがどうなったかというと…………キャパオーバーで、一瞬気を失った。
「……っ!?…おいっ、凛?」
膝から崩れ落ちそうになったオレを、武藤は慌てて支えてくれた。
ペチペチと頬を叩かれて、オレはハッと意識を取り戻す。
「…大丈夫か?」
「…………………うん。」
真っ赤な顔でぐったりしながらオレは、頷いた後、
取り敢えず、武藤にぎゅうっと抱きついてみた。
「…っ!?」
「…………オレも愛してますよー。」
「………………んだよ、それ。」
気の抜けた告白に、武藤の強ばった体から力が抜けた。
その場に座りこんだ武藤は、ぎゅうぎゅう抱き付くオレを抱え直して、頭に頬をすり寄せる。
「取り敢えず訂正するけど、別れたいとかダチに戻りたいとかは全部、勘違いだから。」
「………………。」
「武藤に好かれてる自信がイマイチ持てなかったんだけど、今、満タンに補充してもらったから。」
「……………んだよ、それ。」
拗ねたような口調に、オレは笑いが込み上げた。
たぶん、安心して気が抜けたのと、愛の告白の恥ずかしさが混ざった感じ。
…悩み、迷っていたのは、どうやらオレだけではなかったようです。
友達から恋人に変わって、
でも友達でなくなった訳じゃなくて、
距離感を計りあぐねていたのは、武藤も一緒。
なら、なにも怖くはないよ。
間違って喧嘩しても、
迷って喧嘩しても、
隣に居てくれるなら、
オレもお前の隣に居座り続けるよ。
恋人のまま、
親友のまま。
(欲張り上等。)
(どっちも手放してなんか、やらないんだから。)
END
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