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バレンタイン小話。
志藤兄弟によるバレンタイン小話です。
※静視点です。途中からチェンジ。
「斎藤君って、料理上手なの?」
つい最近まで、まともに口をきいた事もなかった腹違いの兄は、真面目な顔で唐突にそう切り出した。
「……なに、突然。」
呆気にとられ、反応の遅れたオレを気にした風も無く、尚久は話を続ける。
「いや…斎藤君が、昨日昼食に出た魚料理が気に入ったらしくて、しきりに感激してたんだけど、その時に再現してみたいなぁ、って独り言いってたから。」
…なるほど。
オレは自分の顔が緩むのがわかった。
また食べたい、とかではなく、同じ味を出せないかなぁ、という、男子高校生らしからぬ思考が、なんとも彼らしい。
「上手だよ。ちなみに卵焼きが絶品。」
「!!」
ショックを受けた尚久の顔に、ガキ臭いとわかっていても、優越感を感じてしまう。
…といっても、別にもう、跡取りとか妾腹とかはどうでもいい。
単純に、彼に近い、という事実が嬉しくて、オレはニヤリと笑った。
「…りっちゃんのお弁当、超美味しかったなぁ。」
「…っ、…………」
行儀良い優等生の顔しか見せなかった兄は、悔しそうに顔を歪ませた後、なんと舌打ちした。
……誰コイツ。
「…どうせ、強請って斎藤君の分の弁当を奪った程度だろう?」
「………。」
…鋭い。
悔しいが、全くその通りだ。
「…しかし、料理上手なんだ。……なんか、いいな。」
そう呟いた尚久の顔が、やにさがった。
美形台無しだけど、いいの?
「バレンタインとかも、手作りなんだろうな…。」
「…………。」
キモい、とは言えなかった。
それすなわち、自分をも貶める事になるからだ。
半分だけとはいえ、流石オレの兄貴。得意技は妄想です。
「トリュフとか、かなぁ。」
「ベタにでっかいハートに、チョコペンでLOVE、…は、流石に無いな。りっちゃん結構男らしいし。」
「恋人なら、案外有り、だったりするかもよ?」
「それなら、寧ろチョコより…」
「………………。」
「………………。」
オレの、濁した言葉の先を、尚久は多分正確に読み取っている。
でも、どん引きものなオレの妄想を把握しているであろう尚久は、無言でオレを見た。
…冷たい目、ではない。
至極真剣な目なのが、痛過ぎる。
志藤家は滅んだ方が、世の為人の為、
そしてりっちゃんの為だと思う。
「「……………。」」
真剣なオレらの思考の中では、りっちゃんが恥じらいながら、リボンを首に巻いて、両手を広げていたりする。
必殺、プレゼントは、わ、た、しV
死ねと思った君、正しいよ。
「……リボンはベタに赤だね。」
「はぁ?ピンクに決まってんじゃん。」
「なにそれ。イメクラじゃあるまいし、ピンクとか。」
はっ、と鼻で哂う尚久に、負けじとオレも挑発的に言い返す。
「そっちこそ、何言ってんの?赤なんて毒々しい色、りっちゃんには合わない。」
至極アホらしい。
全力で馬鹿です。
分かってますが、止める気無し。皆無。
真剣そのものなオレ達は、離れた場所からオレらを眺めつつ、お茶をしている二人…りっちゃんと日下部の事に気付く事が出来なかったのだった。
↓以下、凛視点です。
「…仲いいなぁ。何話してるんだか知らないけど、あんな全力で戯れ合って。」
オレが呟くと同時に、日下部先輩は、小皿に乗った和菓子を差し出した。
「そうだな。…凛君、最中と草餅、どちらが良い?」
「草餅がいいです。…先輩、お茶は?」
「いただこう。」
急須を傾けると、コポポ、という長閑な音とともに、お茶の良い香りが漂う。
「…………よし。…はい、どうぞ。」
「有り難う。」
礼を言った日下部先輩は、残った最中を口にした。
「…先輩、甘いもの大丈夫なんですね?」
「嫌いでは無い。」
「意外です。」
正直に思ったまま呟き、笑みをこぼすと、日下部先輩は、じっとオレを見た。
「……凛君。」
「はい?」
オレが小首を傾げると日下部先輩は、普段硬質な光を宿す黒曜石の瞳を細め、悪戯っぽく笑った。
「バレンタインチョコは、受け付けるぞ?」
「……………。」
一瞬ポカン、と目を瞠ったオレは、笑いを含む日下部先輩の目を見ながら、クスクスと笑った。
「…手作りで、でっかいハートにLOVE、とか書いちゃいますよ?」
「大歓迎だ。」
男子高に通ってる身分としてはギリな冗談に、ちゃんと付き合ってくれる日下部先輩に、嬉しくなる。
普段の感謝も込めてトリュフでもつくろうかなぁ、なんて思いながら、オレは長閑な時間を楽しんでいたのだった。
END
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