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Light [静凛]
※パラレルで静凛。恋人設定です。
※静視点です。



『…汚らわしい。此方を見ないでちょうだい。』

『私の手を煩わせるな。』

『可哀想に。愛人の子じゃあ、まともな人生は過ごせないでしょうね。』



『私を捨てるなんて、許さないわ…静。』




真っ暗闇の中、少年の姿のオレは膝を抱えて、空から降ってくる悪意に耐えていた。

夢だと分かり切っているのに、目を覚ます事が出来ず、
夢だからこそなのか、耳を塞ぐ事も出来ず、


夜毎うなされ続けた。



『………………。』


でも今、空を見上げ立ち尽くすオレは、今のオレで、
居る場所も、真っ暗闇じゃあ無い。

背後にはまだ闇があるが、射し始めた光は、緩やかにオレの世界を照らしていく。

悪意ある声も、日毎減り、だんだん和かな記憶へと変化する。


劇的な変化では無いが、オレは確実に変わってきた。

ゆっくり、ゆっくり。


忘れるんじゃなくて、前を向こう。

痛みも哀しみも、決して無かった事にはしない。


だってそれすらも、今のオレには宝物。


何もかも忘れ、幸せだけを追うオレより、今の自分の方が、絶対君を大切に出来る。


――それはオレの誇り。


汚い記憶も
痛い記憶も

君を愛し守る力になるならば、オレはそれさえも大切にするよ。


『…………、』




…声が、する。


いつもの悪意ある言葉は完全に途切れ、

かわりに大好きな声が、聞こえる。


『……かちゃん、』


君がオレを呼ぶ。


気付けば前にも、背後にさえ闇はなくなり、
ただ柔らかな灯りが照らす。


君という、ほのかな光が。


『しずか、ちゃん。』


ふいに、声と同時に手を握られ、
オレの意識は急浮上した。







「………………………………………りっ、ちゃん。」


目を開けたオレの、ぼやけた視界に一番に飛び込んできたのは、大好きな君の顔。


オレの手を握り、
毎朝毎朝、なにも言わず、オレの涙をぬぐってくれる優しい恋人。


「……、」


今日も彼はオレの涙をぬぐい、目尻に、チュ、と可愛い音をたててキスをくれた。


「…お早う、しずかちゃん。」


…我ながら、なんて面倒臭い男だろう、と思うのに。
りっちゃんは、何も言わない。


心配して問い詰めるでもなく、
呆れて放置するでもなく、


いつもただ傍にいて、
ゆっくりオレが立ち直るのを待っていてくれる。


オレには勿体ない位、最高の恋人。



「……………、おはよう、りっちゃん。」


なんか色々堪らなくなって、挨拶と同時にぎゅ、と抱き締めると、りっちゃんは自然に背に手をまわし、抱き返してくれた。


「……りっちゃん。」

「ん?」


君の、ほんの些細な仕草一つに、オレは君を手放せないと痛感する。


だから、
だからさ、りっちゃん。

どうか、嫌なトコは嫌って言ってね?


「毎朝、…ごめんね?」

「…し、」

「んで、ありがとう。」


眉をひそめたりっちゃんに、最後まで言わせずに、オレは続けた。


君はきっと、面倒臭くなんてないよ、とか
迷惑だなんて思ってない、って言ってくれると思う。

しかも建前でなく、本音で。


でもオレは、ズルいから。


君に謝ってしまう事で、逃げ道を塞いでしまおうと思っているんだ。


同情でもいい。
憐憫でもいい。


どうかオレに、一生縛られて。


そうしたらオレは、長い時間をかけて、


それを――愛、にしてみせる。


「…………………。」

「………?」


ふ、と下を見ると、何故かムゥ、と顔をしかめるりっちゃん。


…どしたの?と、問う前に、オレの頬に手がのび、


いつかされたみたいに、ムニッと頬を引っ張られた。


「……りっ、ひゃん…?」


痛くはない、が、なんとも間抜けなオレの姿に、りっちゃんは笑うでもなく、怒ったような顔をしていた。


「…『ごめん』はズルい。」

「…っ、」


オレは息を飲む。

あさましい心を、見透かされた気がした。


けれどりっちゃんは、蔑むわけでも愛想を尽かすでもなく、

オレを、ぎゅうっと抱き締めてくれた。


「オレは、しずかちゃんが、大好きなの。大切なの。…貴方の涙を拭うのが、オレの役目なら、こんな嬉しい事はないってくらい。」

「…っ!!」

「…だから、ごめん、は止めて?誰にもこの位置、譲る気ないから!」


……ああ、君はいつだって、


そうやって、オレの手を引いて、

明るい場所へと連れて行ってくれるんだ。


「…りっ、ちゃん…っ、」


オレは彼をぎゅうぎゅう抱き締めて、子供みたいにしがみ付く。

君は

しょうがないなぁ、って笑いながら、

どうしようもないオレを

許し、
愛してくれるんだ。



「りっちゃん…!りっちゃんっ…!!」

「はい?」

「好き…!!大好き…っ!!」

「…はい。」


照れくさそうな笑顔で、


オレも、と
付け加えてくれる君こそが、



オレの幸せの形
(どうかずっと)
(ずっと傍で、笑っていて。)


END

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