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馬鹿っぷるの暴走。
150万打記念小説
第2位 志藤 静@


「…うわっ!?」
「っ!!!」




初夏から夏に移り変わろうとしている最近は、温暖化の影響もあってか、暑い。
ジリジリと肌を焼く太陽、照り返すアスファルト、それに日本の夏には付き物の湿気が加われば最強…いや最凶だ。


空調のきいている寮の部屋に帰ってきても尚、不快感は緩和されない。
長めの髪が襟足に張り付いたのを手でかきあげたオレは、バスルームの方向を見やり、数秒後にはタオルと着替えを持って、直行した。

シャワーだけ浴びよう、と。


……そこで冒頭に、戻る。



「……………。」
「……………。」


バスルームの扉を開けたオレの目の前には、

元々大きめの黒い瞳を、驚愕に丸くし、固まった






―――――全裸の、りっちゃん。



「……っ、」


だんだんりっちゃんの顔が、赤く染まっていくのを見ながら、オレは、出て行かなきゃ、なんてテンパる頭で考えるが、体が動かない。

つか、目が放せない。


すでにシャワーを浴び終えたのか、ポタリ、とりっちゃんの体を伝い落ちる落ちる雫は、かろうじて纏っているバスタオルに吸い込まれる。
腕や足、背中も、ちゃんと筋肉がついているのに、骨格自体が華奢なのか、折れそうに細い。

濡れ髪が白い項に張り付いている様は酷く煽情的で、


「……っ、」


ゴクリ、と下世話にも、喉が鳴った。



「…………し、ずかちゃん……」

「!」


名を呼ばれ、ハッと我に返り、慌てて身を翻した。


「ごめんっ、りっちゃん!すぐ…」


出ていく、と続けようとした言葉は、不自然に途切れた。


「……っ!?」


背中に感じた、ぶつかるような衝撃によって。


「…しずかちゃん。」


間近から聞こえる、震える吐息のような声音に、オレは背中の温もりの正体を知った。


――ハラリ、


足元に落ちたタオル、
背中からオレの腹へと移動した腕が、縋るようにしがみ付く。


「……りっちゃん、」


無理矢理体を反転させ、覗き込んだりっちゃんの顔は、目眩がする程の色香をまとって、


薄紅色の唇が、紡ぐ。


「………しずかちゃんなら、いいよ…?」

「……っ、」


オレは彼の唇を、噛み付くように塞ぎ、その華奢な体を組み敷いた―――、










「……ってとこで目が覚めたんだけど、どうすればいいと思う?」

『取り敢えず死ねばいいと思うよ。』


電話口の兄は、微塵の温度も感じさせない…寧ろ絶対零度の声音ではき捨てた。


「…えー…。オレはこれが正夢かどうかを相談してたんだけどぉ。」

『五月蝿い死ね。今すぐ生きとし生ける全ての命に全力で詫びた後、跡形も無くなるような死に方を選んで死ね。斎藤君には馬鹿が馬鹿で申し訳ありませんでしたとの詫び状付きでお中元贈っておくから、取り敢えずお前は死んでおけ。』

「男の嫉妬は見苦しいなぁ。」

『よし分かった。お兄様自ら手を下してやるよ。お前だけの為にネット通販でありとあらゆる拷問器具を買い揃えてやるから今すぐ来い。一番苦しむ死に方もググっておくから。』

「愛が重いよ兄ちゃん。つかエスエムプレイは彼氏だか彼女だかとやって?オレ、浮気してりっちゃんを哀しませたくないし。」

『よーしそこ動くなよー。今すぐ出来得る限りの速さで向かうから!!』


大分キャラ崩壊をおこしている兄をからかっていると、扉が開く音とともに、ちょっとグッタリした、大好きな人の声がした。


「ただいま〜…。」

「おかえり〜りっちゃんv…てなわけで切るわ。また里帰りした時に遊んであげるからさ。」

『呪われろ。』


恐ろしく低い声で、呪咀めいた言葉を呟く兄との電話を一方的に終了し、携帯をソファーに投げる。


「大丈夫?外暑かったでしょ。」


水を手渡しながら問うと、りっちゃんは礼を言って直ぐ様それをあおった。


「……………………、」


……ヤバイ。エロい。


晒されたりっちゃんの喉が、音をたてる度上下する。
飲み込みきれなかった一筋の水滴が顎から喉を伝い、鎖骨の辺りで汗と交じった。


「………っ、」


ゴックン、と、
オレの喉が鳴った。


「……しずかちゃん?」

「っ、…な、なぁに?りっちゃん。」


不思議そうに見上げてくるりっちゃんに、慌てて返すが、その間も視線は彼にくぎ付け。

上目遣いと、うっすらと色付いた頬に濡れた唇のコンボは、マジやばいです。


「…………、」


りっちゃんは、何かを考える素振りをした後、コトリ、とグラスを置き、


じっ、と上目遣いにオレを見た後、


「…っ!!?」


ぎゅっ、とオレに抱き付いた。


「…っちょ、!!!りっ、ちゃ…!!?」


当然オレはメダパニ状態。
恥ずかしい位吃った。でもそんなの気にしてる余裕なんてあるわけねぇよ!!!


「しずかちゃんも道連れっ♪」


移れ汗臭さ!なんて無邪気に笑うりっちゃんに、キュン死寸前。

てゆうか寧ろ、なんか良い匂いすんですけど!!?

こう…ふわっ、と甘いかんじの……いやいやいや!!!

待てオレの下半身!!もうちょい頑張ろうぜ!?
お前はやれば出来る奴だってオレ知ってるし!!(意味不明)


「りっちゃん…」

「あははー。ごめんね?なんかしずかちゃん、涼しい顔してるから、八つ当たり。…お詫びに背中流すから、許して?」

「……!!!?」


……なんですと!?

なな、なななんて言った、今!!?


「…せ、背中?」


不審な位マジな目(立派な変質者★)で問うオレに、りっちゃんは、頷いてオレを方向転換させ、背中を押す。


「一緒にお風呂入ろうよ。しずかちゃんもそのままじゃ、辛いっしょ?」

「!!!!!!」


い、い、一緒にお風呂!?

まさかの正夢!!?


…………いやいや、そんな事で惚けている場合じゃない。


「ちょっと待った!!!」


グリン、と体を反転させ、オレはりっちゃんの肩を掴んだ。


なに?と瞳で問うりっちゃんは、可愛い。
文句無く全力で可愛い。


……だからこそ、一緒にお風呂は無理、でしょ。


「……りっちゃん。」

「…はい?」

「オレは、……りっちゃんの、なに?」


オレの言葉に、りっちゃんは、目を丸くした。

黒目がちな大きな瞳にうつるオレは、なんだか情けない顔をしている。


「…なに、って。……………しずかちゃんは、世界一格好良いオレのこいびと、でしょう?」

「……………、」


………あ、やば。
世界一格好良い恋人、の言葉に、嬉し過ぎて気を失いそうになった。

だから、そんな場合じゃないんだってば。


「…そう、恋人。…つまりオレは、りっちゃんの事、そーゆー目で見てんの。………だから、二人っきりでお風呂とか無理。」


暴走しない自信が無いです、と

情けなくも呟くと、りっちゃんは数秒固まって


「………っ、」

「…りっ、!!?」


再び、ぎゅうっとオレに抱きついてきた。


オレの胸のあたりに頭をグリグリ押し付るりっちゃんから、ドクドクと早い鼓動が伝わってくる。


「…りっ、ちゃん……?」

「………る、よ」

「……え?」

「…分かってるよ…。……オレ、だって………しずかちゃんの事、…………………その、………そーゆー目で、見てるんだ、よ?」

「………………、」


……え、
なんか凄い事言われた気がする。

テンパりすぎて、対応出来ないオレを置き去りに、りっちゃんは、顔をあげ、潤んだ漆黒の瞳がオレをうつした。



「……色気も無いオレの、精一杯の…誘い、なんですが……………………………………いや……?」

「…っ!!!!」




嗚呼、神様。

本当にオレ、生まれてきて良かった。


…良かったんだけど、

一つ、お聞きしてもよろしいですか?



…セーブポイントは何処ですか。
(この最高の出来事を、死んでも忘れたくないです。)
(記憶喪失になんてなったら…死んでも死に切れねぇ!!)

END

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あきゅろす。
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