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君と僕のあい言葉。
150万打記念小説
(第5位 志藤尚久)
※パラレルで恋人設定です。
ヘタレ注意&激甘注意(笑)
オレには今、目標がある。
人が聞けば十中八九、は?と聞き返された上に、笑い飛ばすか呆れられるだろう、小さな
けれどオレにとっては、大きな、目標。
それは――、
「よ、志藤。もう帰んの?」
「暇ならカラオケいかねぇ?」
「ごめん。急いでいるから、また今度。」
大学で講義を受け終えたオレは、足早に構内を歩きつつ、声をかけてくる人達を適当に躱す。
余裕ぶった笑みを浮かべてはいるが、内心は結構焦っていたりする。
早く――早く、行かなくては。
彼は、文句一つ言わないけれど、きっと待っているから。
「……………、」
いつもの場所。
大学のキャンパス内にある、カフェテリア。
探すまでもなく、彼はいた。
秋から冬に移り変わる今の季節は、大分寒くなってきたのに、彼は、わざわざオープンテラスで、いつも通りオレを待っていた。
指先を暖めるように擦り合わせながら、
時折吹く冷たい風に身を竦めながらも、
いつも、オレが見つけやすいように、
オレを見つけやすいように、彼は、此処に居る。
たまに、可愛い過ぎて困る、――オレの恋人。
「…………、」
声をかけようとして、オレはふと、言葉を飲み込んだ。
……そうだ。
物事は、出だしが肝心。
最初の一声で呼んでしまえば、案外すんなり目標達成するんじゃないか?
オレの小さな目標……それは、
恋人を、――名前で…ファーストネームで呼ぶ事。
「…………。」
オレは大きく深呼吸をした。
そうだ、今ならいける。
あくまで自然に、
凛、凛、凛……
よし…!
「……り、」
「あ、尚久さん!」
………………オレの第一声は、オレを見付け、可愛らしく微笑む恋人に阻まれました。
うん。……可愛いから、もういい。
名前を呼べなかった事より、嬉しそうな笑顔の方が凄く重要だから。
「お待たせ。」
情けなさすぎる内面をおくびにも出さず、笑むと、彼はニコニコ笑いながらオレに小走りで駆け寄って来た。
「お疲れ様でした。」
「……………。」
ヘニャリ、と笑う顔が、真剣に可愛い。
思わず周囲を確認し、隠してしまいたくなる程に。
いや、だってオレなら誘拐するよ。営利目的でなく。
「…尚久さん?」
「……なんでもないよ。行こうか。」
不審すぎる態度を咳払いで誤魔化しながら、歩きだす。
不思議そうに首を傾げたものの、オレの隣に並んで歩く、楽しそうな横顔も可わi…(しつこい)
「今日は映画でも行こうかと思ってるんだけど…」
「やった♪久しぶりです、映画。」
目を輝かせる彼もやっぱりかw…(もういい)
かなりだらしない顔になっている事を自覚しつつ、彼に何の映画がいいか問おうとしたオレは、
タイミング的にココか?と再び名前呼びにチャレンジしてみた。
『凛は、どんな映画が好きかな?』
うんよしいける。
「り…」
パッパー!!!
「……………。」
ブロロロ…
と、傍迷惑なクラクションと排気音をあげながら、走り去っていく車を、オレは凍えた視線で見送る。
「…凄い音でしたねー。」
「うん…そうだね。………事故ればいいのに。」
「?」
ボソリと呟いた最後の言葉は聞こえなかったらしく、首を傾げる彼に、オレは力無く笑った。
…何かに邪魔されているとしか思えない。
ハァ、と小さくため息をつき、また今度にしよう、と気持ちを切り替えようとした…その時、
ふ、と視線を落とした先…彼の足元に、小さな窪みを見付け、あ、と声をかける間も無く、
「わっ、?」
彼が、躓いた。
「凛っ!!」
「…っ、」
ガシッ、と咄嗟に伸ばした腕で、彼を抱き留める。
前に差し出したオレの腕に掴まる形で踏みとどまった彼に、オレは、ほぅ、と安堵の息をついた。
「…大丈夫?」
「…………………。」
驚かせないように、優しい声で聞いたつもりだったが、彼は何故か大きく目を見開いていた。
「………?」
小さな花びらのような唇が、僅かに開いて、躊躇したように閉じる、を繰り返し、
大きな瞳は、パチパチ、と数度瞬きを繰り返すが、見開かれたまま。
「…どうか、した?」
「………いま、」
オレの問いかけに、彼は、今、と小さく呟く。
今?…今って、抱き留めた時の事、だよね?
…なにかあったか?
さっきのシーンを、脳内リプレイしてみる。
…………………………………………………………………………ん?
『凛っ!!』
……あれ?
ちょっと、待て。
オレ、今
「…ーーっ!!!」
意識した途端、顔に熱が集中する。
言った。言ったよ、オレ。無意識なまま。
目を見開いている彼を見つめながら、オレは固まった。
ひいた、よね。
…イキナリ名前呼び捨てとか。
しかも咄嗟に出るあたり、心の中で呼びまくっていたのバレバレだし。ひくよね、そりゃ。
「…………、」
未だ驚き顔のままの彼に、オレは何も言えない。
まるで判決を待つ囚人のような心地で、ただ待つ。
――けれど、
「…………、」
「っ…!?」
結論から言うと、彼は、引かなかった。
ましてや怒りもしない。
苦笑とかちょっとした照れ顔、なんて、オレの期待したものでも無く、
くしゃり、と深く笑い皺を刻みながら、
凄く…とても、嬉しそうに、破顔したのだ。
「…ーっ!!!!」
咄嗟にオレは、彼をぎゅっと抱き締めた。
だって、見てられない。
これ以上、一秒でも長くアレを見ていたら、オレは多分…いや絶対死ぬ。
一瞬見ただけでも、顔が馬鹿みたいに赤くなっているのが分かるし。
ああ、もう。
なんだって、こんなに…!!
「…尚久さん。」
嬉しそうに弾んだ声で、彼はオレの背中を抱き返す。
「……なに?」
「名前、…初めて呼んでくれた。」
「……いや、じゃない?」
問うと、彼はさも不思議そうに、何で?と首を傾げる。
「…ちょう嬉しい、です、よ?」
「!!!」
………ヤバイ。死ぬ。
萌え死ぬ。
せっかく恋人になれたのに、そんな情けない理由で早死には嫌だ。
「………あのね?」
「はい?」
「…呼び捨てだと、色々ヤバくなりそうだから…うん、色々と。……だからさ、」
「?」
「…凛さん、……って呼んでもいいかい?」
「…………。」
オレの情けない言葉に、彼がクスリと笑う気配がし、その後、小さな頭が、オレの胸に擦り寄った。
「ちょっと残念ですけど…いいですよ。」
「…………、」
ああもう可愛い。可愛すぎる。
「凛さん、」
「…はい。」
「…凛さん。」
「はい。」
オレは彼をぎゅうぎゅう抱き締めながら、何度も名前を呼んだ。
「凛さん、可愛い。」
「っ、」
「可愛い、可愛い。物凄く愛してます。」
「……、」
真っ赤になった恋人の耳に、オレは何度も飽きる事無く、愛の言葉を囁きかけた。
此処が公共の場だ、とか
知り合いがいるかも、とか
そんな事、気にならない。
恋は人を愚かにする、なんて、
言いたければ、言え。
寧ろ、
自覚済みですけど、何か?
(馬鹿でヘタレで結構。)
(それでこの子が笑ってくれるなら、全て結果オーライってもの。)
END
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