Sub
3
オレがうなだれながら、自分の死亡フラグを確信していると、思わぬところからのフォローが入った。
「……何してんだ、お前ら。」
「っ!!!」
低めの甘い声で呆れたように呟くのは、漆黒の髪に闇色の瞳の、同じ人類である事すら疑わしい美貌の持ち主。
《陰/陽》総長――通称、黒龍。
自分のチームの総長だが、こんな近くで見たのは初めてだ。
ヤベェ…オーラがぱねぇ…。
直視するのも躊躇われるような、ダダ洩れのカリスマオーラに、オレは固まった。
…リアルに動けねぇ。
「よってたかって新人虐めか?」
「そんなんちゃいますよ〜。ただ…」
ため息交じりに問う総長に、朱雀さんが事の成り行きを、かいつまんで説明する。
「……………。」
それを聞き終えた総長は、一拍おいて、長いため息をついた。
「………お前らさ、」
総長は、うろんな目で幹部連を見回し、言葉を区切った。
「分かってんのか?…今してんのは、r(アール)の話だぞ?」
「「「「……………あ。」」」」
総長の言葉に、幹部連は同じタイミングで『しまった』といわんばかりの顔をした。
……仲いいな。
「お前らがアイツに構ってたら、ワザワザ紛れこませてる意味がねぇっつーの…。」
全力で呆れを全面押しする総長に、幹部連は決まり悪そうな微妙な表情になる。
総長はもう一度嘆息すると、オレの方を見た。
「カズ。」
「っ、はいっ!」
オレは直立不動で返事をした。
名前を覚えてもらっているだけでも、かなり驚きだが。
「ま、バレたのがお前なら問題はねぇと、オレは思っている。」
「え…?」
「まだウチに入って時間は然程たってねぇが、実力は申し分ねぇし頭もキレる。おまけに漢気があって、周りの信頼もあるし、面倒見も良い。………アイツが懐くだけある。」
「…っ、」
褒められている。
それは、分かる。あり得ない程の高評価だって事も。
……だが何故か、ゾクリとくるような寒気を覚えたのは、何でだ。
「……なぁ、カズ。…《陰》って、知っとる?」
総長の言葉を引き継ぐように、そうオレに問うのは朱雀さん。
「…当然、知ってますよ。」
「どこまでや?」
「…どこまで、って…」
更なる問いに、オレは戸惑う。
《陰》
すぐそこに居る王子然とした美形――《陽》の対の席に座る者。
最近まで空位だった筈の席に座ったその人物は、確か噂では
「……道案内のプロフェッショナルで、警察や敵チームの奴らから仲間を逃がす…別名《導き手》」
「…そうや。」
朱雀さんは、吊り上がり気味の瞳を細め、チャシャ猫みたいにニンマリと笑む。
その笑みを見ながら、オレはふと思いついた。
…何でいま、そんな会話になったのか。
そして、総長は、何と言っていた?
バレたのが、オレなら、問題無い、――?
全てを総合して、導き出す答えは、
「………まさか、」
声に、ならない。
脳裏に、人懐っこい笑顔が思い浮かぶ。
アイツが、陰――?
「…察しの良いカズ君に、更に問題や。」
至極愉しそうな朱雀さんは、ピン、と形の良い人差し指をたてた。
「陰には、『導き手』の他に、も一つ通称があるんやけど…知っとる?」
勿論、知っている。
寧ろ、其方がメインだ。
「……………、『黒龍の影』。」
答える途中で、オレは幹部連、そして、総長を見て、自分がそんな当り前の事を言わされている意味を悟る。
『黒龍の影』、
陰がそう呼ばれているのは、ただ単に、黒龍直属だから、というのが理由では無い。
短い期間で幹部連に認められたのは、能力も勿論だが、何よりも重要視されたのは、その忠誠心。
影のようにでしゃばらず、だが従順につき従い、黒龍の為ならば、氷河も業火も渡ってみせるだろうとまで言われた、その尋常ならざる忠義こそが、陰が『黒龍の影』と呼ばれる、理由。
「…………………。」
呆然としているオレに総長は、意味ありげに口角をあげ、艶美な笑みを向けた。
「…オレの大事な『影』、宜しく頼むぜ?」
それは、あきらかな牽制だった。
「………了解、しました。」
オレは天を仰ぎたい心境で、呟くように返す。
さらば、オレの淡い恋心。
(相手が悪すぎだろ…。)
END
[*前へ]
[戻る]
無料HPエムペ!