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下っぱ君の受難
オレの名前は、遠野 和葉(トオノ カズハ)。通称カズ。
別に覚えなくても構わねぇ。
先月漸く念願叶って、《陰/陽》に入る事が出来た、下っぱだからな。オレ。
去年までは田舎の中学で、頭はってたから、一応腕っぷしには自信があったが、そんなちっぽけなプライドは引っ越し早々打ち砕かれた。
親の転勤先であるココに越してきて、間もなく、チーム同士の小競り合いに巻き込まれたんだが…、正直田舎とはレベルが違いすぎる。
都会ってのは、あんなに強い奴等がゴロゴロいるんだな。
特に凄ぇのは北区の《ケルベロス》と南区の《陰/陽》。
幹部連の強さは桁違いだし…総長ともなると、最早化け物だ、ありゃ。
同じ人類である事を、まず最初に疑ったぜ。オレは。
どっちも基本ヤル気ない人等だから、縄張りは北区と南区だけだが、あの人らが本気になったら、全国制覇くらいやってみせると思う。
…やらないでくれた方が平和でいいが。
で、だ。
話はズレたが、
今オレには、気になる奴がいる。
…その事でオレは、ここ最近ずっと悩んでいる。
何故なら、気になる奴ってのは――、
「………どしたの?カズさん。」
「うおっ!?」
「っ!?」
突然声をかけられ、オレはビクッと、文字通り跳ねた。
それにつられる様に、声をかけた奴も目を丸くして体を強張らせた。
「…おまっ、…ビックリさせんなよ!」
「こっちがビビりましたよ!!」
バクバクと早鐘を打つ心臓を押さえつつ、そう怒鳴りつけると、ソイツも負けずに言い返してくる。
コイツの名前は、r(アール)。
当然本名なワケは無い。
《陰/陽》では本名は名乗らないのが主流なんで、コイツも苗字か名前の一文字をとっているんだろうが。
金色に染めた髪に、青いカラコンをいれた、極平凡な顔立ちの男。
良く見れば割と整った顔立ちをしているが、それも中の上程度で、人ごみに紛れてしまえば、探す事は困難なコイツが、
オレの、気になる奴。
……そう、この男、が。
何がどうしてこうなったのか、自分でも問い質してぇ位だ。
15年間生きてきて、自分がゲイか否かを悩んだ事なんてなかったっつーのに。
初恋はベタに幼稚園の由紀先生で、その次もその次も普通に女で、越してくる前の中学では、それなりの経験も積んだ。
なのに、何で、
こんな平々凡々な男が気になってんだよオレは!!
「…何一人で百面相してんすか。楽しい?カズさん。」
「…全く楽しくねぇよ。」
暫く考え込んでしまっていたようだ。
オレの前にしゃがみこんで、膝に頬杖をつき、こちらを観察していたアールは、呆れたようにそう呟く。
コイツは喧嘩なんて全く出来ない弱々なガキのくせに、オレに怯える素振りも無い。
そーゆートコも、実は気にいってるのかもしんねぇが…
つか何だその上目遣い。可愛いじゃねぇかクソ←
「なら早く行きましょうよ。玄武さんが、今日はカズさんに乗せてもらえって言ってました。」
『ヨロシクです!』とペコリと頭を下げるアールの頭をくしゃりと撫で、オレはメットを持って立ち上がった。
アールは不思議な奴だ。
弱々なガキなのに、幹部連との繋がりがある。
コイツの面倒を見ろと紹介された時も、玄武さんが直接連れてきたから、玄武さんの身内か何かなのかと思ってたら、どうやら青さんにも可愛がられてるようだ。
よくからかわれてる姿を見かける。
そこまで考えて、思い至った。
仲良い玄武さんや青さんに相談してみるのはどうだろう、と。
幸い二人とも面倒見良いしな。
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