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とある店主の人観察。
※誠さん視点です。

(パラレルで、黒凛はお付き合い中です。)



「情けねぇ…いい年した男が、不安だなんてな。」


そう言って黒は、苦く笑った。


コイツとは長い付き合いになるが、こんな顔を見るのは初めてで、

改めて、コイツもただの一人の男なんだな、と再確認した。







「…どうかしました?誠さん。」


少し前の出来事を思い出し、ボンヤリとしていたオレは、気遣わしげな声で、我に返った。


こちらを見ている陰は、心配そうに眉を下げていて、オレは苦笑しつつも、彼の髪を撫でる。


「悪い。…ちょっと考え事してた。」


心配そうな表情の陰に、大した事じゃないよ、とつけ加えると、漸くほっとしたように笑う。


…可愛いなぁ。


正直、にやけている自覚がある。
まぁ、オレがこの子に抱く好意は、恋愛感情のソレでは無いが。


「今日は、黒は?」

「あ、後から来ます。」


今迄も決して仏頂面だったわけじゃないが、黒の名前を出した途端、陰の表情が綻んだ。


嬉しそうに。
愛しそうに。


誰が見ても、分かる好意。
一途な愛情。


けれど…あの男は、不安だと言う。


彼の…陰の一途さを知るからこそ、その献身的な愛が、もどかしい、らしい。


オレは黒じゃないし、断定は出来ないが、多分黒は、陰にもっと我が儘になって欲しいんじゃないか、と思う。


陰は、黒に多くを求めない。


貰ったモノ全てを、後生大事に抱えて、それ以上を欲しない。


そんな陰を愛しく思いながらも、歯痒いと思っているんじゃないだろうか。


『アイツは、オレが別れてくれっつったら、頷いちまいそうな気がする。…いや、そんな事、死んでも言わねぇけど。…………アイツが、オレを優先してくれんのは嬉しいが、オレの意志なんて無視する位の執着が欲しいってのは…我が儘だよな。』


黒の言葉を思い返したオレは、胸中で同意した。


この子は、お前の幸せの為ならきっと、身をひいちまうだろうな、と。



そんな時だった。


キィ、と音をたてて開いた扉から入ってきたのは、見たこと無い女。


ストレートの長い黒髪と、華やかな目鼻立ちが印象的な、キツめの美人だ。


「…いらっしゃいませ。」


こんな時間に通常の客が来るとは思えないが、そんな訝しみを微塵も出さず、オレは営業スマイルを浮かべた。


女は、そんなオレの胡散臭い営業スマイルに何の違和感も感じないらしく、気の強そうな美貌に、艶めいた笑みを浮かべた。


「…黒龍は、いるかしら?」


………。


オレは笑顔のまま、


またか。


と、思った。



黒に魅せられた奴は、それこそ、はいて捨てる程いる。
老若男女問わず、次から次へと溢れる程に。


けれど、あの圧倒的な存在感と美貌、そしてオーラに気圧され、大抵の奴は、近付けずに、遠くから見守るだけに終わるんだが。


…稀に、自分に自信のある勘違い野郎が、擦り寄って来る事がある。


この女も、きっとその一人。


確かにある程度整った容姿をしているが、それだけで、あの男を得られると思っているなら、勘違いも甚だしい。


アイツが求めているのは、そんなツラの皮一枚の薄っぺらいモンでは無い。


もっと深くて、ある意味貪欲なソレをアイツに与えられるのは、おそらくこの世で唯一人。


「……黒さんに、何の御用ですか?」

「!」


オレがくだらない分析をしている間に、そう問いかけたのは、勿論陰で。


オレは自分の迂闊さに舌打ちしそうになった。


これは、さっきまで懸念していた事態そのもの。


例え、黒にとってもオレにとっても、とるに足らない事でも、この子にとっては、見過ごせない事だ。


女は陰を見て、怪訝そうに眉をひそめたが、直ぐに意味ありげな笑みで、それを覆い隠した。


「…子供に聞かせるには、少し刺激的すぎるわ。」

「っ…!!」


黒との親密な関係をほのめかす女に、オレは思わず舌打ちした。


今迄、穏便に帰ってもらう方法を考えようとしていた脳が、即座に『排除』の二文字を叩きだす。


女に乱暴する趣味は無いが、これ以上は許せない。


そう、オレが動こうとした、その時、


凛とした声が、響いた。


「なら、取り次ぐわけにはいきません。」

「………え?」


女は、唖然とした顔で、陰を見た。


オレも思わず、目を瞠る。


けれど陰は、声と同じ凛とした表情で、静かに女を見つめていた。


「…な、…貴方、何なの!?何の権利があって私にそんな口をきいてるのよ!!」


激昂した女に、陰はつられる事も怯える事も無く、見惚れるような凛々しい立ち姿で、対峙する。


「権利ならありますよ。オレが、彼の恋人ですから。」

「………なに、言ってるの?アンタ。」


一瞬呆気にとられた女は、直ぐに、あり得ないと言いたげに嘲笑した。


ガチャ、

「………!」


そんな最中、ドアがまた開いた音が気がして、そちらに目を向けると、渦中の男…黒が入ってきた。

舌戦を繰り広げている二人は気付いていないようだが、黒は事態に気付いたようで、不快そうに眉を潜める。


「アンタ、男の子じゃない。…それ以前に、その程度の容姿で、あの人に釣り合うと本気で思ってるの?」


その発言に、オレは終わったな、と思った。


陰を溺愛しているアイツが、陰に対する暴言を許す筈が無いと。


けれど、無言でこちらに向かう黒は、何かを言う前に、言葉を失った。


大切な少年のくれた――待ち望んでいた言葉によって。


「釣り合うかどうかなんて、関係無い。…あの人は、オレのものなんだ。誰にも譲ったりしない。」

「…っ!!」


決然と言い放つ陰の背後で、黒は際限まで目を見開く。


驚愕を顔に貼り付けたまま固まった黒は、腕を伸ばして、陰の腕を掴んだ。


「…っ!!黒龍っ、」
「黒さっ…!?」


同時に叫んだ二人。

けれど陰の言葉は、不自然に途中で途切れる。


呼び掛けは…キレた黒の唇にかき消された。


強い力で陰を引き寄せた黒は、そのままの勢いで、ダンッ、と壁に縫い付けるように陰を囲い込む。


そして間髪入れずに、陰に、噛み付くように口付けた。


「……………。」


オレと女が唖然と見ている中、遠慮も手加減もまるで無い獣のような口付けが続く。


「…っ、ふぁ、」


苦しそうに喘ぐ陰の両手首を掴んだまま、何度も角度を変え、唇が深く重ねられる。


…逃がす気は無いらしい。


と、いうか、キスだけで終わるのか。あんな暴走している野獣が。


人前だというのに、黒は陰の足の間に、膝を割り込ませ、密着しているあたり、喰う気満々だろう。



濃厚すぎるキスシーンを見せつけられた女は、茫然自失。


ほんの欠片程、哀れだな、と同情していると、漸く解放してやったらしい黒は、ぐったりしている陰を、愛しそうに抱き上げていた。


リミッターが外れてしまっている黒は、壮絶な色香を振りまきつつ、オレに向かって手を出してきた。


「マコさん…鍵貸してくれ。」

「……………。」


オレはうろんな目で、深いため息をついた後、ポケットに入っていた仮眠室のキーを黒に投げた。



「……無駄だと思うが、一応。…あんま無理させんなよ?」


呟いたオレの言葉に、黒はニィ、とタチの悪い笑みを浮かべ、陰の額に、チュ、とキスを落とした。


「それこそ、無理だ。…今のオレには手加減の仕方が分からねぇ。」

「………………。」


激しすぎるキスのせいで、若干トリップしている陰は、暴れる事なく持ち運ばれてしまっているが、今から彼の身に降り掛かるだろう執拗な愛情表現を思えば、逃げろ、と助言してやりたい。


が。


今逃げたところで、捕まるのは時間の問題。


ならば、受け止めるより他にすべは無いだろう。



まぁ彼の中に、黒を拒む、なんて選択肢は端から無いだろうけど。


「……………。」


アイツ等が消えた先を見つめながら、オレはもう一度嘆息した。


なんつーか、本気で心配した自分が哀れだ。



なんのことは、ない。



結局は、のろけじゃねえか。
(アホらし。)


END

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