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王様彼氏
(パラレル設定で、暁凛はお付き合いしております。
※平行世界とは関係ありません。)
―――バキッ!!!
室内に、鈍い音が響く。
痛みを訴える右手を握り締めながら、ギッとオレが睨み付ける先では、
殴られた頬を押さえるでもなく、悠然と佇んだまま、切れて血が滲んだ唇を歪め、挑発的に笑む男がいた。
「………痛ぇな。」
親指で唇に滲んだ血を拭い、ペロリと舐めた男は、いましがたオレにぶん殴られたとは思えない程、機嫌良さげに、喉を鳴らして笑う。
エムか。エムなのか。
そんな、ドSっぽい容姿をしているくせにMなのか。
あり得ないツッコミを心の中でいれつつも、オレは盛大に鼻で笑った。
「痛くてなにより。…平手じゃきかないと思ったから敢えてグーにしたのに、これできかないとか言われたら鈍器持ち出すしかないからね。」
「オレを殺してぇのか?」
「まさか。」
オレの視界の端に、物凄く壁ぎわで小さくなってる不良さんらが見える。
溜り場であるバーでマジゲンカを始めてしまったが、実は少人数ながら、店には《ケルベロス》のメンバーが数人いた。
幹部連ならともかく、下の方の彼らは、突然始まったバトルに、口を挟む事も、逃げる事も出来ずに、ただひっそりと気配を消して見守る事しか出来なかった模様。
…本当、ごめん。
でも今更やめるとか、無理。
「…で?何か言い訳とかないの?」
「言い訳?何のだ?」
…前言撤回してぇ。
悪びれるでもなく、ニヤニヤ笑う男を、全力でくびり殺してやりたい。
「……アンタが寝てる筈の仮眠室から、服がはだけた女の子が、泣きながら出てきた件についてだよ。」
殺意を込めて睨み付けると、男は、傷を負っても尚麗しい、芸術品の如き美貌に、喜色を浮かべた。
伸びてきた御門の手が、ゆるりとオレの頬を撫でる。
「嫉妬か?」
「…………謝罪も言い訳もオレには必要ないとか、そういう事だって判断していいのかって聞いてんだけど?」
頬を撫でる手を、叩き落とし、オレは冷たく瞳を眇めた。
キレてるせいか、思ったよりよっぽど低い声が出た。
「言い訳するような事態じゃねぇって選択肢は無いのか?…信用ねぇな。」
「無いな。」
選択肢も信用も。
ゼロどころかマイナス値だ。
「てか、逆の立場だったら、アンタは静観してるわけ?」
オレの問いに、藍色の瞳を僅かに瞠った男は、次いで、夜の街の百戦錬磨のお姉さんも腰が砕けるような、壮絶に色香の漂う凄艶な笑みを浮かべた。
「女だろうと容赦しねぇ…二度とお前に近付け無いように、ありとあらゆる苦痛を与えただろうな。」
「……本当、最悪だなアンタ。」
「お前も、それ位やったっていいんだぜ?」
伸びてきた手が、オレの唇を辿る。
男は笑っていたが、その瞳は、笑っていなかった。
時折、こんな目をする。
オレに、同じ狂気を求めるような。
同じだけの執着を返せ、と言葉無く強要するこの目が、
……実はオレは、嫌いでは無い。
自分でも、末期だなーとは思うけど。
「………………。」
フゥ、と嘆息したオレは、もう一度、男の手を払い除ける。
「オレは女の子に、暴力をふるう気は無い。」
「………………。」
オレの言葉に、男は、分かりやすく不満を顔に出した。
眉間に寄ったシワを見て、苦笑したくなる。
アンタ、いつからそんな、素直な人間になったのさ。
オレは苦笑の代わりに、挑発するような笑みを唇に刷いた。
男の胸ぐらを掴み、グッと引き寄せ、挑むように告げる。
「…でも、アンタは許さないよ。オレ以外の奴に触れる気がおきなくなる位、徹底的に痛めつけるから。」
「………、」
至近距離の藍色の瞳が、瞠られた後直ぐに、甘く眇められた。
「………っ!?」
その目に見惚れている間に、何故かオレの視界は反転。
背中には堅い感触。前にはオレを押さえつける男の背中越しに天井が見える。
「何してんだよ!?」
押し倒されたビリヤード台の上から身を起こそうとするが、男はオレの上から退く気は無いらしい。
クッ、とさも楽しそうに唇を吊り上げた男は、オレの太股に、あろうことか、反応したモノを押し付けた。
「煽った責任はとれよ。」
「人前だしっ…あれっ!?いつの間にかいない…。」
何故か店内には、オレら以外誰もいなくなってた。
…いつの間に人払いを。
呆れつつも見上げれば、形の良い唇が降りてくる。
「……まだ弁解してもらって無いんだけど?」
「勝手に入って来た挙げ句、一人で盛り上がった女に、お前じゃ勃たねぇって言った事に関して、弁解が必要か?」
触れた瞬間から、獣のように深くなる口付けに翻弄されながら、オレは自分のモラル低下について、少しばかり悩んでしまった。
こんなトコでも受け入れちゃうとか、あり得ない。
でももっとあり得ないのは、
こんな俺様な王様を、
可愛い、と思っちゃったこと。
(まだやる気!?)
(この程度で足りるかよ。)
(やっぱり前言撤回してぇ!!)
END
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