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※設楽(陽)視点です。

(凛が志藤家のゴタゴタに巻き込まれている最中の辺りの時間軸で。)



「…良い顔つきになったな。」


そう言って微笑んだ白さんは、とても優しい目をしていた。


今迄のオレなら、気付く事が出来なかったものの一つ。
実の親よりも、慈しみを感じる眼差しは、恥ずかしくもあるが、それ以上に嬉しい。


「男前が、あがりましたかね?」


そう茶化すオレは、痛む頬や唇を無視し、笑み返した。


「大分な。」


男前が大分あがったオレの今の顔といえば、多分酷い有様だろう。
唇の横は切れて血が滲み、頬は腫れ上がって、明日には変色しそうだ。
奥歯は一本折れてるし、真剣に痛い。


…だが、気分は晴れ晴れとしている。


「…本当、君誰や、って位の変貌ぶりやな。」


暫く黙ってオレ達の会話を聞いていた朱雀さんが、珍しくも呆気にとられたように呟いた。


「まさか君が、総長に許しを請う日が来ようとはなぁ…人生どうなるか分からんモンやね。」


それは、オレも思った。

誰より憎くて、羨ましい相手に、まさか頭を下げる日が来ようとは、思いもよらなかった。


「重いの一発いただきましたよ。」

「いや、一発で済むなんて奇跡やで?」

「はい。」


真剣な顔で諭され、思わず苦笑する。


陰に盲目的になっていた頃には、気付けなかった一つ。


オレがあの人を憎んだように、
あの人もオレが憎かったんだ。


こうして、一発殴られる程度で許される事が、奇跡的な程に。


『…オレはな、もう何年も前から、お前を殺してぇと思っていた。』


静かに激昂していたあの人は、それでも、それ以上はオレに手を出そうとはしなかった。


それは、昔オレが思っていたように、
その程度の思い、だからじゃない。

…オレを殺したら陰が哀しむと分かっているからこそ。
自分の激情を押さえ込める程に、あの子を大切に思っているから。


「…道のりは険しいな。」


オレの呟きを拾った朱雀さんは、頬杖をついたまま、ニンマリ、と笑った。


「…で、どうなん?」

「…?何がです。」


主語が無い言葉に、訝しむ視線を返せば、チャシャ猫の様な読めない瞳が、益々細められた。


「君は陰に失恋したんやろ?」

「…はい。」

「でも、総長に許しを請うたんは、まだあの子の傍を離れる気が無いからやろ?」

「はい。」

「なら、陰やのぅて、凛、はどうや?」


朱雀さんに問われ、思い返す。


「…大人しそうな顔で、かなり強情で、たまにムカつきますね。」

「へぇ。」


オレの言葉に、白さんは目を瞠り、朱雀さんは、面白がるように目を眇める。


「考えるより先に体が動くタイプで、正直危なっかしいですし…無茶無謀で、ビビりのくせに妙な所だけ度胸が据わっていて厄介です。」


冷静に見た彼は、完全無欠とは程遠い。


――けれど、


「…あぁでも、笑った顔は、物凄く、可愛…………………………………………………何でもありません。」


可愛い、とは言い切れなかった。


それは、可愛いと思えないとかじゃなくて、


……物凄く恥ずかしくなったからだ。


「…顔、真っ赤やで。」

「……今の方がよっぽど、初恋っぽいな。」


赤くなった顔を隠しつつ、オレは二人の会話を聞いて、真剣に埋まりたくなった。


イタイ自覚は、ある。


だが、今の自分は、嫌いじゃない。


そう思えるようになったのは、君のお陰。


盲目に欲しがるばかりで、君をちゃんと見ようともしなかったオレと、真っ直ぐに向き合い、目を覚まさせてくれた、大切な君の。


これが、償いになるとは思わないけれど、


どうか。



今度は君を、護らせて欲しい。
(君を傷つけたこの手で、君を護る事は、可能でしょうか?)

END

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