Sub 拍手I 日下部視点。 《日下部のねこ。A》 「好きですっ!!」 「……………。」 顔を真っ赤に染め、ぎゅうっと目を瞑りながらも、必死に私に向かって想いを告げる少年。 彼を見つめながらも、己の眉間にシワが寄るのが、自分でも分かった。 …不愉快だ、という感情よりも、困惑が勝る。 今まで、影から熱心に見つめられたり、手紙や人伝いに想いを伝えたりは多々あれど、 こうして直接告白を受ける事など、ほぼ皆無に等しかったのに。 何故、最近はこうしてよく、呼び出されるようになってしまったのか。 「たまーに顔が緩んでるからじゃねぇ?」 「…………。」 ところ変わって、教室。 隣の席に座る志藤に、そう指摘され、私は唖然とした。 顔が……緩んでる? 「…自覚無いんだ。」 欠席時のノートを写していた志藤は、一端ペンを止め、呆れたように嘆息する。 「日下部さ、たまに思い出し笑いしてるぜ?後、窓の外…つか、校庭見て笑ってる時もある。」 私は正直、愕然とした。 己の事なのに、全く自覚が無かった。 「お前が『丸くなった』のか『おかしくなった』のか、意見は分かれるトコだが、…『好きな子が出来た』って説も有力になってきてな。お前の親衛隊とかは、遅れをとらないように熾烈な争いが繰り広げられてるらしいし…そのせいじゃね?」 「………好きな、子?」 私が、ゆっくりと呟くと、志藤は、『へぇ…?』と面白がるように瞳を眇めた。 だが、それを咎めるような余裕は無い。 確かに私は最近、ある人物を目で追う傾向がある。 彼は、極々平凡な高校生男子で、別に特筆して注目すべき点がある訳では無い。 けれど私はふとした時、 無意識に、彼を探してしまう。 例えば授業中、 校庭で体育に参加する彼は、眠そうに、目元をこすっていたり。 例えば昼休み、 渡り廊下で、先を行く友人の背にちょっかいかけたり。 なんて事無い日常のヒトコマなのに、目が離せなくなる。 「…私にとって彼は、ただの可愛い後輩だった。…その感情が劇的に変化する何かがあったわけでは無いぞ。」 私が困惑して、そう独り言のように呟くと、志藤は何とも言えないような顔になった。 私の恋愛相談にのっている自分、という図が、どうにもいたたまれない感じなのだろうが、 それは此方も同じだ。 普段の己なら、コイツに相談なぞ、絶対にしない。 だが今は、ワラにも縋る思いだ。 私がじっと見ていると、志藤は疲れたように嘆息し、呟いた。 「…劇的な変化じゃなくても、緩やかに降り積もるモノもあるんじゃね?」 いつの間にか『恋』になってた、なんてのもアリだと思うけどね、なんて締めくくる志藤の言葉を、私は最後まで聞いていられなかった。 己の思考に捕われて。 可愛い、君。 けれど強い、君。 真っ直ぐで、優しくて、でも意外に頑固でその上鈍い。 新たな彼を知る度、 ああ。確かに私の気持ちは、―― 降り積もっていたんだ。 私はいつの間にか君に、 恋、を――していた。 END [*前へ][次へ#] [戻る] |