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拍手H 桐生視点。
《斎藤凛についての考察》
桐生鴇の場合A
(のろけ編)
「ちは。…お久しぶりです、誠さん。」
その店のマスターはオレを見て、訝しげに眉をひそめ、暫くしてから大きく目を見開いた。
唖然とした顔のままオレを指差し、何度も瞬きを繰り返す。
…そんな、化け物見たような反応しなくても。
「…………おま、……………もしかして、鴇か。」
オレは苦笑して、軽く頭を下げた。
「ご無沙汰してます。」
「……しっかし、人間変わるもんだな。」
しみじみとそう呟くのは、南区の外れにあるバー『Lair』のマスターこと、三神 誠(ミカミ マコト)。
オレが若い頃、お世話になった人だ。
「そうですか?髪の色戻して、多少、年食ったくらいでしょ。」
オレがそう言うと、誠さんはあからさまに顔をしかめた。
「何言ってやがる。昔のお前は最っ低だったろーが!!ギラギラ肉食獣の目ぇして、引っ掛かった女、端から全部喰って、しかも一回きりの使い捨て。喧嘩と酒と煙草と女、全部やりたいだけヤッて、そのくせ何にも執着しませんみてぇな冷めた目で生きてたような奴だったろ、お前は。」
「……………返す言葉もありません。」
そうやって過去の恥を他人の口から聞くのは、予想以上にダメージでかいな…。
昔はオレも若かったんだよ。
気の知れた仲間らと、族なんてモンをつくって、いきがってた頃があった。
「…今でもたまーに来るんだぜ?お前が忘れられない女の子らが。『獅子(レオ)に会いたいの…』ってな。」
「…勘弁して下さい。」
金色に染めたオレのくせの強い髪が、タテガミみたいにみえたらしく、その頃オレは、『獅子』や『レオ』と呼ばれていた。
一回きりの相手に本名を教えるワケもなく、彼女らはオレの通り名しか知らないのだから当然なのかもしれないが…未だにそう呼ばれているのは、かなり複雑だな。
「…で?随分落ち着いたみてぇだけど、今は真面目なオツキアイしてんのか?」
ちゃかしたように言う誠さんに、オレは少し考え、正直に話した。
「彼女はいません。…好きな子はいますけど。」
「ブッ!!」
…真面目に言ったら、あろう事か、吹き出された。
「似合わねぇ!!好きな子とか言うなキメェ!!」
「酷ぇ…」
散々な言われ方にオレはため息をついた。
…まぁ、自業自得か。
「お前にそんな事言わせるなんて、相手人間か?」
「………失礼すぎでしょ。ちゃんと人間です。………大分年離れてますけど。」
「おいおい。犯罪はよしてくれよ…。」
「もう二年もすれば結婚出来る年になりますよ。…まあ、結婚は出来ませんが。」
日本じゃ。と事も無げに付け加えると、誠さんは、全力で目を見開いた。
「………男!?お前が!?どんなに美少年だろうと可愛いかろうと、男は全力で排除して近寄らせなかったお前が!?」
「ごく普通の高校生なんですけど…凄ぇ可愛いんですよ。」
「その上惚気るとか止めろ!!これ以上オレを混乱させるな!!」
オレの笑顔を、誠さんは嫌そうに見てキレた。
だがオレは、気にせず続ける。
「一見、地味で大人しい文学少年なんですけど、物怖じしないし、素直で優しい子です。あ、後女の子真っ青なくらい家庭的。」
「…お前、誰。」
疲れたように誠さんは肩を落とし、息を吐き出した。
そして何故か、釈然としない様子で、首を捻る。
何か、そのイメージ知ってる気がすんだけどなぁ、とかブツブツ言っている。
しかし、惚気るってのは、案外楽しい。
新たな発見ついでに、今度はあの子をつれてきてみるのもいいかもしれないな。
…見せびらかす、ってのも楽しそうだ。
そうオレは笑い、今はここにいない彼の顔を思い浮かべていた。
END
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