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ご飯ですよ。
で、だ。
件の昼休みですよ。奥さん。
今、オレらは特別棟の屋上にいます。
一応立ち入り禁止なので、人影はなく、内緒話にはうってつけ。
西崎は日当たりの良さそうな場所に座り、購買の袋を開けた。
人一人座れる程度の空間を開けて、隣にオレも座る。武藤はオレの斜め前にどっかりと腰を下ろし、落下防止のフェンスに背を凭れた。
もそもそとカレーパンを貪っている西崎を一瞥し、話は食べ終わった後なんだろうな、と判断したオレは、自分の弁当を開ける。
行儀良く手を合わせ、いただきますと告げてから、箸をとる……が、斜め前から視線を感じる。
食い辛いから見るな、と声はかけなかった。
ここで反応を返してはいけない。そう理解しているオレは、無言で弁当に手を付けた。
「…………」
無視して弁当をパクつく。
「……」
パクつく。
「おい」
意地でもパクつく。
「…………」
「あっ!?」
無視していたら、前から伸びてきた手が、オレの弁当から卵焼きを掠め取っていった。
「何すんだよ!?武藤!」
「無視するからだ」
「当たり前だ!また人のオカズ寄越せとか言う気だっただろ!?」
弁当を死守すべく、抱えたまま睨み付けると、もう用は済んだとばかりに武藤は、自分のカツサンドを食べ始めている。
最初っから、そっち食えやぁあああ!!
「ケチくせぇ……減るもんじゃねぇだろ」
「いや、確実に減るよね?寧ろ自信満々に、減らないとか言い張る理由と根拠を聞かせてもらいたいくらいだよ??」
悪びれるどころか、傲慢不遜な態度を崩しもせず、上から目線でものを言ってくる武藤に、怒りを通り越して呆れた。
諦めの境地でため息一つ吐き出し、オレは再び弁当を食べ始めた。
「お前がオレの弁当もつくれば、別に取ったりしねぇし」
「ヤだ。お前注文多いんだもん」
王様な提案を、素気無く却下した。
だってコイツ、好き嫌いが多過ぎる。
食えないモンは無いらしいが、嫌いなものはかなりあって、野菜炒めの葱は抜けだとか、ムニエルじゃなくて塩鮭にしろとか、一々五月蝿い。
お前は亭主関白な旦那か、と突っ込みを入れそうになった程だ。
普段、必要最低限しか喋らないくせに、そういう時だけベラベラ喋るのが、また癪にさわるんだ。
「そんなに手作り弁当食いたきゃ、ファンのコに作ってもらえば?」
「……」
オレが提案すると、武藤は嫌そうに顔を顰めた。
武藤はかなり取っつきにくい外見の為、気安く寄ってくる輩こそいないものの、隠れファンは多い。
まぁ、これだけ美形だったら、納得だけど。
「お前のファンって、料理好きそうな可愛いタイプのコばっかりだし。しち面倒臭いお前の注文も、嬉々として聞いてくれるんじゃない?」
「冗談じゃねえ」
はき捨てるように言って、武藤はそっぽを向く。
提案しておいてなんだけど、まぁ、そうだろうなと思った。
そんな事をしようものなら、絶対に彼女……じゃなかった、彼氏顔される。その上、修羅場も必須。
今までファンを寄せ付けないようにしていた武藤が、特別扱いしようものなら、絶対血を見るだろう。
そもそもノーマルなコイツが、恋情を向けてくる子らに、好意的に接する事なんて出来る筈も無く。
だからこそ、正真正銘、ただの友達であるオレに言ってくるんだろうけどね。
そんな事を思いつつも弁当を食べ終えたオレは、『ご馳走様でした』と箸を置くと、その話題に興味をなくし、今度は西崎に向き直る。
一人我関せずと無言で食事をしていた西崎は、とっくに食べ終わっていたらしい。
紙パックの烏龍茶を啜りながら、携帯を操作していた彼は、オレの視線に気付き、顔を上げる。
「痴話喧嘩は終わったか?」
「うん。ダーリンてば、我儘で困っちゃう」
「……」
西崎の言葉に棒読みで返すと、武藤は何とも微妙な顔をしていたが、この際無視で。
「じゃ、本題に入るぞ」
声のトーンを僅かに落とし、そう告げる西崎に、オレは無言で頷いて、居住まいを正した。
「最近広まっている噂に関して話すが……その前に一つ、確認する。斎藤、お前、外部生だよな?」
「ん?ああ、そうだけど」
「オレと武藤は、中等部からの持ち上がり組だ。この学園の生徒の大半が、そちらに分類される。だが斎藤、お前と同じく、さっき呼び出された石田も外部生だ」
話の流れから、西崎の言いたい事を汲み取り、オレは眉根を潜めた。
「……外部生だけ呼び出しているのか?何の為に?」
「そこで、噂が絡んでくる」
「……どんな?」
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