Main 先輩 あれから、しずかちゃんのお母さんと別れ、オレはしずかちゃんと共に、ある部屋の前にいる。 「失礼致します。」 声をかけ、しずかちゃんが開けた障子の向こう、 「…………、」 畳の上に敷いた布団の上、上半身だけ起こした男性は、まるで紙のように真っ白な顔をしていた。 多分、年齢的には40代位な筈。 けれどもっと年上に見えてしまうのは、痩せ衰えた身体のせいだろう。 皺のよった手は、指一本で折れてしまいそうにか細い。…枯れ枝のように。 「…静か。」 けれど、低い声は威厳を持ち、表情も厳しく、凛としている。 病床にあっても尚、当主として相応しくあるこの人が、 「お早ようございます。父上。」 しずかちゃんの、お父さん。 「…其方も、静のご学友か?」 そう言われて、オレは、ハッと我に返った。 挨拶しなきゃ、とオレが視線を向けた先、 しずかちゃんのお父さんの横で、こちらに背を向けて座っていた人が、振り返る。 サラリ、と漆黒の髪が揺れ、眼鏡越しに、硬質な光を宿す瞳が、オレを見て 大きく、見開かれた。 「……………。」 「……………。」 オレも彼を見て、目を瞠る。 音も無いまま、彼の形の良い唇がオレの名を、綴った。 凛君、と。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |