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桐生センセとオレ。


 そんな騒動があった、数日後。
 
 昼休みの数学準備室にて。


「は?編入生?」


 目を丸くしたオレは、桐生センセの言葉をオウム返しにした。

 何故昼休みにこんな場所にいるかっていうと、数学の係りなオレは、先生様の命令によりクラス全員分のプリントをお届けに上がった次第であります。

 とっとと戻ってメシを食いたいのだが、何故か世間話に付き合わされている。

 世間話っていうか、愚痴か。

 いつも緩い雰囲気で余裕なセンセが、珍しくぐったりとしていたから、つい労わってしまったのが、原因。
 忙しそうですね、というオレの言葉に、聞いてくれるかとセンセが顔を上げた辺りから、自分が間違った選択肢を選んだ事に気付いた。

 オレの大事な昼休みが、刻々と減っている。何て事だ。


「会議は増えるわ、試験問題つくらにゃならんわ……凛ちゃん、オレを癒してくれ」

「……オレに癒しを求めるあたり、無謀ですよ」


 とっとと切り上げて、オレはオレの癒しの為、メシを食って昼寝したい。
 そうは思いながらも、弱っている人間には強く出れないのが、オレの情けないところです。

 分かり易くため息を一つ吐き出し、不承不承といった体で、センセに近付く。
 机に突っ伏した男の肩を、背後から揉んでやった。

 ……何だ、これ。尋常じゃない張り方だな。


「センセ、鉄板ですよ。ちゃんと適度に運動した方がいいです。体も冷やさないように」


 我ながらオカンみたいだな、とゲンナリしながらも注意すると、センセは何故か嬉しそうに笑った。


「たまーに優しいんだよなぁ……」

「え?何か言いました?」


 ボソリと小さく呟かれた声が拾えなくて、聞き返す。でもセンセは繰り返す気はないようで、何でもない、と機嫌良く笑った。


「ところでセンセ。編入生って?随分、中途半端な時期に来るんですね」

「だよなぁ。せめて二学期からなら分かるんだが……」


 センセはオレの質問に答えながらも、気持ち良さそうに目を瞑って、オレのマッサージを受けている。
 畜生。無料奉仕なんて柄じゃないのに。

 でもあまりにも凝っているので、何故か解さなければならない使命感が湧いてくるんだ。


「ちなみに、何年生ですか?」

「確か、1年に1人と2年に2人だったかな」

「……は?」


 あっさりと放たれたセンセの言葉に、ピタリとオレの手が止まる。


「え?おかしいでしょ、ソレ」

「まぁ、あんまり聞かない話だな」


 一瞬、聞き間違いかと思った。
 だが、体を起こしたセンセの苦笑を見るに、その線は消えるらしい。


「今時期に編入なんて、それだけでも大分珍しいのに、三人ってなに。……もしかしてボディーガードとか?」


 一気に三人も編入って、おかしいだろう。編入してくる奴もおかしいが、受け入れる学校もイカレている。

 そこまで考えて、もしやこの学校だからこそ有り得るのか?と思った。
 非常識が常識となる、金持ち学校――天陵ならば、お金次第で融通を利かせられる面も多い。

 過保護な親が、手の届かない寮に入れる事を心配して、同年代の腕の立つ奴をボディーガードとして雇ったとか、そんな漫画みたいな設定も、この学校ならありな気がしてくる。

 4割の偏見と6割の真実で、オレはそう考えた。


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あきゅろす。
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