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餌付け?
もう一度溜息を吐き、オレはポケットを探って携帯を取り出した。
「………あ、西崎? オレおれー……って詐欺じゃないよ間に合ってますじゃないよ切ろうとしないでね? ハルちゃんの大事なダーリンだよ? ……ってゴメンなさい。本当、調子こいてスンマせんでしたぁあああっ!! ……ああハイハイ。本題言わせてもらいますので、キレないで! えーとですね、昼飯適当な場所で食ってから帰るんで、先食べててい……あ、そうね。待ってるなんて微塵も期待してなかったよ。泣いてなんかないんだからね!? ……っておーいハルちゃーん、せめて最後まで言い切らせて下さーい」
泣いてなんかないんだからね、の泣いてな……まで言ったところで無情にも通話は切られた。ハルちゃん、ソー・クール!!
阿呆な電話を終えたオレは、相変わらずオレの足を掴んだままのAさんに、ズイと手を差し出した。
「……?」
掴んでいたオレの足を離して、Aさんはオレの手から、銀色の物体を受け取る。
彼の大きな掌の上でコロンと転がった塊を眺め、Aさんは首を傾げた。
掴まれていた足を漸く解放されたオレは、芝生の上にドカリと胡座をかく。
「……これは?」
「見て分かりませんか? おにぎりです」
答えながらも、弁当箱を開けたオレは、蓋の上にひょいひょいとオカズを取り分ける。唐揚げ二つに卵焼き一つ。ウインナーは奇数なので一個半。ほうれん草とコーンのバター炒めは適当。
顔をあげると、いつの間にかAさんはオレの隣に座っていた。
アルミホイルに包まれたおにぎりを、ぼんやりと眺めるAさんに、半分こにしたオカズを渡す。目の前に差し出されたものを、Aさんは不思議そうに見た。
なんでそんな顔してんだろう。
まさか、『何で全部くれないの?』って言うつもりじゃないだろうな。
「オレも食べるんで、全部はあげられませんよ。半分こです」
「………はんぶんこ」
牽制を込めて軽く睨みながら言うと、Aさんは、初めて聞いた単語みたいにオレの言葉を繰り返す。なんで片言。
彼の行動言動、全てが理解不能だったが、オレは考えを放棄した。
腹減ったし。あとは勝手にすればいい。
いただきます、と手を合わせてから、オレはほうれん草に箸を伸ばす。食べ始めたオレを見て、しばらく考え込んでいたAさんも、ようやくオニギリを口に運んだ。
バクリ。
綺麗な顔に似合わず、大口を開けてAさんはオニギリに食らいつく。
もぐもぐと良く咀嚼し、飲み込んだ。
「…………」
そのままの姿勢で、Aさんは固まる。
オレも同じようにオニギリにかぶり付いてみたら、シャケだった。
だからAさんの方は、おかかな筈だ。無難な具なのに、なんで固まってるんだろ。もしかして、ベタに砂糖でもまぶしてしまっただろうか。
訝しむオレをよそに、Aさんは何を思ったか、いきなり勢い良く食べ始めた。
どうしたよ!?
見る見る消えて行く、おにぎりとオカズ。
唖然としたオレは、一生懸命食べるAさんの横顔を思わず見守ってしまった。
卵焼きを口に放り込んだAさんは、傍目にも分かるくらい顔を輝かせる。
「うっま!」
母直伝の甘めの卵焼きは、どうやらお気に召した模様だ。
唐揚げを食べても、ホウレン草のソテー食べても、Aさんは一々美味いと言ってくれた。
まぁ、空腹は最高の調味料と言いますし。
無難な味のオレの料理を、ちょっと大袈裟すぎるんじゃないかとも思うが。それでも、誉めてもらえるのは嬉しい。
なんだ。
この人、そんなに悪い人じゃないのかも。
礼儀知らずだと責めてしまったが、こうして出されたものに文句も言わず、美味しいと食べてくれるのを見ると、性格が悪いとも思えない。
むしろ、簡単にキレたオレの方が質悪いかも……。
でも、最初の態度が悪かったのも事実だし、謝るつもりはない。
「……」
少し悩んだ後、オレは、綺麗に無くなっていくAさんの弁当の蓋の上に、自分の分の卵焼きと唐揚げ一個を乗せた。
「……いいの?」
キラキラした目で、Aさんはオレを見る。
「どうぞ」
ボソッと呟くと、Aさんは甘くとろけるような笑みを浮かべた。
「ありがと!」
……ゴメン。
前言撤回する。
この人、ちょっと可愛いかも。
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