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「さぁな。来てみれば分かるだろ」

「……興味ゼロですね」


 あまりにも投げ遣りな態度に、思わず目が据わる。
 掘り下げたオレが馬鹿みたいじゃねえっすか。

 相手してやってんだから(上から目線)、もうちょっと頑張って話広げようよ。

 渋面をつくったオレを見て、センセは数度瞬く。
 それから何故か、今までとはガラリと雰囲気を変え、笑んだ。

 鋭い目を甘く細め、薄い唇の端を吊り上げるセンセは、いつもと何か違う。……何と言うか、艶っぽい……いや、妖しい。これが一番的確な気がする。

 思わず一歩後退ったオレの手を取り、引き寄せた。


 ん?


 んん??


 視界がぐるりと反転する。普段はあまり見る事のない天井を目に映し、オレはパチパチと数度、瞬いた。

 元々白かったであろう天井の石膏ボードは、薄ぼけたベージュへと変色している。原因は経た年数か、それとも煙草のヤニか。
 さして重要でもない事を考えつつ、ぼんやりと眺めていた視界に、男が割り込んできた。


「……センセ?」

「無防備だな……」

「っ!?」


 低い声音を直接、耳元へ流し込まれた。
 そこでオレは漸く、事態の異常さと身の危険を感じ、ギクリと体を強張らせる。


「……せ、せせセンセ??この体勢は何?」

「……さぁ?何だろうな」


 センセの唇が、にんまりと弧を描く。
 その蠱惑的な笑い方に、オレは戦慄した。

 ぎゃぁあああ!!エッロ!!
 何その流し目!何その低い声!!傍にいるだけで孕みそうなんですけど!!

 狼狽するオレの様子を、センセは楽しんで見ていた。
 長い指が色めいた仕草で、オレの頬を、つぅと撫でる。ビクリと体を跳ねさせるオレを射抜く瞳は、獰猛な獣のよう。

 罠にかかった憐れな獲物を弄ぶように彼は、笑みを深めた。


「編入生なんかよりも」

「ひゃっ!?」


 くつり、と喉を鳴らす笑い声と共に、耳に温い風が吹き込まれ、オレは身を震わせた。

 いいい、息を吹き掛けるなぁー!!

 耳を押さえるオレを、至近距離で覗き込み、センセは殊更甘く囁いた。


「オレはお前に……凛に、興味がある」

「っ!!」


 もう無理だ。疾うに限界点は突破している。
 感情が命ずるままに、オレは勢いよく、センセを突き飛ばした。


「…………」


 オレの腕のリーチ分離れた距離で、センセは目を丸くしている。
 恐らく、かつてない程顔を真っ赤に染めたオレを凝視し、彼は。


 ……あろうことか、噴き出しやがった。


「っ、くく……はははっ!!」


 退廃的な美貌に笑い皺を刻み、体をくの字に曲げたセンセは、正しく爆笑していた。
 腹を押さえ、息切れを起こしながらも、快活な笑い声を響かせている。

 呆然とその様を見守っていたオレの腹の底から、ふつふつと何かが湧き出す。
 コレが殺意ってやつですね。分かります。

 からかわれた……桐生センセなんかに、からかわれた!!何たる屈辱!!

 今度は怒りで顔を赤く染め、オレは肩を震わせた。
 
 この変態エロ教師が!いつかセクハラで教育委員会に訴えられるがいい!!


「……もうオレ行きますから」


 屈辱でぶちキレそうになりながらも、これ以上からかわれたくなかったので、努めて冷静に言った。
 だがセンセはまだ、笑いをおさめる様子もない。


 ああああああムカつく!!くたばれ破廉恥教師!!性病移されろ!!


 ドスドスと足音をたてて、準備室を出ていくオレの後ろで、まだセンセの笑い声が聞こえていたが、無視だ、無視!!



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あきゅろす。
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