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「……つかオレ、会長も副会長も見た事無いや」


 独り言のつもりの呟きを拾った西崎から、ツッコミが入る。


「入学式で挨拶していただろうが」

「……サボりました」

 てへ☆と小首を傾げると、西崎は物凄く厭そうに顔を歪めた。


「キモい」

「酷い」

「……お前は本当に、外見を裏切るな」


 呆れを隠しもしない視線を向け、西崎は疲れたように吐き出した。
 その呟きは先日、センセが言ったものとほぼ同じ。自分では意識していない、というか考えた事もなかったが、二人に言われると言う事は、そうなんだろう。


「黙っていれば、真面目で勤勉な模範生に見えるというのに、中身は不真面目で、思い切りの良い阿呆……最早、詐欺に近い」

「ハルちゃん……愛が痛いよ」

「そんなものは、欠片も持ち合わせて無いから安心しろ」


 芝居がかった仕草で俯くが、バッサリと切り捨てられた。
 取りつく島がないとは、この事か。


「まぁ、そんな事はどうでもいい。話を元に戻すが、その総長が、どうやら人を探しているらしい。それも恐らく、敵対チームの誰かを」


 早々に阿呆会話を打ち切り、西崎は話を本筋に戻す。
 真顔になった西崎につられるように、オレも表情を引き締めた。


「……何で、敵対チームだって分かるんだ?」

「確証は無い。ただ呼び出す対象が外部生だという事実から、そう推測したにすぎない」


 低く問うオレに、西崎はあっさりと明かした。


「南区に大きなチームが一つ、それから東西にも小規模なチームがいくつかあった筈だ。その中の誰かが、勇敢にも入学してきたのかもな」


 大した興味もなさそうに、西崎は付け加えたが、オレは内心で憤慨した。

 馬鹿言え。
 ワケ分かんない内に、勝手に放り込まれたチキンがここにいるんだ。そいつだって知ってて入ったとは限らんだろ。

 私情を挟みまくりで、見た事もない人物の肩を持った。

 心情的には、物凄く同情する。
 なんて言うか、他人事とは思えない。


「……つーか、オレは見た目で不良のラインから外されたの?石田はドナドナされたのに」


 西崎の話と教室での出来事を総合して見てみると、そうなる。
 敵対チームの構成員で且つ、総長に探される程の要注意人物には見えなかったからこその、無罪放免だったと。


「恐らくな。黒目黒髪で生白いモヤシを、不良だろうと判断する奴は、相当根性がねじ曲がっている」

「酷ぇ言われ様だ」


 真顔の西崎に、オレも真顔で返した。
 簡潔に表したオレの紹介文が、分かり易いからこそ酷い。

 オレらのそんな遣り取りを傍観していた武藤だったが、何かに気付いたように顔をあげた。


「……でも凛。お前一応、ピアスしてるんだな」


 ふと、武藤の視線がオレの耳で止まる。彼は手を伸ばして、オレの左耳に掛かった髪をかきあげた。

 武藤が触れたオレの左耳には、透明度の高い青のピアス。
 小さいものだけど、本物。しかも良質のサファイアだったりする。


「……うん。貰い物だけどね」


 手を伸ばせば、馴染んだ硬質な感触。
 このピアスを貰うまでは、穴をあけようと考えた事すらなかったと言うのに。今では無い頃の自分の耳朶の感触が思い出せないんだから、重症だ。


「……そういえば、石田ってもう戻って来たのかな?」


 オレの問いに、西崎は頷いた。


「恐らく戻っているだろう。呼び出された奴は全て、すぐに解放されているらしいからな」

「ふーん……」


 適当な相槌を打ちながら、視線を手首へ落とす。シンプルなアナログ時計が指す時間によれば、昼休みはあと十五分ほど。

 オレは立ち上がって、制服の汚れをはたいた。


「凛?」

 何処へ行く?そう武藤に目で問われ、ヘラリと笑う。


「教室。先戻るわ」


 ひらひらと手を振り、屋上を後にしたオレは、教室へと急ぐ。

 気が急いていたオレは、気付けなかった。



 オレの背を見送っていた二人が、酷く難しい顔をしていた事に――。

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