Main 日常。 「次、何処だっけ?」 机の中から教科書を取り出しながら、オレは前に向かって問いかける。 前の席に座る男、西崎は、考える素振りも見せずに、間髪入れずに答えた。 「知らん」 何とも潔い返事を寄越したのは、西崎 春人(ニシザキ ハルト)。 入学式で意気投合した、一番仲の良いクラスメイトだ。 オレと同じく、周りに直ぐ様溶け込めそうな平凡な容姿だが、成績はトップクラス。 ちなみに秀才型じゃなくて天才型。 テスト前に勉強法を聞いた時に、『授業を聞いていれば十分だろう』と鼻で笑われたのは、割と新しい記憶です。しかもノート取っていないと知った時の衝撃ったら無かった。 コイツの脳みそ、高性能すぎるだろ。 大体、授業聞いていれば十分とか言うけれど、こいつ、その授業さえも、よくサボっているから。 まぁ、オレもよくサボるから人の事は言えないけど、オレは授業態度に見合ったそれなりの成績だしね。(威張れる事じゃない) 「視聴覚室だっけ?」 「……」 当てにならない西崎は放っておいて、隣の武藤に訊ねると、彼は無言で頷いた。 オレの隣の席に座る、無表情の美男子の名は、武藤 蓮(ムトウ レン)という。 アッシュグレイの髪をワックスで立て、左耳に3つ、右耳に2つのピアスをしている武藤は、外見だけ見ると、まんま不良さんだ。 背もオレより20p近く高いし、ピクリとも表情を変えない美貌も相まって、かなり迫力があるが、実は結構イイ奴だったりする。 口数は少ないが、オレにとっては西崎と同じ位大切な友達だ。 「視聴覚室かー……地味に遠くて怠いな」 さぼるか? 心の中で呟くと、それを読んでいたかのように、武藤は机の上のオレの教科書を取り上げた。 「……行くぞ」 ……サボろうとした事は、バレバレだった模様です。 オレよりよっぽどサボりそうな武藤に、窘めるような視線を寄越されてしまった。 ただでさえ成績悪い野郎が、いっちょまえにサボってんじゃねぇよ、とのお声が聞こえてきそうです。 「へーい」 渋々立ち上がり、武藤の後に続く。 人質ならぬ物質にとられていたオレの教科書を、武藤の手から奪い返し、西崎を振り返ろうとした。 ――その時。 スパーン!! と、勢いよく教室の扉が開いた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |