《 Book 》 6 「そろそろ行くかのう」 「…はい」 チャイムが鳴ってから、約、十分。 きっと私の頬は赤くなってしまっているけれど。 そろそろ現実に帰らなくてはならない時間。 教室の電気を消して廊下に出ると、途端に少し寂しくなった。 「仁王君」 「何じゃ?」 「…手を、繋いでも良いですか?」 私からは滅多にしないようなお願い。 この顔は益々赤くなってしまったに違いない。 軽くうつ向くと、先程までとは逆に私が頭を撫でられる。 「お安い御用ぜよ」 それから、隣にいる彼は柔らかに微笑んで。 私の手を取り指を絡めた。 授業が終わって、部活も終わったら。 今日は手を繋いで帰ろう。 夕焼けで赤い空の下を。二人で一緒に。 「先生にはどう言い訳しましょうか…」 「教室でキスしてました、って正直に言ったらどうじゃ?」 「…仁王君!!」 「睨んでも無駄じゃ。可愛いだけぜよ」 「もう、知りませんから…」 「ピヨ」 あなたといる時間は、いつだって楽しい。 あなたといるから、いつだって幸せ。 素直な気持ちを噛み締めながら廊下を歩いていると、温かい空気が頬の横を通り抜けた。 もう、夏は近い。 END 後書き→ [前へ][次へ] |