《 Book 》 5 気が付くと、私は心地の良い温もりの中にいた。 さっき迄より強く感じる、仁王君の香り。 ああ、私は今抱き締められているのだ…。 最愛の彼に……。 気づいた瞬間、幸せな気持ちに包まれて。 左右に垂れていた腕で精一杯彼を抱き締め返した。 気まぐれな銀の髪が、頬に当たって擽ったい。 「心配しすぎなんは、柳生も一緒じゃ」 「そんな事は…」 「大丈夫、ちゃんと分かっとるから」 “ありがとう” そう呟いた小さな声が、体に直接響いてくる。 「キス、してもよか…?」 いつも勝手にするくせに。 唐突な言葉に反応して浮かんだ台詞は、心の中に留めておいた。 でも。返事をするのはやっぱり恥ずかしいから。 分かりきった答えを口にする代わりに腕の位置を彼の首へ移す。 「好いとおよ…。他の誰より」 「私もです」 近づいてきた彼の綺麗な顔が触れ合う寸前で止まって。 小さく笑い合ってから、優しい口付けを交した。 [前へ][次へ] |