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《 Book 》


「そっ、そんな嘘信じないから!」

「どうぞご自由に」

言いながら帰る仕度をした。これ以上この場にいても無駄だと判断したから。
背中越しの存在に動揺しそうになる心を抑え込んで。それでもなんとか感情を押さえ込んで。精一杯堪えた速度で、スッとドアへ近づく。
こんな時だけは、よくからかわれたこの眼鏡の存在がありがたかった。

しかし。
装った平常は、所詮偽物でしかなくて。

彼女のたった一言で、簡単に暴かれる事になる。


「お前だけだ…って、雅治が言ってくれたんだから!」


体が半分だけ教室から飛び出したところで、叫ぶようにそう言った声が耳に届いた。


「…そう、ですか」

ビクッと震えた体を慌てて抑えても、きっともう遅い。彼女にも見られてしまった事だろう。


“柳生だけじゃ…。俺は、柳生以外何もいらん…。”

彼はいつも、優しい声で私にもそう囁いた。
だから私はその度に絆されて。貴方といる為だけに馬鹿な男であり続けてきたけれど。
本当はあの甘ったるい表情すら、お得意のペテンでしかなかったのだろう。

「でしたら、仁王君に伝えておいてください」

頭が痛い。
吐き気がする。
肺が押しつぶされるような錯覚。
何度聞かされても現実に慣れないのは、貴方をまだ好きでいる証拠――。

だけど…。

貴方といると苦しくて。
貴方のせいで痛くて痛くて。
何だか本当に、疲れてしまった。

「“別れましょう”と…」

だから、さよならしましょうか。
ねえ、仁王君。













「そんなん許さん」




廊下に響いた。
愛して止まない、貴方の声。


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