《 Book 》 4 意図は分からないが、とにかく私を騙していた彼。 きちんと叱らねばと思ったのに。 実際は出来なかった。 不機嫌な調子で振り向いた先に、余りにも悲しそうな顔があったから…。 「離れんって、言ったばっかりじゃろ…?」 涼しげな表情は一体どこへやら。不安気な声はまるで子供。 普段からは考えられないような姿を見せる彼を前にして、こみ上げる笑いをなんとか堪える。 「これを、机に置きに行こうと思ったんですよ…」 落ちた物を拾って見せて囁けば、余韻と更に一拍置いて彼が珍しく表情を崩した。 余程恥ずかしかったのだろうか。 顔が真っ赤になっている。 「仁王君」 「いっ、今のは寝惚けてたんじゃ!」 「……」 「う…っ」 溢れ出そうなのは、好きという感情。 今。どうしようもないくらいあなたが好きなのだと再確認させられて。 「授業、さぼっちゃいましょうか」 「……え?」 驚いた顔の仁王君をそのままに、私は言葉を繋げていく。 「五限目だけじゃなくて、六限目もです。…そうですね、今日は部活もお休みしましょう」 「柳生…?」 「それで…。それで、二人きりでどこか遠くへ行くんです。どこへでも、あなたが行きたい所へ」 「……」 [前へ][次へ] |