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01



さぁ、今宵も私の為に枯渇する事のない甘美な赤色の愛を頂戴?


「おや、今日も私を待っててくれたのかい?」


「えぇ、吸血鬼様…貴女に触れて貰えるのならいくらだって待ちますわ」


大時計の下で立っている美しい妙齢の女性の前に舞い降りる。が、彼女は驚きもせず寧ろ恍惚とした表現で私を見ていた。
人間というモノは己の欲望にだけは従順でなんとも扱い易い。特に目の前の快感にはとことん弱い。


「フフ、可愛いね。私の大切な…愛おしい天使」


「そんな、天使だなんて…」


スルリ、と彼女の頬に指を滑らせると彼女も私の腰に手を添える。
それを合図に首筋に舌を這わせようとしたが、一気に食欲が失せた。


「…ねぇ、君さっきまで男と交わってたでしょう」


「…え?」


分かり易い肯定的な表情。その中には焦燥と羞恥の色が混じる。
そうだった、人間は目の前の快感に弱いんだったね。前言撤回、人間というのは解り易過ぎて扱うのが難しく、面倒だ。


「え?、じゃないよ。男と交わったのかと聞いたの」


「ち、違います吸血鬼様!!これは…」


意味のない嘘を愛らしい桃色の唇から紡ぐ。またあの快感を得ようと必死にもがく。餌が美味しければ性格なんて構わないけど…面倒事は御免なんだよね。
腰にへばり付く彼女の手を優しく退かしながら言う。愛おしくて煩わしい。


「煩い。嘘言っても君の身体に男の臭いがこびり付いてるよ。もう君はいらない」


「や、だ…!わ、たし吸血鬼様に吸われないと気、がおかしくなっちゃうんです、よ…!?」


「そんな事知ってるよ」


冷めきった目で見下すと、彼女は絶望的な表情をした。そういえば何人もの女性が私によってそうなっていた(ような)。
既にこの女性は半狂乱気味。しかしこれは私の行為によるものではなく、彼女自身の心情の問題。快感がなくなる事への、恐怖。


「もう嘘と訴えは終わりかい?
私お腹が空いてるの。だから早く別の女性の所へ行きたいんだけど」


「…ッい、やよ!行かせない、離れないわ!ずっと私だけを糧にして頂戴!吸血鬼様…」


退かした手がもう一度私の腰に触れた。今度は跪づき、華奢な身体全体で私を此処に繋ぎ止めるように。それは儚く滑稽で、さながら壊れ錆びた楔の如く美しい。


「可愛い天使の必死の形相のお願いだけど、聞けないな」


「い゙やぁぁああっ!!行かないで行かないで行かないで!!」


「ほら、人通りが少ないからってそんな大声出すと近所迷惑だよ。それにそんなしつこい女性は男性に嫌われてしまうよ?じゃあね、可愛い可愛い私の…天使」


私の腰を締め付けながら大声を出す彼女を愛しみを感じながら履いているヒールで人形のように可憐な顔を蹴り上げる。そしては絶叫しながら私を呼ぶ彼女の声を背に飛び立った。



あきゅろす。
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