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01



「…煩い…」


「仕方ないでしょう?今日はお客様がいらっしゃるのですから」


「仕方ないじゃないよ、早く追い出して。あいつ等煩い上に葉巻臭い。それにあの喧しい使用人共も黙らせて」


「本当に我が儘ですね貴女は」


一気にまくし立てるとハァ、と溜め息をつきながら書斎室の本棚の埃を手際良く払う。
そんなセバスを無視し、読んでいた医学書に目を落とした。するとセバスは私から医学書取り上げてさして興味なさそうに内容を見る。


「ほう…医学書ですか。貴女でもドイツ語翻訳出来るんですね?」


「馬鹿にしてるつもり…?」


「まさか」


嗚呼、私を馬鹿にするなんて…この身の程知らず。
先程からの騒音と目の前で嫌味ったらしい笑みを浮かべる悪魔の所為で苛々してしょうがない。


「君なんて…今すぐ吸い殺してあげたいよ」


「おやおや、変な気を起こさないで下さい」


暗闇から現れた一匹の蝙蝠。指に乗せると可愛らしい高音で鳴く、私の忠実な下僕。この子でセバスを殺せないかな。
悪魔は変わらず嫌味ったらしい笑みを浮かべ、私の顔に手を添えて耳元で囁く。


「やはりまだ躾が足りませんかねぇ…」


「黙れ悪魔」


「本当に、躾がいがありますね」


頬に触れていた手が首筋に撫で、冷たい唇が触れた。
その不快さに身を離そうとしたが腰に当てられていた手で拘束された。私の下僕はセバスの周りを私を離せとでもいうように盛んに飛び回っていた。


「何、血くれるの」


「まだ餌の時間じゃないですよ」


白い手袋を外して指に止まっていた私の愛すべき下僕を赤色に光る刻印が刻まれた素手で掴む。
私の下僕はボロボロと灰色燃え殻となって消えた。下僕は下僕なので悲しいとは思えないけど。


「可哀相に、死んでしまったじゃないか」


「心にもない事を…さて、私は使用人を黙らせてくるのでディールは坊ちゃんに医学を教えに行って下さい」


坊ちゃんはもうすぐ帰って来ますので、とスラリと離れドアを開けて部屋から出て行った。









くるくると灰白の髪を弄びながら眼帯少年の部屋への向かうと顔に若干の疲労の色を浮かべた部屋の主がドアノブに手を掛けていた。
その後ろに回り低い位置にある肩に屈んで囁いた。


「やぁ、シエル様」


「、ディール!?…全く…お前はいつもいきなり現れて…」


「ごちゃごちゃと煩いね。さっさと勉強を始めましょう」


「分かってる!ったくどいつもこいつも…なんでウチの使用人はこう平和なんだか…」


少々乱暴にドアを開けると睡眠薬特有の匂いが鼻を擽った。
その瞬間部屋に潜んでいたらしい男が眼帯少年の口を塞いだ。彼は目をこちらに向け訴えた。"助けろ"と、だが私はセバスのように契約をしていないので命令に従うなんてしない。


「嫌だね」


「ッ!女まで居たのか…っおい、お前捕まえろ!」


もう一人の男が私の後ろに回り眼帯少年の時と同じように睡眠薬を嗅がせた。やるのならもう少し別の方法でやればいいのに、こんなので私を捕まえられると思っているのか。
けど今回は捕まってみよう、契約主が誘拐されたとあらば悪魔は絶対に来るはず。そうすればあの悪魔の焦躁した顔なんて見れるかもしれないからね。

その思いを胸に秘めて私は瞼を閉じた。



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