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02



セバスが出て行った後、何をするでもなくただただ天上に焦点を当てていた。が、それにも飽きて瞼を閉じた。そうするとまた父様が浮かび上がってくる。


「…父様…昔のままだったらずっと愛していられたのにね…」


瞼を開けて幻想を殺す。
目にヒリヒリと痛みが広がる。涙を流したからだたろうか、よく分からない。涙なんて、出した事もなかった。


父様が居てくれれば悲しくなんかなかったから―――……




『おいで、ディール』


『はい、父様』


優しいテノールに誘われて声の主の元へと駆け寄る。駆ける度に揺れる黒のレース。そして小さい身体は簡単に彼の身体に包まれる。この瞬間が一番好き、愛情を直に感じられるから。


『ハハ、ディールは元気だな』


『はいっ!』


私には父様が、父様には私が居る。それだけで十分だった、それだけで幸福だった。なのに…


『あなた、ちょっと』


『…なんだ?』


『…いい加減あの子を施設に入れたらどうです?あの髪に目!気味が悪いわ』


『何度言ったら分かるんだ、ディールの色素の薄さは稀に見る天性的な突然変異によるものなんだ。それにこの類の病気には珍しく人体に影響はない、奇跡じゃないか!』


私の母親だと言われるこの女がとても邪魔だ。この女は私の外見を嫌い、追い出そうとしている。この普遍的な女の股から産まれたなんて寒気がする。普遍なんて美しくない。


『こんな子…産まなきゃ良かったわ!』


『親が子を選べないように、子も親が選べないんですの』


『…ッ!』


バシッと鋭い音。どうやら殴られたらしい、あの不恰好な手で。別に痛くはない、毎日父様がいない所で殴られているから。勿論服に隠れて見えないような部分を。
咄嗟に私を庇う父様の目つきががらりと変わった。


『お前…っ何て事を…!』


『あ、あなた!だってこの子が酷い事言うから…!』


『煩い!お前が悪いんだ…!そうだ、全てお前のせいだ!!お前が悪いんだ!!』


『そ、んな…』


がくりと膝を床に付ける。それを無視して父様は私に着いてくるように言って自室に足を進めた。私はお気に入りの黒い羽のついた縫いぐるみを抱きながら惨めな女の前にしゃがみ込んだ。


『…ねぇ、君の敗因は何だと思う?一つ目は私に対しての態度、二つ目はその浅はかな思考。
君もうちょっと頭使えば?なんで嫌われたくない夫の前でそうヒステリックに娘の悪口言うのかな、その愚かさを直せば愛されたのかも知れないのにね』


『…あんた…っ、やっぱりそれが本性ね…!』


何の事やら、と口を歪ませて嗤う。


『三つ目、知りたい?』


『……………』


『三つ目はね、君の醜さが悪いと思うんだ。その普遍さ、美しい父様に釣り合わない』


子供特有の柔らかい手で惨めな女の顎を持ち上げて囁く。


『結局は父様の必要とするのは私だけなんだよ、君はいらない』



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