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01



「…ん…、」


「やっと起きましたか」


目を開けるとぼんやりと霞む視界。それが不愉快で瞼を指で擦ると鮮明に見えてくる自室と不自然に浮かぶ黒。


「…なんで、セバスが此処に?客はもう帰ったのかい?」


「貴女が倒れたからでしょう?クラウス様はとっくにお帰りになりましたよ」


「ああ…だからベットに」


時計を見れば12時を過ぎていた。晩餐の時倒れていたとすれば結構な時間気絶していた事になる。


「そうです、感謝なさい。…というか離していただけませんか?」


「何を?」


「手を」


ヒラヒラと自分の手を見せる悪魔。それと同時に私の腕が左右に揺れる。無意識の内に彼の手を離さないと言わんばかりにギュ、と力を強めていた。


「…あ…、…ごめん」


我に返って力を緩めて手を離そうとしたが、出来なかった。冷たい手が私の手を抱きしめるように拘束していた。


「…痛いんだけど、」


「私はこの倍の力で貴女に掴まれていました。そんなにお一人で居るのが寂しかったのですか?可愛らしい面もあったんですね」


クス、と嘲笑しているがどこか優越感に浸っているように綺麗に弧を描く口元。その口元に近付いて彼の存在を確かめるように自分の唇を重ねる。


「一人は、…嫌いだよ。でも…ずっと一人だったかもしれないね、」


「…ディール?」


彼女は、泣いていた。光のない黄金色の目から透明な液体。彼女が人間であった数少ない事実。


「愛していたのに…あんなにも愛していたのに…」


「…恋人、ですか?」


問うと小さく首を横に振る。落ち着かせる為に彼女の背中に手を回す。普段の彼女からは到底想像も出来ない程弱り切っている。


「…父様…」


「…父親?」


「私だけの…父様だったのに…あの女…っ!」


…父親に対して恋愛感情なるものを抱いていたのだろうか。そういえば生前彼女の父親、シンクレア主治医は愛娘を溺愛していて屋敷に来る度に必ず愛娘を話題にしていた。坊ちゃんは聞き流していたようだが


「…とりあえず落ち着きなさい、さぁベットに入って」


「うん…」


人間であった彼女には適度な睡眠が必要だ。シーツをかけて乱れた灰白髪を整え、心臓のリズムに合わせて彼女の腹部をゆっくりと叩く。本当に彼女は子供の様。我が儘で欲望に忠実で、愛しているから愛してくれと見返りを求める。


「では私は明日の準備をして来ます」


「んむ…」


ゴシ、と自らの服の袖で涙の跡を拭いたためか、目が微かに赤くなっていた。その赤く潤んだ目で見上げられると独占欲に似た底知れない欲望が理性を壊してしまいそうになるが、此処は我慢しなければ。


「ではお休みなさい」


パタン、とドアを閉めた。



あきゅろす。
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