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え、あなただれ?




同級生が怖いので誰か助けて下さい。



夕日が眩しいくらいに赤々と教室を照らす放課後。
私は、差出人不明の手紙によって誰も居ない下校時刻の迫った教室に居残っていた。


今日の放課後、教室に残っていて下さい。


なんて、少し乱雑な、だけど性格の真っ直ぐさを表すような線の綺麗な字は、やっぱり男子を匂わす字で。

名前の書かれて居ないその手紙を何度も繰り返し読みながら、もしかして、なんて淡い期待に胸をときめかせる。

中学二年の春にしてとうとう、私にも彼氏なんて存在ができるのかあ。
なんて、誰ともわからぬその手紙の相手を夢想した。



が、待ちに待ち続けて早三時間。
一時間くらいまでは、まだ人が居るから恥ずかしいのかな、とか思えた。
むしろ、こっちの緊張で時間どころじゃなかった。
二時間すぎて、さすがに苛立ちが募ってきた。
こんなに待たせるつもりなら何時に教室に来てほしいってちゃんと時間書いとけよ、ていうか人が居て恥ずかしいんならもっと違う場所選べっての。なんてやさぐれた。
それでも、なんだかんだで待った私。
いつ来るとも分からない相手の為に、暇潰しに図書室に行くこともなく、いつもはしない予習なんてものを全力でやりながらも待ってやった。

そして、3時間。

もう、これ、からかわれてたんだな。

馬鹿な男子中学生のやりそうなことだよ、と周りの男子を思い浮かべながらもう随分と先まで予習してしまった数学の教科書をそっと閉じた。

私って馬鹿。
同じクラスに校内美女に数えられてる京子ちゃんと花ちゃんがいるって言うのに、私みたいなモブってる女のことをわざわざ好きになるやつも居ないだろ。

まず、名前すら書いてないとこで怪しいし、要件だけ書いとくのも告白にしてはちょっと味気ないような気もする。



「ドラマの再放送見逃しちゃったし」



好きな俳優さんが出てたのになあ、なんてくだらない悪戯にひっかかった自分に羞恥心を抱きながら、帰る準備をするために自分の席から立ち上がった。



「香織、やっぱりお前は残っててくれたんだな」



ガラガラ、なんて聞きなれた音と共に私に向かってどこかうっとりした風に告げた声に、思わずびくりと肩が跳ねてしまった。

いや、断じてびびったわけじゃない。

え?とまさか本当に人が来るなんて、と悪質な悪戯だと思っていたからひどく戸惑いながら振り返った先には、赤い夕日で淡く光る銀糸の髪。



「は、獄寺君…?」



イタリアからの転校生で、転校してきた当初から女の子にモッテモテのモッテモテだった獄寺隼人がそこに立っていた。



「もう良いんだぜ、香織。俺たちは恋人同士だろ?んな他人行儀な呼び方はすんなよ」

「………はあ?」



ちょっとこのごくでらくんごくでらくんじゃないわ。

いつもの常に不機嫌です、みたいな顔をゆるりと甘く緩めて、私に理解不能な言葉をかけてくる獄寺君は、確かに言動意外は獄寺君だ。

だが、こいつ、だれだ。

あの大好き沢田君にさえそんな甘ったるい顔……いや、見せてたら見せてたでなかなか危ないか。

とりあえず、そんな顔見せてたことないのに!よく知らないけど!



「照れんなよ、こんな時間まで俺を待ってるなんて本当可愛いな、お前は」

「いや、なにいってんの」



ひいいっ
と、思わず逃げたくなったが、私がショッキングすぎる獄寺君の姿に思考停止してる間に近寄って来たのか、目の前にいる獄寺君の姿にそれが叶わないことを本能で察した。

雲雀先輩様に堂々と楯突けるような人に一般人が敵うわけないだろうが。

それでも思わず奇妙すぎる獄寺君から距離を取るように一歩後ずされば、後を追うように二歩分近づかれた。
ひいっ更に近付いてんじゃん馬鹿!



「そんなに拗ねんなよ、俺が香織の気持ちを疑ったことに怒ってんのか?」

「いやいや、拗ねてないよ、本当どうしたの、獄寺君!」



何だ、熱でもあんのか?と、男は診ないなんて使えないにもほどがある保健医を持ってしまった保健委員の弊害か、癖で脈をとろうと獄寺君の手首を取ったところで、そのまま引き寄せられ、視界が白に染まった。



「抱き締めて欲しいんなら素直にそう言え」



あ、視界を占領する白は獄寺君のワイシャツの色だったのね!なんて、もう離さない!とばかりにぎゅうぎゅうと拘束されながら考える。

あれ?なんか色々危なくないかこれ?



「これからは、堂々と俺の女だって胸張ってろ。」

「え?ちょっと意味が分からないんだけど、」



俺の女ってなんだそれ中学生が言う言葉かよ、なんてちょっと、いやかなり引きながら獄寺君の意味不明な言葉に待ったをかけるが、いつもより更に低いトーンで分かったな?と落とされ、私は反射的に頷いてしまったのだった。


だって、獄寺君怖いんだもん!



「んじゃあ、帰るか」



なんて、ナチュラルに私の鞄を奪って行ったのはイタリア人ゆえですか、それとも私が逃げないようにですか、なんて、見たこともない表情をして微笑む獄寺君を前に、まさか言える勇気などなかった。









なんか病んでて思い込み激しい獄寺君。


あきゅろす。
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