季節はめぐる。
燕青は茶州に帰って、姉様は初の女人官吏誕生の為に勉強を始めた。
大きく動いていく世界を見ながら、私は一人動けずにいた。
まだ、このままで居たかった。
「せいらーん!お帰りなさい!私にする?真奈にする?それとも、わ・た・し?」
きゃっは!と一人で帰って来た静蘭に抱きつく。
姉様は受験の為の宿舎。父様は今日は泊まり。
ふたりっきりだね、きゃ!なんて言いながら腕の力を強めれば、はあ、と重くため息を吐き出された。
「少しはお嬢様を見習ってはいかがですか」
拒絶するように私を引き剥がし、冷えきった声でそう告げられた。
今まで、どんなにふざけてもこんな反応なんてされたことはなかった。
戸惑いに体を固めていれば、もう一度、大きく吐き出されたため息。
それは、今までなん百と聞いてきたそれとは、違って聞こえた。
「そんなにはしたない言動では誰もめとってはくれませんよ。お嬢様を見て下さい。働き者で明るく、頭も良い。どこに出しても恥ずかしくありません。真奈様も教養があるんですからもっとお嬢様のように、」
「そう、そうだね」
最後まで聞いていられなくて、へらりと笑いながらそれを遮った。
それ以上は、聞きたくなかった。
意識的にか、ただの偶然だったのか、静蘭は、私が何をしようと今まで私と姉様を比べなかった。
だからこそ、続けられた行為でもあった。
内面も頭も、全て姉様には勝てないって、知ってるから。
比べられてしまったら、私は、
「うん。そうだよね。私もいい加減、大人にならなきゃだし」
もう、タイムリミット。
静蘭から、離れる時が来てしまったらしい。
「これからは、ちゃんとするね」
今までごめんね、静蘭。と笑んで、台所へと逃げ込んだ。
その日を境に、私は静蘭に触れるのを止めた。
「真奈ちゃん!ほら、これおまけだよ」
「わ、ありがとおばさん、助かっちゃう!」
嫌だ嫌だと出なかった外の世界に触れるようになった。
周囲にあまり関心を示さなかった私が、ご近所付き合いを始めたのを知り、姉様は喜んだ。
父様だけは、時折痛々しそうな顔をした。
姉様が夢へまた一歩大きく近付いた。静蘭は姉様を支え続けることを選んだ。
たくさんの運命が回り始めたそのとき、私もまた、踏み出した。
「黎深叔父様、私結婚したいんです」
とびきり、素敵な人を紹介してくれませんか?
へらりと笑った私に、叔父様は驚いたように目をみはって、それから私を抱きしめて、頷いた。
「――――分かった、」
「最高の相手を、用意してあげよう」
それは、姉様達が茶州にたつ、三日前の夜のことだった。
場面コロコロ変わってごめんなさい。
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