Birthday Night [瀬蛭]

十二月、街は輝いていた。

電飾にサンタや雪ダルマのマスコット‥‥
いつもは素通りの街路樹も、この季節には思わず足を止めて眺めてしまう程、様々な装飾で煌びやかに彩られる。
街行く人々も、心なしか足取り軽く楽し気に見えた。仕事帰りのサラリーマンも、塾帰りの学生も、きっと疲れているのに。親しい人達への、或いは自分の受け取るプレゼントで気持ちが一杯なのかもしれない。

それは僕も例外ではなく。

僕は自分の腕に抱えた小さな箱を見下ろした。
真っ赤な包装紙は僕らのチームカラー。それを綺麗に飾るのは、愛しい貴方の髪と同じ金色のリボンだ。学校帰り、途中のデパートで買って来た、大切な人へのクリスマスプレゼントである。

きっと貴方は照れるだろう。
彼の事だ。頬を、それはそれは真っ赤な林檎のようにして、少しだけ目を逸らしながら小さな声で礼を言うのだ。
そんな可愛らしい彼の一面は、きっと僕しか知らない。

そんな考えを廻らしては、少しだけ笑う。
ああ、三日後のイブが楽しみだ。
僕はプレゼントを抱き締めてにんまりした。

『〜♪』

突然、携帯が歌い始めた。電話だ。
僕はプレゼントを左手に持ち、制服のポケットから携帯を取り出しサブディスプレイを確認すると、慌てて受話ボタンを押す。
先程まで頭の中に思い描いていた相手からの電話に、まるで心を読まれてるみたいで、心臓がどきどきした。

「あ、もしもし、ヒル魔さん?」

出れば、愛しい声が聞こえる。
どうしたんですか、と続ける前に有無を言わせないような声が響いた。

『今すぐ来い。』

「え、い、今ですか?」

そんな急な。

クリスマスボールが近いこの時期、結構な時間まで練習しているため、今はもうすっかり夜だった。それを突然"来い"と言われても。というより、どこに行けばいいのだろう。
‥‥まさか、学校に、なんてことないよね?
考える僕は、電話だったものだから、結果的に黙る形になってしまった。

『‥‥無理か?』

そんな僕の反応に少し不安になったのか、いつもより弱々しく(それでも常人よりは絶対強いと思うけど)、トーンを落として尋ねて来る。
どうせ断っても無理言うくせに、何でそんな風に訊くんだろう。
絶対断れなくなるじゃんか。まあ、元々断る気なんて全くないんだけど。

「無理じゃないです。ヒル魔さんの頼みなら、何でも。」

『ケケケ、んな臭ぇ台詞よく言えんな。』

酷い。いや、もう慣れたけどね。
心の中で溜め息を吐き、訊きたい事を尋ねた。

「で、どこに来ればいいんですか?」

何でも無理じゃないとは言ったものの、部室に戻れと言われたら、普通に落ち込む。
自分はもう家のある住宅地内を歩いているのだ。

「『安心しろ、テメェの目の前の公園だ。』」

言われてふと目の前(というかちょっと左手側)を見ると、以前モン太が拉致られていったあの公園が見えた。いつも学校の帰りに前を横切る公園だ。
なんだ、ここか。学校じゃなくてよかっ‥‥‥て、

「へ?」

今公園の目の前にいるって、何で知ってるんだろう。
そういえばさっきの声、二重音声に聞こえたような気がしないでもない。
‥‥‥‥ま、まさか!

「ヒル魔さん、そこにいるんですか?」

恐る恐る、公園の方に向かって呼び掛ける。
すると、頭部にゴンという鈍い衝撃とともに、悪戯めいた楽しそうな声が頭上から、携帯のスピーカーから響いた。

「『バーカ、後ろだ。』」

「ヒィィイイイ!」

ヒル魔さん愛用のライフルで叩かれた後頭部を押さえながら後ろを振り返り、ヒル魔さんの姿を確認すると、僕は驚いて数メートル程高速で後退りした。
‥‥撲殺、されるのかと思った。

「何でそんな逃げてんだ、撲殺されるわけでもあるめぇし。」

「‥‥‥。」

耳元でツーツー、と虚しい音がする。
いつの間に彼は電話を切っていたようだ。

「ストーカーですか。」

「違えよ。」

言いながら、彼はツカツカと僕に歩み寄る。
そしてぼすっ、と何かを僕の頭にぶつけて来た。そんなに僕の頭を叩くのが好きなのか。
携帯をしまい、ぶつけられたそれを空いた右手に取ると、それは何だか見覚えのある赤と金色の包みだった。

「‥‥これって──」

「プレゼント。見りゃ分かんだろ。」

「へ、」

ていうかコレ、僕が‥‥。
なんて思い左手を見ると、そこには確かに僕の買ったクリスマスプレゼント。
‥‥右手にも同じプレゼント。

「はへ‥‥?」

「どうした、んな間抜け面して?」

ぶ‥‥分身?

などと有り得ない事を考えながら、とりあえず、自分の買ってきた方を隠した。
そういえば、なんで突然呼び出されてプレゼント貰ってるんだろう、僕。クリスマスはまだなんだけどな‥‥。

多分、僕は相当変な顔でヒル魔さんからのプレゼントを見つめていたのだろう。
ヒル魔さんは怪訝そうな顔で僕に言った。

「‥‥今日はテメェの誕生日じゃねぇのか?」

「え‥‥っ」

言われて僕は気付く。
そういえば三日後がイブなら今日って!

「わ、忘れてた‥‥」

まさか自分の誕生日を忘れるなんて、びっくりだ。まだ、若いのに。

ヒル魔さんは少し呆れ気味にため息を吐くと言った。

「そろそろここら辺通る頃だと思って待ち伏せてたのに、一時間経っても来やしねえ‥‥どこほっつき歩いてやがった?」

僕の右頬にライフルの銃口を押し当てて、眉間に皺を寄せている。
うわー綺麗だなーとか思って横目に見取れてると、さらに銃口が密着した。

「早く答えやがれ。」

「うぎゅ‥‥すいまひぇん。」

僕は謝ると、とりあえず喋りにくいので、ギブギブ、とでも言うように軽くぺちぺちとライフルを叩いた。



「‥‥プレゼント買いに行ってたんですよ、僕。」

公園のベンチに二人並んで腰を下ろすと、僕はまるで悪戯したことを告白する子どものように、蛭魔さんから目線を逸して言った。
別に、悪い事はしてないと思うけど、やっぱり美しい薔薇には棘があって、蛭魔さんも例外ではない。恐いのだ。

「プレゼント?」

僕の言葉に、何故、と小首を傾げた。
え、何それ、超可愛いんですけど。

「なんだテメェ、誰からもプレゼント貰えねえからって自分で買いに行ったのか‥‥って、お前、自分の誕生日忘れてたんだよな。何のプレゼントだ?」

「え‥‥心当たりないですか?」

「心当たり?」

うわ、どうしよう。
蛭魔さんったら、僕の誕生日は覚えててくれたのに、クリスマスはすっかり忘れてるみたいだ。嬉しすぎる。
僕はクリスマスに勝ちました!

僕は意気揚々と、もうすぐクリスマスであると言うことを伝えようと口を開いた。

「蛭魔さん、もうすぐクr─―」

「ああ、クリスマスボールで優勝したときのお祝い用か。ケケケ、勝つ気満々じゃねえか、糞チビ。」

「‥‥はい。」

蛭魔さんは、実に楽しそうに笑っていたのだった。





家に着いて、蛭魔さんから貰った誕生日プレゼントの包みを開けると、包装だけじゃなく中身まで一緒だった。

アメフトのボールの形をした目覚し時計。

同じものを同じ場所で同じ包装で。
なんて素敵な誕生日だろう。僕らの思考は似ているんだって、すごく嬉しく思った。
このことを知ったら蛭魔さんも驚くだろうか、喜んでくれるだろうか。
ああ、それともやっぱり照れるのかな。



クリスマスイブが一層楽しみになった。



++++++++++

超不完全燃焼。
これ、書き始めたの一昨年の12月ですよ。うわー、どんだけ時間かかるの。
甘々目指して書き始めたような気がするのに、もう全く全然欠片も甘くない!

終わり方が思ってたのと違くなるし、終わりの方投げやりじゃね? 最悪。

タイトルは適当。←




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