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Another (Valentine's) Day
日の入りが遅くなったとは言え、それはあくまでも先月、先々月と比べればの話だ。2月の半ばでも午後6時ともなればそれなりに暗い。女の子は帰らなきゃ危ないだろというブラックとグリーンを心配した土井さんが帰宅を促す。自称博愛主義者のピンクが小学生もいるしねと賛同して、何故かスマブラと数学の関係性についてゼタ熱弁していた博士の講義に巻き込まれていたグリーン、レッド、イエロー、イエローの隣に座りいつも通り笑みを浮かべるブラックに声をかける。
声をかけた時にイエローが真っ先に反応した。博士の講義にうんざりしていたのだろう。生き生きしている。
ごちそうさまでした。
はいよ。気をつけて帰れよ。はグリーンとブラック、土井さんの会話だ。
少し遅れてレッドも駆け寄ってくる。
博士がつまらなさそうに使っていたホワイトボードをマジックを片付ける。
「なにしてるの、ダークブルー」
早くしないと行っちゃうよ?とピンクが俺に声をかけてきた。振り向けば店の出入口にはみんなが集まっていた。
喉まで出かかった「ごちそうさま」は結局口に出せず、代わりに土井さんに頭を軽く下げる。それでも伝わったらしく、気をつけて帰れよ。と返ってくる。


らぁめんどんを出てから十数分。家の方向が違うからとグリーンやレッド、イエローとブラックの兄妹とは数分前に別れたばかりだ。
「ねぇ、ダークブルー」
そういえばコイツの家は俺と同じ方向なのだろうか。ピンクが俺の斜め後ろにいた。
「なんだよ…」
「なにか忘れてない?」
「…は?」
いきなりなんなのか疑問に思いながらも一応確認してみる。ヘッドフォンは着けっぱなしだし、財布もバッジもポケットに入っている。なにも忘れ物はない。
「僕に渡すものがあるんじゃない?」
「…いや、ないな」
あまりにもピンクが真剣な表情で言うからこちらも真剣に答えた。のに、彼は溜め息をこぼした。
「…なんなんだよ、さっきから」
「まさかここまで鈍いとは思わなかったよ、ネク君」
『ダークブルー』という勝手に命名されたコードネームではなく『ネク』という本名を呼ばれたことに驚く。
それほどまでに真剣なのだろう。
「昼間グリーンが皆に渡してたからわかると思ったんだけど…」
「昼間…?」
そういえば今日はバレンタインだからとグリーンからみんなチョコをもらっていた。メンバーだけでなく、博士と土井さんにも。ちなみに配られたチョコはもう食べてしまった。
ここでピンクがさっきから言っていることを整理してみる。
「…ちょっと待て。まさかお前の言いたいのは」
「ようやく理解してくれたみたいだね。そのまさかだよ」
「いやいやおかしいだろ!第一俺もお前も男だぞ!」
男同士とか普通ありえないだろ。言外にそう言えばピンクは眉をしかめた。
「ネク君は同性愛者を全面否定するの?」
「否定っつか…おかしいだろ」
「さっきからおかしいことを言うね。恋愛は個人の自由のはずだよ」
「それは…そうだけど」
言葉が萎んでいく。
一体なにが言いたいんだこいつは。
いつになく意味不明なピンクはまたはぁ、と溜め息をこぼした。
「じゃあネク君からチョコをもらうのは今回は諦めよう」
やっぱりチョコが欲しかったのか。なんで欲しかったのかはわからないし、わかりたくない。というか『今回は』ってなんだよ。
「ねぇ、ネク君」
「今度はなんだよ…」
「名前、呼んでよ」
断ることも普段の俺なら出来ただろう。しかし出来なかった。
ピンクが、ヨシュアが寂しそうに見えて俺は断れなかった。
「…ヨシュア」
羞恥心が邪魔したのかどうかなんて知らないが呟いた声は小さかった。
しかし彼には聞こえたらしくいつもの笑みを浮かべ、その唇が俺の唇に軽く触れた。
「ッ!!!?」
俺の頭がようやく今起きたことを理解すると同時にヨシュアは離れていった。離れる時にチュッというリップ音を残していったのはわざとだと思う。
なにか言ってやりたいがうまく言葉が出ず、ひたすら口をパクパクさせてるとコイツはぶふっだかぶほっだか吹き出して笑い、挙げ句には「ネク君、変な顔」と言いやがった。誰がその変な顔にしたと思ってるんだ、お前は!
「今ので今回は諦めてあげるよ」
楽しそうにヨシュアはくるりと踵を返す。おそらく帰るのだろう。
「あ、そうそう。ダークブルー」
今度は名前ではなくコードネームで呼ばれた。
「さっきの意味、ちゃんと考えておいてね」
「なっ…!?」
「じゃあね、ダークブルー。また明日」
さっきの一連の出来事を思い返して顔を赤くした俺を見て満足げにピンクはすっかり暗くなった道を歩いていった。
「……なんだっただよアイツ」
ふと触れた俺の頬は熱かった。





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