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AとBの平行世界
折原臨也が奇妙な出会いをしたのは、とある月のない夜のことだった。


月明かりのない夜道を臨也はふらふらと歩いていた。
情報収集もあらかた終わり、そろそろ新宿へ帰ろうかと思った時だった。

見知った服装の男を見つけた。
迂回するかも考えたが、何故自分があの男を迂回しなければならないのか。と嫌がらせに声を掛けることにした。

だが、近付くにつれ段々とおかしなことに気付く。

いつも吸っているはずの煙草をくわえていなかった。いや、それ以前にあの男はこんなにも近寄るのを躊躇うような、物騒な、そして狂気じみた雰囲気を出しただろうか。

少なくとも臨也の出した答えは否であった。
そして確信する。この男は臨也の知っている男で、しかし知らない男なのだ、と。

「…誰だ?」
臨也に気付いたのか男が振り返る。その顔は確かに臨也の知っている平和島静雄であった。が、臨也はそれを否定する。

「君こそ誰だよ。シズちゃんのそっくりさんとかやめてほしいね。吐き気がするよ」
あんな化け物は一人で充分だ、と臨也が言えば、男は笑った。

この世界の臨也はこういう奴かと男は言ったのが聞こえたが、その言葉が意味するものが全くわからない。

「お前はよ、平行世界、パラレルワールドって知ってるか?」
「…一応ね。信じてはいないけど」
「なら話は早い。俺はこことは別の平行世界での平和島静雄の精神体だ」
「意味がわからないね。物理学の世界で理論的な可能性が語られてはいるけど、その精神体がこっちの世界に来るとか、どんなSF映画だよ」

臨也が否定すればクックッと笑い、男は確かにそうだな、と肯定した。

「大体君はどんな平行世界から来たのさ」
「こっちの俺は暴力が嫌いだよな。」
「…そうだね」
「でも俺は暴力、というか壊すのが大好きなんだ」
物理的にも精神的にも壊すのが大好きなのだと、静雄の顔で男は狂気にまみれた笑みを見せる。

「いいよな。こんな破壊に長けた力があるなんてよ」
その言葉は静雄にとって最高の嫌味になるだろうなと臨也はぼんやりと考える。

「お前結構壊し甲斐ありそうだよな」
物理的により精神的に壊したいと男は物騒な事を言った。

「冗談じゃない。俺の死因は決まってるの。君なんかに壊されるとかあり得ない」
臨也がそう言えば男は「そうか、残念だな」と言って何処かへ立ち去ってしまった。

「……何だったんだ今の」
一人残された臨也の呟きは夜風に拐われた。


AとBの平行世界
(あれは新月が見せた悪夢だったのか?)



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