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過去との遭遇
茜色に染まる道を少年は一人、俯いて歩いていた。少年の背中には使い込まれた黒いランドセル。
少年の表情は暗く、足取りもとぼとぼとしていた。そして、俯いて歩いていた為に少年は人とぶつかってしまった。

「ごめんなさい」

少年が素直に謝れば頭上に大きな手が当てられた。少年が顔を上げればそこにはバーテン服にサングラスといった格好をした男がいた。
初対面のはずなのだが、少年には何故かその男に見覚えがあった。

「大丈夫か?」男が言った。

「平気」と少年が返せば「そうか」と男が微笑んだきがした。逆光で見えないはずの男の表情が分かったことに違和感を覚えつつも、少年は男が悪い人間では無いと判断した。

「なんでそんな暗い顔してんだ?」

少年の頭を撫でる男の手が優しく、その優しさに少年の目尻から涙が流れた。
その涙は止まらず、堰を切ったように次から次から溢れてくる。男はそんな少年の背中をぽんぽんと軽く叩き、少年が落ち着くの待った。
少年は嗚咽交じりに俯いていた理由を話し始めた。変わり者だが、自分に接してくれる級友を傷付けてしまったこと。それに対する罪悪感が彼の表情を暗くさせていた。

「もうおれきらわれたかもしれな…」
「その友達ってのはそれだけでお前を嫌う心の狭い奴なのか?」

男の問いに少年は首を横に振った。

「それなら謝って許してもらえ。それに、お前には父ちゃんも母ちゃんも弟もいるだろ?」
「え。なんで知って…」

なんで自分に父母はともかく、弟がいることをこの男が知っているのか。
少年はそう問おうとしたが、男の一言で口を閉じてしまった。

「自分の存在を認めてもいいんだぞ」

力が嫌いだからと、暴力が嫌いだからと自分自身まで嫌いになることはない。
男の言葉に少年はまた涙が出そうになったが、堪えた。

「なんでそんなこと言えるんだよ!おれのことなんか知らないくせになんで!」
「そうだな。お前が俺を知らなくても、俺はお前を知ってるんだ」

お前も近い将来今日のこの出会いが分かるようになるさ。と男は言った。

「おっと。もうこんな時間か。じゃあな、気をつけて帰れよ?」
「あ、ちょっ!」

少年が引き止める間もなく男は立ち去ってしまった。


**********
あれから幾年か経ち、少年は成人し中学時代の先輩に誘われた仕事に就いた。
そして、成人し青年となった少年はあの日、不思議な出会いをした場所に来ていた。
沈みいく太陽を眺めながらあの日を思い出していたその時だった。
トン、と誰かが自分にぶつかった。
目線を下げれば、そこには黒いランドセルを背負った茶髪の少年だった。
そしてかつての少年だった青年は、あの日のことを理解した。
――あぁ。あの日のあの男は俺だったのだ…。


過去との邂逅





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