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まねっこ

昼下がり。
静かな和室で着流し姿で寛ぎながら本を読む雲雀。
その横でコロリと転がりながらヒバードの頭を撫でている名前。

ヒバードの柔らかい頭を撫でながら、横で静かに本を読む雲雀の姿をチラリと見つめる。

……。

静かな空間が、雲雀の邪魔をしてはいけない。そんな気にさせる。
でも…構って欲しいのが名前の本音。

名前の心の中で葛藤があるもののぐっと堪えれば、隣の雲雀が名前に視線を送る。

「どうかした?」

雲雀の意識が自分に向いた所で、一気に甘えたい所であったものの…ぶんぶんと首を振る。

『なんもない』

「…そう」

名前の返答に、小さく返しながら再び視線を本へと戻すが、本を膝に置きながら片手でページを捲り、もう一方の空いた手で横に転がる名前の柔らかい髪をそっと撫でてくれる。
それは嬉しいが、本当はもっともっと構って欲しい。

『……』

名前は何か思い付いたようで、すくっと立ち上がれば、名前の髪に触れていた雲雀の手が、名前を感じられずに虚しく空を彷徨う。

「ん?」

不意に動き出した名前に視線を移せば、すぐに雲雀の元にパタパタと走って戻って来ると、その手には、何時も雲雀が名前に読んで聞かせる童話の本を抱えていた。
その本は、挿し絵が所々に入っているものの、殆どが文字で埋め尽くされているもので、幼い名前にそれを一人で読み解く術はまだない。
何を始めるのだろうとそっと名前の行動を見守れば、雲雀の横にちょこんと座ると、名前には少し重い本を膝に乗せて開き、小さい手でページを捲る。

『……』

ページをペラペラと捲り続ける名前。

「ねぇ」

『ほえ?』

読めない本を捲る名前を不思議に声を掛ければ、名前のクリクリした瞳が雲雀を捉える。

「何してるの?」

『んとね、きょうやくんとおそろい』

「ん?」

『まねっこしてんの』

雲雀と同じ事がしたかったらしく、読めない本を読んでる振りをしていると言う事らしい。

「ワオ。ねぇ、そのまねっこは、面白い?」

雲雀に問われれば、小首を傾げる名前。

『とねー。あんまし、おもしろない。でもぉ…おんなしなのがいいの』

少し拗ねた様に唇を尖らせながら言う名前に、口の端を少し上げ笑う雲雀。
先程から、雲雀に対して構って欲しいと言う無言のサインを送っていた名前が面白くて、あえて知らない振りをしていた。
その結果、自分のまねっこをする名前。
どこまで可愛いのだろうと思ってしまう。

「まねっこはいいけど、その本…逆さまだよ」

『!』

文字が読めずただ開いただけの本に、向きが間違っていたのも気が付かなかった。
失敗にキョトンとする名前に、クスリと笑いながら、雲雀は読みかけの本を横に置くと、名前の持つ童話の本を手に取る。
本の行方を目で追う名前に、雲雀は自分の膝のをポンポンと叩けば、名前は嬉しそうな顔で、雲雀の膝の上にポフリと収まると、背中を雲雀の胸に預けて来る。
名前の暖かい体温が、雲雀にじんわりと伝わり心地良い。

「どの話を読んで欲しい?」

『とねぇ。お〜じさまの』

「名前は、王子様が好きだね」

色々な話が入っているその本の中でも、王子様が出てくる話がお気に入りの名前。

『だってね、お〜じさまかっこいいよぉ』

「そう」

雲雀の膝で、構ってもらえてご機嫌な名前の頭を優しく撫でるものの、実在しない童話の中の王子だとしても、名前が好む異性が気に入らない様で、不機嫌気味なる雲雀。
名前はそんな雲雀を見上げ、話の続きがあるらしく、小さい手で雲雀に手招きする。
雲雀は何だろうと、名前に顔を近づけると、名前は嬉しそうにこしょこしょと可愛い声で耳打ちする。

『あんね、でもね、おーじさまより、きょうやくんのほうが、もっとかっこいい』

へへへ…。

照れて笑うその言葉の不意打ちに、雲雀は思わず名前をぎゅっと抱きしめる。



君は、どこまで
僕を夢中にさせたら気が済むの?


2010/03/28




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