昨日の夢で、 『恭弥くん』 「なに?」 雲雀は読んでいた本から視線を上げれば、そこには幼い名前ではなく、高校生となって成長し、可愛さと少し大人びた姿の名前が居る。 雲雀に向かって嬉しそうに笑う仕草は、昔のまま変わらない幼げに見え愛らしい。 『あのね、あのね』 雲雀の横にチョコンと座り、少しハニカミながら雲雀を見つめる名前。 色白の肌に、クリクリと大きな瞳に長い睫毛。 誰が見ても、美少女と言える名前。 幼い頃から、雲雀に溺愛されて来た。 雲雀にとって最愛の少女。 「何かいい事でもあったのかい?」 優しく名前の髪に触れながら問えば、雲雀に『エヘヘ…』と、照れ笑いを返す。 『あのね、今日ね、学校でね、クラスの男子に告白されちゃったぁ』 頬を赤らめる姿は、何とも愛らしいのだが…内容が雲雀にとって最悪。 「そう…」 上辺だけは、平静を保ちながら腹の底から煮えたぎるような黒い感情が溢れて来る。 それは、激しい嫉妬。 独占欲。 その許し難い子は…咬み殺しておかないとね…。 不敵に顔を歪める。 パチリ。 そこで目が覚めた。 「……夢か」 ぼやけた視界に、手のひらを軽く額に当てながら、自分の横を見れば、気持ち良さそうな寝息と共に、両手を広げ転がって眠る幼い姿の名前。 その無防備な寝顔を見れば、何やら楽しい夢でも見ているのか、ニヤニヤと笑っている。 「クスッ。変な顔して…」 名前の柔らかい頬を軽く摘むと、名前は眉を寄せ『むぅ〜』と唸る。 「嫌な夢…」 ふう。 ため息を着き、まだ夜も明けぬこの時間。名前を自分の側まで引き寄せ、再び眠りに付いた。 目覚めて朝。 元気な名前が、雲雀にじゃれながらはしゃいでいる。 『きょうやくん。あんね、あんね』 雲雀の腕に絡みながら、ジタバタすれば、雲雀は名前の体を引き寄せて、自分の膝の中にスッポリと納めてしまう。 名前はそれが嬉しくて、エヘヘ…と笑い返す。 『ゆめみたよ』 「そう」 『うん。きょうやくんのゆめ』 ニコニコ。 『なんかね、わたしおねぇさんになっててね、んと、きょうやくんとおはなしすんの』 「……」 ふと雲雀は、昨夜自分が見た夢とシンクロしているような気がして、怪訝な顔をする。 それに気付かない名前は、嬉しそうな顔で話を続けようとすれば、雲雀にぎゅっと羽交い締めされ『ゲッ』と、カエルの様な潰れた声を思わず上げる。 『うぅ?』 苦しくて、ジタバタとしながら雲雀を見上げれば、雲雀は名前の柔らかい髪に自分の顔を埋めて来る。 「名前は、僕のだよ」 『ほえ?』 「他の誰にも…」 『?』 キョトンとしながら、名前の小さな手が雲雀の頭を、『いいこ、いいこ』と言いつつ撫でる。 「……」 雲雀の抱き締める力が少し弱まり、動けるようになった名前は、嬉しそうに雲雀を見ながら 『うん。きょうやくんとずっといっしょいていい?ってきょうやくんにきくの。したらね、したらね』 「したら…、僕は何て言った?」 どうやら自分とは違う夢に安堵し、優しく笑い、名前の髪にキスを落としながら、続きを促す。 『しかたないから、いていいよだってぇ』 一緒で嬉しいとはしゃぐ名前。 「名前。それは…少し間違えてるよ」 『ん?』 「仕方なくじゃなくて、何時でも僕の側にいなよ」 パチパチと瞬きしながら、雲雀を見詰める名前に、クスクスと笑い掛ける。 「僕も夢を見たよ」 『どんな?』 「内緒」 『え〜!ずるっこいぃ〜』 「知りたい?」 雲雀の問いに、名前はコクコクと頷き、話を聞きたくて期待一杯の顔を雲雀に向ける。 そんな名前に、口元を少し上げて笑う雲雀。 「名前が好き過ぎる夢」 『ふお!?』 名前は、瞳をパチパチさせると、直ぐに表情をぱぁぁと明るくさせる。 『きゃぁぁぁ〜』 嬉しそうな奇声を上げ、雲雀の胸に勢い良くドカリと音をさせて、激しくぶつかる。 雲雀は予想外の衝撃に、うっと少し仰け反るものの、名前の笑顔に魅せられる。 愛おし過ぎて、夢でさえ嫉妬。 夢でも、君を誰にも渡さない。 2010.3.12 [*前へ][次へ#] [戻る] |