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valentine3*愛情をぎゅっと込めて★

2月13日
バレンタイン前日。
恋する乙女は、当日の決戦の準備で大忙し。

恋する乙女よ!さあ、恋する思いをチョコに込めるのだっ!!




決戦前と言う程必死な訳ではないけれど、バレンタインを楽しもうと前準備の為に集まった二人の女の子の姿が、初めて足を踏み入れるその場所にいる。

雲雀の屋敷に訪れたハルと京子は、草壁にそのまま台所へと案内された。
台所は広くとても清潔で、台所と言うよりも何処かの料亭の厨房と言った方が似合うそんな場所。
そこへ、二人が持参して来た本日作成するための菓子の材料達や、ラッピングのリボン、包装紙が広が、ステンレス色の冷たい厨房に綺麗な花が咲いたように広がり、チョコの甘い匂いが微かに漂う。

「必要な道具は、遠慮なく使って下さって結構です」

一通り、厨房にある道具の説明をする草壁。
それを聞きながら、本当に色々なものがそろったこの場所に、驚きの声を漏らす二人。

「はひー。本当になんでも揃っているんですね」

「なんだか、お店の厨房みたいだよね」

「本当ですぅ。ここで…いつもどなたが料理されているんですか?」

そうハルが聞けば、草壁は自分がと答える。

「通常の簡単なものは私ですが、やはり手の込んだものを雲雀が希望する時は、料理人を呼んでいるんですよ」

草壁のその容姿から、料理するという意外な一面をイメージ出来ない二人は、少々驚きの顔を向ける。すると、草壁も何故か恐縮するように、笑ってみせる。
しかし、考えれば何かと難し所のある雲雀の相手をいつもしている草壁である。雲雀の味の好みについても詳しく分かっているに違いない。

「はひぃ〜っ。草壁さんて…凄い人なんですねぇ」

ハルは、草壁に尊敬の眼差しを向ける。

「本当に凄いなぁ。草壁さんは、いつお嫁に行っても心配ないですね」

「はぁ??」

京子の間の抜けたコメントに、更に間の抜けた声で返す草壁。
それを見てハルは、堪えきれずに思わず吹き出して笑ってしまう。

「京子ちゃん。それだと、草壁さんがお母さんで、雲雀さんがお父さんで、名前ちゃんがチャイルドって感じですか?」

「本当だぁ。そうだねっ、それいいと思う」

「あ、でもハルは、雲雀さんと名前ちゃんは親子って言うより、ラブラブカップルって気がするんですよねぇ」

「それもそうだゆね…うーん。じゃあ…草壁さんはぁ…」

暴走する二人の間で、草壁はどう否定してよいのかとオロオロと、置かれた状況に一人取り残される。
そこへ、激しいキャーっという奇声と共に、パタパタと走る足音をさせ厨房へ、名前が勢いよく飛び込んで来た。
その事により、二人の暴走モードはとりあえず収束し、視線は名前へと注がれ、草壁は矛先が自分からそれた事にホッとする。

『はるちゃん!きょこちゃん!こんにちわぁぁぁぁ』

元気な挨拶をする名前。
そして名前の後ろから、不機嫌そうな顔をした雲雀も共に厨房へ訪れた。

「名前。いつも言ってるけど。廊下をバタバタ走らないでよ」

『うっ?』

ハルと京子に早く会いたくて、思わず勢いよく走ってしまった名前。その後ろから屈み込むと、名前の体をギュッと捕まえる。

『ごめんなさぁぁい。だってね、なんかね、すぅっごくワクワクすんだもん』

「……」

名前は、これから初めて作るクッキーに興味津々で、いてもたってもいられない。
雲雀は雲雀で、名前が、自分以外の事に激しく興味を向けているのがあまりにも面白くない。
その態度が傍から見てもありありと分かる程。
そんな雲雀を、少々緊張気味で見守る草壁。

だ、大丈夫だろうか…。

そんな草壁の心配を他所に、雲雀は不満な顔をしながら名前以外の者には聞こえない程の小さな声で、名前の耳元へこそりと呟く。

「僕以外に興味を待たないでよ」

『ほえ?』

その言葉に、きょとんとする名前の頬に、ギャラリーを気にもせず軽くキスをすれば、少し溜飲が下がったのか、名前を腕から開放する。

なんとか機嫌を持ち直した雲雀に、密やかに息を付く草壁。

遣り取り的には、雲雀と、名前の見慣れた光景でもあり通常通り、草壁は気にする風もなく…ああ、またかと心の中で思うだけ。
しかし、ハルと京子は、見せ付けられたラブラブモードに当てられて、反対に思わず二人が照れてしまう始末である。

「ねーねー。ハルちゃん。くっきぃつくんでしょ?はやくつくろおよぉ」

ねだるように、名前に服の裾を引っ張られ、はたと当初の目的を思い出す。

「そ、そ、そうですね。作りましょう名前ちゃん。京子ちゃんも、早速!やっちゃいましょう!」

「そうだね、早く作らないと時間なくなっちゃうね」

「あ、あの、雲雀さん。今日は、場所をお借りしてしまってすみませんです」

ぺこりと雲雀に頭を下げるハルと京子に、「別に…」そっけない言葉を投げ、「じゃぁ、僕は仕事だからあまり騒がしくしないでよ」と言い残し、あっけなくその場を立ち去って行ってしまった。

「私もこれで。何かあったら呼んでください」

草壁もそういい残し、厨房を後にした。
その場に残った女の子三人。
ハルは緊張していたのか、大きなため息を付いて、近くの椅子に腰掛ける。

「はひーっ。相変わらずな雲雀さんのラブラブっぷりでしたぁ」

「本当だねー。前にみんなでランチの時に見たり、ハルちゃんからよく聞いてたけど…なんだかやっぱり凄いよね」

「多分、雲雀さんは、名前ちゃんを私達に独占されてしまうので、見せつけなんですよっ」

「そうなの?」

「間違いありません」

「そっかぁ。名前ちゃんは、雲雀さんに凄く愛されてるんだねぇ」

「本当ですね。ハル、羨ましい位です」

その愛されているであろう当の本人はと言えば、二人が持って来た本日の材料の方が気になるらしく、テーブルの上に置かれたチョコや、綺麗なラッピングを興味津々に覗いている。

「さて!それでは、そんな愛に溢れた雲雀さんにプレゼントするラブラブクッキーを作りますよっ」

『らぶらぶくっきぃ?』

「そうですよ、名前ちゃんから雲雀さんに大きなハートのチョコクッキーを送ったらきっと、今以上に雲雀さんは、名前ちゃんに、メロメロのノックアウトです」

『めろめろ…のっくあうとぉ?????』

なんだか分からない言葉に、小首を傾げてハルを見る名前に、ハルの言語力であっけない説明する。

「えっとー。雲雀さんが、名前ちゃんをもっと好きになっちゃうって事です」

『ふおおお!?』

もっと好きになるという事に、思わず驚きの声を上げる。

ほんとうに?したらね、とってもうれしいな。
だってね、だってね、きょうやくんだいすきだから。
きょうやくんがわたしのこと、だいすきになってくれたら、もっともっと、いっしょいられんもんね。

ハルの言葉に、嬉しそうにキャッキャと浮かれてはしゃぐ名前。

「じゃあ、頑張らないとだね」

「そうです、題してメロメロノックアウト!バレンタインクッキー大作戦ですっ!」

「「『おおおおーっ』」」

なんだか妙なテンションで意気込みつつ、早速作成に取り掛る乙女三人。

クッキーの材料をレシピ通りに混ぜ合わせ、出来た生地をハートの押し型で、次々と可愛いハートのクッキーの準備が進んで行く。
初めての名前も、ハルと京子の手を借りて可愛いハートが出来上がり、それをオーブンに入れてジッと待てば、次第に焼けて、甘く良い匂いが厨房を満たして行く。
そしてオーブンの中で、おいしく焼けたクッキー達が自分達の存在をアピールし、名前の心はワクワクと弾んでしまう。
オーブンの中をそっと三人は覗き込むと、中で美味しそうな姿をしたハートのクッキー達がいる。

「う〜ん。良い匂いですね」

『うん』

「美味しく出来あがりそうだね」

『うん』

そろそろいい時間だと、オープンから注意深くトレイを引き出すと、更に美味しそうなバターや、チョコの焼けた匂いが広がって、もうそれだけでクッキーの成功が見て取れる。
慎重に熱いトレイをテーブルに置くと、三人は嬉しそうにそれを見つめる。
形も崩れることなくハートの形を保っているクッキー達に、思わずよくやったと褒めてやりたいと思う程。
後は、クッキーを冷まして、ラッピングすれば、出来上がり。

「きっと、皆さん喜びますね」

「うん。ツナ君達も喜ぶよ。今回のバレンタインは、名前ちゃんも参加だもの」

「ふふふ。ツナさん達の喜ぶ顔が目に浮かびます」

「ちょっと味見してみようか?」

「そうですね、やはり出来栄えを確認してみないとですよね」

まだ少し、温かいクッキーを、ハルと京子は手に取り、名前の小さな手にも、クッキーを渡す。
ほんわりと温かいクッキーをもらい、名前は、自分が初めて作ったクッキーに感動しながら、嬉しそうに頬を高揚させる。
早速頂きますと、食べるハルと京子の姿をマジマジ見つめる名前。

「う〜ん。ベリーグットじゃないですかぁ?程よい甘さと、サックリとした感じ、とっても美味しいです」

「本当、美味しいね。これならみんな喜ぶよ」

出来栄えに、自画自賛している二人は、不意に横で大人しい名前に視線を向ける。
名前は、もらったクッキーを手にしてジッと見つめていた。

「はひ?名前ちゃん、どうしましたか?そんなに熱くありませんから、食べてもOKですよ?」

不思議そうに声を掛けたハルへ、不意に顔を向ける。

『ねーねーはるちゃん。くっきぃ、てつさんと、ヒバードの分もある?たべちゃってみんなん、なくなんない?』

どうやら、自分が食べたらみんなへのクッキーが無くなってしまうんじゃないかと心配していた。

はるちゃんと、きょこちゃんがおいしいっていってんもん。
たべたいけど…たべなくてもがまんできる。


「あのね、わたしのね、てつさんとヒバードにあげんの」

そう言って、ハルにクッキーを戻そうとする名前に、ハルは大丈夫ですよと名前の頭を優しく撫でながら笑う。

「名前ちゃん。そんなのノープロブレムです。クッキーはいっぱいありますから、皆さんにちゃんと渡せますよ。勿論、哲さんと、ヒバードちゃんの分もあります。だから心配しないで食べてくださいね」

「そうだよ、作った私達の味見用クッキーだって数に入れて作っているからだから大丈夫。ねっ、食べてみて?」

二人にそう促され安心したのか、手にしたクッキーをぱくりと口にすると、それはとっても優しくて、ふわふわと幸せな気持ちになるような味がした。

「「どう?」」

どんなお店のクッキーよりも、美味しくてモグモグと無心に食べる名前。
食べ終えて一息。

『すごーおいしいねっ』

「愛情たっぷりですもん。ね、京子ちゃん」

「一生懸命作ったから。三人分の愛がギュッと詰まってるよね」

お菓子の甘い匂いに囲まれながら、ほのぼの楽しそうに笑う三人。


さて、さて、本番は明日の、14日。
素敵なバレンタインが訪れるんじゃないかと、そんな素敵な予感がするバレンタインイブの甘い午後。






******

厨房から離れた静かな部屋で、書類に目を通す雲雀。
ふと名前は、楽しくやっているだろうかと思い、手を止める。
覗きに行きたい気もしないでもないが、騒がしそうなあの厨房を想像し、げんなりとした顔でそれを諦める。
名前一人の騒がしさは気にならないのだが、どうも他の声には耐えられない。
これも慣れなのだろうか?

まあ別に、女の子同士他愛も無い集まりだから。
僕には関係ない。

などと思いながら、ふと机の上のカレンダーに目をやれば、そこで今更ながらに気が付いた。

「ああ、明日は14日か…」

カレンダーの14の数字の下に、親切にも小さくバレンタインの文字が印刷されている。
そのための手作りのお菓子を作っているのかと、今更ながらに気が付いた。
雲雀にとって毎年、そんな行事には興味もなく、そんな日があるという事さえも、今まで頭の中から消えていた。
学生の頃は、その日になると勝手にチョコが自分の元へと集まり、ああまたその日が来たのかと思い出すくらいだった。
雲雀にとって興味の無い人間から、送られる特に嬉しくもないその品々。
言うならば迷惑。ただそれだけ。


「ふーん」

もう一度、カレンダーに視線を移すと無意識に、口元を綻ばせる雲雀がいた。


2010/2/13



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