valentine2*美味しいエッセンス★A
そんな出来事の日の夜。
夕食を食べていると、ふと名前が雲雀に向かって、今夜の名前のメニューの一品である自分の大好きな卵焼きをフォークに刺して、雲雀へと差し出した。
急に如何したのかという顔で、名前を見れば「これたべて」とニコニコと笑って答える。
「……卵焼き好きでしょ?自分で食べなよ」
名前の行動が分からず答えれば、ブンブンと首を振る。
「だめなのぉ。おいしいもんいっしょたべると、もっとおいしいの」
そう力説する。
「だってね、きょうね、はるちゃんと、きょこちゃんとでね、けーきたべたらね、けーきたべっこしたのおいしかったのぉ。だから、だいすきなたまごやき、きょうやくんともすんの」
「……」
雲雀にぐいぐいと卵焼きの刺さったフォークを近づければ、雲雀は小さく笑ってそれを口へと運ぶ。
卵焼きを食べる姿をワクワクしながら眺める名前。
『おいし??』
「おいしいよ」
『いつものよりおいしい?』
「そうだね。いつものより美味しいよ」
名前が欲しがるであるろう言葉を、さらりと言いながら、はしゃぐ名前の頭をそっと撫でる。
『あんね、なかよしは、おいしくの…えと…えっさんすなの』
「えっさんすって…なに?」
『うーん。わかんないけど。おいしくなんの』
食事の途中であるものの、嬉しくて思わず座る雲雀の膝にじゃれ付く名前に触れながら、フッっと笑い掛けながら自分の元にある品から一つ箸で取ると名前に差し出す。
「じゃあきっと、これも美味しくなるんじゃない?」
雲雀から差し出されたものを「え?なになに?」とハシャぎながら見詰めれば、名前の嬉しそうな顔が一瞬で苦々しいげな顔に変貌する。
『うげーっ。にんじんやぁー』
ジタバタと雲雀の膝から逃げるようにする名前を、ギュッと体ごと掴むとクスクスと意地悪そうな顔を向けて、名前に囁く。
「僕からのは、食べれないの?美味しいのに」
『う゛……』
雲雀に掴まれ逃げる事も出来ず、嫌いなニンジンを目の前に出されるものの、雲雀から食べさせてくれるという行為は、嬉しく嫌ではない。嫌ではなが…ニンジンは嫌。
「ねぇ。食べなよ」まるで誘うように色香を纏った雲雀の囁き。他人が聞けば頬を染めてドキリと、誘われるままになってしまいそうになるが、名前はそれどころではない。
ジタバタと動いて、雲雀の悪戯心を更に大きくさせる。
「仲良しでしょ?」
『きょうやくんいじわるいよぉぉ』
うーっと唸りながらも観念したのか、これ以上にはないと言うような嫌な顔で、ニンジンをぱくりと口にする。
「どう?おいしい?」
『う…げっ。きらい』
「きらいって…美味しくないって事?」
『お、お、お…おいし…い……くないもん』
そう言いながらも、ニンジンを飲み込む名前。
「でもきっと、いつものより美味しいんじゃない?」
『えーっ。わかんないもん』
抗議の声を上げる名前に、嫌いなニンジンを食べた事へのご褒美に、抱き締めたまま、良い子と頭を撫でる雲雀。
『きょうやくんいじわるだめよ!』
「いじわるしてないでしょ?」
『してんもん』
「そう?」
『そーだよぉ』
ジタバタとしながら頬を膨らませる名前が可愛くて、楽しそうに、膨らんだ柔らかい頬をぐにぐにと触れながら、チュッとキスをする雲雀。
食事の途中だと言うのに、端から見ればただのイチャイチャカップルに、どうしたらいいものかと…食事が終わるのを只ひたすら廊下で待つ草壁が、本日一番の意地悪を受けているのかもしれない。
2010/2/12
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