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Start of one week

雲雀が任務の為にイタリアへ旅立ち不在となる一週間。
ツナから、名前ちゃんを預かりますよと、嬉しそうに申し入れを受けた。
それは雲雀にとって、あまり歓迎する事ではなかったが、名前が懐いているハルが、ツナの近くにいるという事もあり、(渋々)それを受け入れる事とにした。


そして名前が、草壁と共に屋敷を訪れたのは、空が薄っすら色付くき始めた頃。

「いらっしゃい、名前ちゃん。なかなか来ないからどうしたのかなって心配したよ」

当初、昼過ぎには訪れる予定だったのだが、雲雀との別れからなかなか立ち直れず…この時刻になってしまった。

「すみません沢田さん。準備に少々…手間取りまして」

恐縮する草壁。

「あ、別に責めてる訳じゃないですから。嫌だなぁー気にしないで下さい。オレが勝手に楽しみにしていただけですから」

重くなりそうな空気を、笑って受け流す。


『ツナさん。こんにちわぁ』

雲雀からもらった大きな鳥のぬいぐるみを抱えながら挨拶する名前。
ぬいぐるみで顔が半分以上程隠れてしまっている姿に、ツナは、クスクスと笑い「ようこそ」と歓迎の言葉を送る。

「名前ちゃん、それ…大きいぬいぐるみだね」

『うん。あんね、とりさんはね。きょうやくんなの』

「ん?えっと…雲雀さんから、貰ったって意味?」

『あんね、きょうやくんがね、このこかわりだよてぇ。このこも、いっしょいい?』

もしかして、鳥さんと一緒はは駄目だろうかと、ドキドキしながらツナの顔を伺う名前。その様子が可愛いやら、可笑しいやらで、ツナは思わず「ぷっ」と吹き出してしまう。

「も、もちろんいいよ。名前ちゃんの大切な鳥さんだもの」

『よかったぁ〜。あとね、ヒバードもいんの』

ここに来る途中で、どこかに行ってしまったヒバードも一緒にと、お願いの顔を向ける。

「ん?もちろんヒバードもね。名前ちゃんは、鳥さんが好きなんだね」

『とねぇ。ヒバードだあぁいすきなの。あとあと、このこもぉ。きょうやくんだもん』

鳥のぬいぐるみのモコモコした肌触りに、気持ちよさそうに頬擦りをする。

えへへ。

笑う名前が、何時もと違う事に気付く。

「あれ?名前ちゃん、なんだか目が赤いね」

ツナは名前の頬に触れ、顔を少し上向きにさせながら、少し赤い目に心配そうな表情をする。

『んとぉ…おめめ、あかいの?』

目を擦ろうとする名前の手を、掴むとツナは首を振る。

「あー。擦っちゃ駄目だよ。余計に目が赤くなっちゃうよ」

名前の目が赤い理由。

泣いたのかな?

雲雀との別れは、やはり寂しく幼い名前には我慢が出来なかったのかもしれないと思うと、泣いた赤い目が痛々しく見える。

そんな一途な名前がとても可愛く、いじらしく感じる。

「雲雀さんは、本当に…名前ちゃんに愛されてるんだね。羨ましいなぁ」

『ん??』

ツナの言葉の意味が分からなくて、キョトンとしながら首を傾げれば、その仕草が余計に可愛い。
邪魔する雲雀もいない今、ツナは遠慮なくと言った感じで、名前をギュッと抱きしめると、ポンポンとあやすように背中を軽く叩く。

『ふえ?ツナさん?』

ツナの行動の意味が分からなくて、されるがままの名前の頭の中は、疑問符がいっぱい飛び交かう。

「あのね、名前ちゃんの為に用意した部屋があるんだ。案内するよ。気に入ってもらえるといいんだけどなぁ」

気分を変えようと、話題を変える。

『おへや?』

「そうだよ。あ、草壁さん。えっと…じゃあ後は、オレに任せてもらっていいですか?」

名前の側に控えるように立つていた草壁。
この屋敷の主人であるツナにそう言われれば、「分かりました」と返すしかない。

「名前さん。毎日は無理ですが、また来ます」

草壁は、名前と同じ目線まで屈み込むと、名前の頭の上にポンと手を置き、柔らかく微笑む。

『てつさんかえるのぉ?』

自分の頭の上に置かれた草壁の大きな手に触れる。

「沢田さんの言うことを聞いて、よい子で」

『……う』

雲雀とも別れたばかりで、草壁とも…。
寂しい気持ちが溢れてしまうのを隠すように、名前は勢い良く頷き、元気な返事を返す。

『よいこにいる』

名前の荷物をツナに託し、草壁は屋敷を後にする。
見送ってくれた名前の顔が、寂しそうに見え、草壁の心は少し重くなる。

雲雀が名前を連れて来る前は、小さな子供と触れ合う事など全く、大人だけの世界。
しばらく以前の状態に戻るだけのはずなのに…こんなにも、名前と離れる事を寂しいと感じる。
雲雀だけでなく自分にとっても、幼い名前が大きな存在なのだと、今更ながら痛感する。


「…長い一週間になりそうだな…」


足を止め、名前のいる屋敷を見上げると、独り言をもらした。



*******

草壁の姿が見えなくなると、名前の背中をポンと叩き、「付いて来てね」と促すツナ。その後を、トコトコと付いて行く。

「名前ちゃんの好きな感じが分からなくて、オレなりのセンスで部屋を用意したんだよ」

ぬいぐるみを抱えながらのもたつく足取りで歩きながら、ツナに相槌をする。

「鳥さん、オレが持とうか?貸してごらん」

名前が両手で抱えていた鳥を、ツナは、片手で軽々持つ。
空いた手の平を瞬きしながら見詰め、ツナの空いている手に伸ばしキュッと指を握る。

「ん?」

ツナの手に不意に届いた温もり。
自分の手の先に繋がった名前の小さな手を見下ろせば、ツナの視線に気付いて名前が、ヘラリと笑う。

思えば、ツナの中学時代。小さいランボや、イーピンと共に生活し、幼い子供の相手をしていたとは言え、大人になってからは触れ合う機会は殆ど無くなってしまった。
そして、繋がる幼い名前の手に、昔とは少し違う何かを感じる。それは、自分が大人になったからなのか、それとも名前だけに感じるものなのか…。

んーなんか、雲雀さんが名前ちゃんを大切にするのが分かる気がするなぁ…。

名前の手の柔らかさを確認するように、握る手に少し力を込める。



「名前ちゃん。ここだよ」

辿り着いた部屋の扉を開くと、部屋の中へと名前を導く。
名前の為にと用意されたその部屋は、柔らかいピンク色を基調とし、子供用に装飾された可愛い大きめのベッド。それと対になっている様なデザインの家具が置かれている。
部屋に敷かれたカーペットは、少し毛足のある暖色系のもの。
そして、ベッドにクマの縫いぐるみがちょこんと飾られている。

部屋をぐるりと見渡しながら、目をパチパチとさせる名前。

「どう?気に入った?」

手にしていた名前の荷物を置きながら、ツナは名前の様子を伺う。

『……』

「名前ちゃん?」

『あのね、きょうやくんがよんでくれたえほんの、おひめさまのみたいだねぇ』

ツナと繋いでいた手を離すと、部屋の中央まで歩いて行き、ぐるりと部屋を見渡す。

『ここ…わたしの?』

確認するような顔をツナに向ければ、クスリと笑われた。

「もちろん」

『ふわぁぁ〜っ』

惚けた声を上げる。どうやら気に入ったようだ。
名前の視線は、気になるベッドのくまの縫いぐるみに注がれる。

『このこも?』

「それは、オレから名前ちゃんにプレゼントだよ。鳥さんも一緒とは思わなかったから…余計だったかな?」

名前は、くまのヌイグルを手に取って、その頭を撫で、ニコリと笑う。

『かあいい』

ツナは手にしたままだった、鳥のヌイグルをベッドの上に置きながら、自分もベッドに腰掛ける。
名前はと言えば、クマを嬉しそうに眺めながらツナの置いた鳥に近付き話し掛け始める。

『とりさん。くまさんだよぉ。なかよくしてねぇ〜。くまさんも、とりさんとなかよくすんのねぇ』

縫いぐるみと、会話を楽しそうにする名前。
そして、クマを握りながらツナにを見上げる。

「ツナさん。ありがと」

『どういたしまして』

ほのぼのと笑い合う二人。

「くまさんも、可愛がってあげてね」

そうツナが言えば、コクコクと頷く名前。

「あ…名前ちゃん。悪いんだけど…オレ少し片付けないといけない書類があるんだ。一緒に行く?」

来たばかりの名前をこの部屋で一人にするのも可哀想だと思い執務室に誘ってみるが、名前は、首を振る。

『だいじょぶ!みんなとあそんでるもん』

もしかしたら遠慮しているのだろうかと思ったが、名前の様子は、特に気にした風もない。

『あのね、きょうやくんがおしごとんときも、ヒバードとあそんでんの』

「そう?」

『うん』

「じゃあ、後でまた来るね」

手を振りツナを仕事へと見送って、広い部屋で一人になれば、見慣れぬ部屋になんだか馴染めずもじもじとしてしまう。

いつも過ごす雲雀の日本家屋から、一変して洋館にいる自分に違和感を感じるようだ。
でも、部屋の大きな窓から見渡せる広く綺麗な庭園が、居心の地悪さなど忘れさせてくれる。

『おにあ…』

広い庭を見ていると、走り回りたい衝動がウズウズと持ち上がって来るが…。

―夕方になっら、外に出ないでよ―

雲雀の言い付けを思い出し、ぐっと我慢。
外をもっと見たくて、窓は開けていいだろうと、苦労しながら大きな窓を開けて外を眺める。
外からの風が頬に当たり、気持ち良くて目を細める。

『あ、とりさんとぉ、くまさんもいっしょね』

ベッドの上のぬいぐるみ達を窓際まで運び込み、話し始める。

『とりさん。クマさん。おっきいおにあだねぇぇ』

『あんね、あしたね、おにあであそぼうねぇ』

『おにごっこしたいなぁ。あとねー…』

『ごろんてしてねぇ』

『んとね、んと…んと…』

いろんなやりたい事を口にする。他にも他にも考えなくちゃと、言葉を一生懸命探すのに、直ぐに見つからなくなってしまう。
見つかる言葉は、もう一つしか無くて…それは、呟いては駄目なのは分かるけれど、でも…。

『きょうやくんにあいたいなぁ…』

鳥のぬいぐるみに力なく寄りかかれば、名前の体重でコロリと転がる鳥。それと一緒に、名前もカーペットに、コロリと転がった。

いつもなら、出かけていても名前の元に帰って来てくれて、頭を撫でてくれて、ほっぺにキスをしてくれて、「今日は何をしてたの?」と聞いてくれるのに…。雲雀は居ない。

『う゛…』

急にホームシックになる名前。
徐々に涙が瞳に溜まって来るのを、懸命に堪えようと唇を噛み締め、鳥のモコモコとした体に顔を埋める。

『……』


「ミ〜ドリタナビクーナミモリノ〜…」

『ふぇ?』

窓の外から聞こえて来る小さな歌声に、顔を上げ窓へと向ける。

『ヒバードぉ?』

「名前をカタカナで 名前をカタカナで」

名前の名前を繰り返しながら、ヒバードはパタパタと飛んで、開いている窓から部屋へと入って来ると、名前が差し出した手のひらの上にポフリと乗る。

『ヒバードぉ。どこいたのぉ』

鼻声で、ヒバードに話掛ける。

「ナイテル?ナイテル?名前をカタカナでナイテル?」

ヒバードは、首を忙しなく動かしながら、名前を見詰めている。

『ふぉ!?なかないよぉ!なくないよ』

泣いていた癖に、強がる名前。
鼻水が出そうになるのを、手のひらで鼻を擦りつつ…ずっと音を立てて鼻を啜る。
そんな名前を元気付けようとしているのか、ヒバードは、名前の手のひらに小さな体を擦り寄せている。
それがくすぐったいのと、嬉しいのとで、先程までのホームシックで落ち込んでいた事を忘れ、嬉しそうにはしゃいでヒバードに頬擦りをする。

『あんね、ヒバードにもごあいさつね。このこわぁ、くまさんだよ』

ツナからのクマを、ヒバードの目の前に持って来ると、自分でクマを動かしてお辞儀をさせる。

『ヒバードよろしく』

クマになりきり話をする。

「クマ、クマ」

『かあいいでしょお。なかよくすんのね』

ヒバードは、クマを数度嘴で突っつくとあまり興味がないのか、名前の手から抜け出し、転がる鳥の縫いぐるみのお腹の上に乗り、寛ぎ始める。

『ヒバードは、とりさんのがいいんだね』

すっかりご機嫌になった名前は、楽しそうにヒバードと一緒に縫いぐるみでしばらく遊んでいた。
それでも、次第にそれに飽きてくる。

『……』

飽きてしまった後の興味と言えば、部屋の外。
広い屋敷の中は…どんなのだろう。
何回か遊びに来ていても、全てを見た事がある訳ではない。

暗くなって外で遊ぶのは駄目だけど、屋敷の中なら……。

『ヒバードぉ。あそびいこー』

ピョコンと元気に立ち上がり、クマを抱える。

『とりさんわぁ。おるすばんしてんのね』

さすがにぬいぐるみを全て抱えて歩く事は出来ない。
『いい子、いい子、まってんのね』と鳥に言い聞かせ、撫でるながら、勝手に鳥に了解を得たようで、ニコニコと扉まで歩いていく。

扉に手を当て、ゆっくりと開ける。
廊下に、少し顔を出し様子を伺う。

『んとぉ…』

どこいこっかな?

『こっちぃ?』

直感。指で方向を指し示し、思いつくままに足を廊下に踏み出すと、元気に歩き出す。
頭の上には、ちょこんとヒバードを乗せ、手にはクマさんを持って探検開始した。


「おや?見掛けない子供がいますね…」

そんな名前の後ろ姿を、少し離れた場所で眺める人物にがいる。名前はその人物に気付かずに、鼻歌混じりで足取り軽く廊下を鼻歌混じりで歩いて行った。



さて、この探検で誰に会えるかな?


2010/1/8
* ATOGAKI *******
う〜ん。
名前ちゃんの、冒険?スタートです。あ、別に冒険じゃないか?

そして、雲雀さんはいつ登場するだろうかぁぁ。

う〜ん。謎です。

次回は…新たな登場人物との出会いって事で(^w^)

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