mokomoko
う…ん……。
布団の中で眠く重たい体を身動ぐと、なにやら何時もと違う感覚。
何時もならば、自分を抱きしめてくれる温もりを感じる筈が、今感じるのは、暖かく体を包んでくれていると言うよりも、自分が温もりに縋り付いていると言った方が適切。
モコモコした肌触り。
う゛… なに?
寝ぼけ眼で、自分がしがみついている物体を確認しようと、目を開ければ、前に広がっているのは、大きな黄色いモコモコした物体。
名前が両手を広げても、モコモコの後ろまで手が届かないそんな大きいサイズ。
???
目を擦りながら、ゆっくりと体を起こすと、マジマジそれを見つる。
『ほえ??おっきい…とりさん??』
少し離れて見れば、そのモコモコが、大きな丸い黄色い鳥の形をしているのが分かった。
『うわぁ!ヒバーぉ。おおきくなっちゃった?』
大きな声を出せば、名前その声に反応したのか、側で丸くなっていたヒバードが、大きな鳥の縫いぐるみの上にポフリと乗り、自分はココだとアピールしている。
『あ、ヒバードぉ!おはよ。おっきいとりさん。ヒバードじゃなかったぁ』
あははは…
笑いながら、再びモコモコした鳥にしがみつき肌触りを堪能する。
『モフモフ』
そして、ふと当たりをキョロキョロと見回す。
『あれ?きょうやくん…いない…???』
突然の大きな鳥の縫いぐるみの出現で、大事な人を忘れていた。
不安な顔で再び周りを見回すものの、雲雀の姿はやはり見付けられない。
この部屋には、名前、ヒバード、大きな鳥の縫いぐるみが居るだけ。
眉間にシワを寄せながら困惑する名前の視線は、鳥の縫いぐるみで止まり、幼い思考の中で、一つの答えを捻り出した。
『きょうやくん…』
鳥の縫いぐるみを、瞳をパチパチと瞬きさせながら見詰め、その自分が思いついた答えが、名前を驚きの顔に変える。
『ヒバードぉ!きょうやくんが!おおきいとりさんになっちゃったあぁぁぁ〜っ』
騒ぐ名前をよそに、のんびりモコモコの縫いぐるみの上で寛ぐヒバード。
『た、た、たいへん〜よぉ!!まほうつかいに、まほうをかけられちゃったんだよぉぉぉぉ』
数日前、雲雀に読んでもらった絵本に、魔法使いに姿を変えられてしまった王子様の話があった。
題名はなんだったのかは…既に思い出せない。
どうしたら魔法が解けるのか?その話は確か…お姫様が出て来る筈で…。
うーん。うーん。唸り声を上げて、その物語を思い出そうと腕を組んで、懸命に考える。
『おひめさま、さがせばいいんだよぉ』
戻す方法はハッキリ思い出せなかったものの、とにかくあのお話では、お姫様が王子様を元に戻してくれたのは確かな事で…。先ずは方法よりも、魔法を解く事が出来る人物を探すことが大切だと頷く。
うん。名案!そう思ったものの…
肝心の、お姫様がどこにいるのか分からない。
『ヒバードぉ!おひめさま、どこいんの?』
お姫様を探すため、立ち上がる。
鳥の縫いぐるみ(名前にとっては、雲雀である鳥)をそのままにも出来ず、両手でなんとか掴むと、抱えながらヨロヨロと廊下に出た。
寝間着姿に、足元も素足のままの名前。
廊下をペタペタと足音をさせながら歩く名前。
『う…まえぇ…みえないよぅ』
大きな鳥の縫いぐるみを抱えたままツライ態勢でヨロヨロ歩く名前の後ろから、ヒバードが楽しそうにパタパタと飛びながら着いて来る。
前が見えない名前は、目の前に人が居たのに気が付かず、抱える縫いぐるみごとぶつかりコロリと転がり尻餅をつく。
「ん?名前さん?おはようございます。どうしたんです?」
大きな鳥の縫いぐるみを抱える転がる名前に手を差し伸べ起き上がらせる。
縫いぐるみで前が見えない名前は、顔を少しずらして声の主を覗き見て確認すると、安堵の顔を向ける。
『あああぁーっ!!てつさん!おはよう!あ、あのね、あのね、たいへんなんだよぉぉ!!おひめさま、さがさないとなのぉ!!!どこいるかしってる?』
「は?」
いつもの事ながら、名前の話について行けず、草壁は名前をただ見詰める。
『あのね、わるいまほうつかいがね、まほうでね…』
懸命に、雲雀が魔法で鳥の縫いぐるみにされてしまったのだと草壁に説明したいのに、上手く言葉が伝わらず、地団駄を踏んでしまう。
『う゛ーっ』
もどかしく、涙目で草壁を見るものの…見られた草壁も、どうしたらいいものかと困惑するしかない。
『だからぁ〜っ』
そんな興奮気味の名前の背後から、すっと手が伸び名前の頭をそっと撫でる人物がいる。
この感覚は、いつも感じる手で…。
あれ???
顔を上げて、少しのけぞる姿勢で後ろに立つ人物を見詰める。
「哲。この書類は、このまま進めておいて」
聞き慣れた低めな声。
書類を草壁に向け手渡す白くしなやかな指が、名前の頭上に見える。
大好きないつもと変わらぬ人が、そこにいる。
『あれ?』
名前は、ギュッと抱き締めている黄色いモコモコの鳥と、自分の頭を優しく撫でる雲雀を、世話しなく交互に見詰めながら、あれ?あれ?と繰り返す。
『きょうやくんは…あれれ?とりさん…ちがう?』
「何?」
名前の困惑した声に、静かに返す雲雀。
『ふわぁぁぁ〜。よかったぁぁ』
不思議そうに見下ろす雲雀に、名前は安心したように微笑み、ポフリとモコモコの鳥に顔を埋める。
「……何かあったの?」
雲雀は、名前に聞くと言うよりも、目の前の草壁へ、この事態の問い掛けをする。
草壁は、雲雀の問う視線を受けるものの、答え様も無く困った顔で肩を竦めるしかない。
雲雀は、モコモコに顔を埋める名前に、屈み込み声を掛ける。
「何かあった?」
雲雀の問いに反応し顔を上げた名前は、興奮気味で言葉を続ける。
『あのね、おきたら、きょうやくんがモコモコのとりさんでね、わるいまほうつかいのせいでね、おひめさまね、いないとぉもどんないからぁ。でも…よかったぁ〜ちがくてぇ、きょうやくんいたぁぁ』
「……」
雲雀は、続けざまに勢い良く話す名前の言葉聞いても、全く理由が分からない。魔法使いや、お姫様がなぜここに登場するのか。
「恭さん。そろそろ出発の時間ですが…」
草壁は、腕時計を見ながら遠慮がちに声を掛ける。
その声に雲雀は頷きながらも、モコモコの鳥を抱えた名前ごと持ち上げると、名前が先程までいた和室の方へと歩いて行く。
「恭さん?」
雲雀の行動に、声を掛ける草壁。
「哲。車を回しておいて。すぐ行く」
「へい」
雲雀にそう言われれば反論する訳にもいかず、草壁は一礼し、車を回す手配に向かった。
雲雀は名前を抱え和室戻ると、寝間着のままの名前を着替えさせ、素足のまま廊下を歩いて、冷たくなってしまっている名前の足に、靴下を履かせようと足に触れる。
「冷たいね」
『ろうか、つめたかったもん』
名前の冷えた足を、雲雀は自分の手で数回摩り暖めると、靴下を手にする。
『あ、くつしたはけんのぉ』
雲雀から、靴下を受け取りぎこちない手付きで靴下を履いて見せる。
『ね、ね、すごぉおい?』
上手く履いた…とは言えないながらも、自分で出来る事を自慢気に見せる名前に、雲雀は薄く笑いながら、靴下をきちんと直してやる。
「凄いね」
『えへへ』
褒められ、照れ笑いを返す。
名前はふと、何やら思い出した様に立ち上がり、部屋の隅に置かれている数冊の絵本の方にトコトコと近付いて行く。
その様子を見詰める雲雀。
名前は、1冊の絵本を手に取って、雲雀の元へトコトコと戻り、手にした絵本を雲雀に見せる。
『これ』
「ん?」
渡された絵本を見る。
かえるの王子様。
「?」
雲雀が名前に、読んだことのある絵本。
確か…魔法でカエルの姿になってしまったた王子が、お姫様のキスで元の姿に戻り、お姫様と幸せに暮らすと言う話。
『きょうやくんがぁ、まほうで、とりさんになったとおもったの』
「……」
『で、でね、おひめさまいないと、もどんないからぁ…おひめさまみつけたかったんだよぉ』
頬を高揚させ、懸命に雲雀に話す名前。
ふう。と、息継ぎをしてニコリと笑う。
『でもちがくてよかったぁぁ〜』
雲雀の胸に抱きついて、顔を埋める。
そんな名前に、雲雀はクスリの笑って、抱き着く名前の頭を優しく撫でる。
「魔法でその鳥に、僕が変わったと思ったの?」
『うん。だっておきたらぁ、きょうやくんいなくて、このこがいたからぁ』
「夜更かしして、名前がなかなか起きなかったからね、僕が居ない間の代わりにと思って、この子を置いたんだよ」
『この子…かわり?』
「そう。名前が、寂しくないように…僕の代わりに。プレゼント」
プレゼントと言われ、顔を輝かせながらモコモコの鳥を撫でる名前。
「気に入った?」
『うん。とりさんうれしいぃぃ。きょうやくん。ありがとぉー』
モコモコの鳥に笑い掛けながら、『とりさんよろしくねぇ』と、話し掛ける名前。
「ねぇ」
『う?』
「もし…魔法で僕の姿が変わっても…」
『?』
「お姫様を探す必要は無いよ」
『なんで?』
雲雀は、名前になぞなぞを出すように、クスクスと笑いながら名前に触れる。
『ん〜なぞなぞぉ?』
答えが分からず、腕を組んで考える名前に、笑う雲雀はそっと囁く。
「だって、僕にとってのお姫様は、名前だからね」
『ん?』
キョトンとする名前。
「だからもし…そんな時は、名前が僕にキスすればきっと元に戻るよ」
パチパチと瞬きしながら、雲雀を見詰める。
『そおなのぉ?』
「うん。そんな時は頼むよ」
『うん!!わーったぁ』
任せてと、胸を張る名前。
それが可愛く、雲雀は、名前のおでこに、チュッとキスを送る。
『ほぇ?』
おでこに、手を当てると嬉しそうに笑う名前。
「そろそろ時間だよ…」
『じかん?』
「そう。出掛ける時間」
雲雀が、暫く居なくなる事を思い出し、思わず悲しい顔になりそうになったのををグッと堪え踏ん張る名前。
でも、かすかに眉がへの字になってしまい困った様な顔を雲雀に向ける。
「ワオ。そんな面白い顔で、見送りしてくれるの?」
雲雀は手を伸ばすと、名前の頬を、摘む様に触れ笑っている。
『お…おもしろい…かおないょ』
ぶぅ〜う。と声を出して口を尖らせ、なんとか言葉を出すものの、それ以上は上手く喋れず、声を出したら思わず涙が零れそうになってしまうので、我慢して雲雀を見詰める。
手を繋いで廊下を歩く二人。
出口で、草壁が雲雀を待っている姿が見える。
一歩、一歩進むにつれ近づくのが本当は嫌なのに、進むしかなく…繋ぐ雲雀の手をギュッと握る。
雲雀にそれが伝わると、何も言わずに優しく握り返してくれる。
それを、潤む瞳で見上げる名前。
そして、あっと言う間に草壁の元に到着してしまう。
「恭さん。お気を付けて」
「……。哲」
雲雀は、名前の手をそっと離し、名前の頭を撫でる。
「へい」
「頼むよ」
「へい」
静かに頭を下げる草壁。
「名前」
名を呼ばれ、雲雀を見詰める。
「行って来ますの、キスをくれる?」
雲雀は、屈んで名前に近づくと、名前は雲雀の頬に、チュッとキスを送る。
キスを受け、車に乗り込む雲雀をじっと見詰めながら、小さな声で何か言う名前。
「ん?」
雲雀が聞き取れずにいると、名前は、もう一度グッと雲雀に顔を向けると、大きな声で繰り返す。
『い、い、いってらっしゃーい!!!!』
「声。大きすぎ」
雲雀はわざと顔を顰めて見せ、直ぐ意地悪そうな笑いを名前に返す。
『う…』
「名前。前にも頼んだけど、ヒバードをよろしくね」
頷く名前に、クスリと微笑を残し、雲雀は出掛けて行った。
雲雀を乗せた車を見送りながら、溢れて来る涙を堪えようと顔をしかめる名前の頭に、草壁の手がポンポンと触れる。
顰めっ面で、草壁を見上げると、ポロリと大粒の涙が流れる。
「恭さんに、泣き顔見せたくなかったんですね」
『う゛ん』
頷く度に、瞳から涙が零れる。
「もう、我慢しなくていいですよ」
草壁のズボンをギュッと握りながら、大きな声で泣く名前の小さな背中を、そっと優しく撫でる草壁。名前が落ち着くまでと、静かに見守る。
「一週間で帰って来ますよ」
『うん』
泣き過ぎて、真っ赤になった目と鼻。
ズルズルと鼻水を啜る名前に、草壁は、ティッシュを当て鼻をかませてくれる。
少しして落ち着き泣き止んだ名前を、草壁は和室へと連れて戻る。
部屋には、雲雀からのモコモコの大きな鳥の上に、ヒバードが気持ちよさそうに目を閉じ寛いでいる。
名前は、大きな鳥に近づきモフモフした体に圧し掛かると、顔を埋める。
「名前をカタカナで 名前をカタカナで」
ヒバードが、何時もと違う名前を感じ取ったのか、名前の頭にポフリと乗ると、名前の名前を繰り返す。
『ヒバードぉ〜がんばるよぉ』
「名前をカタカナで ガンバル ガンバル」
これからの一週間。
はたして、名前にとって長いのか、短いのか?
ツナの屋敷で、過ごす事になる名前。
また新たな出会いがある…はず。
でも、今はまだ、それは知らない事。
2009.11.15
* 言い訳の様な…解説 ******
今回の話に出てくる『カエルの王子様』は、グリム童話のお話をアレンジされたものの設定で載せてます。
本来の『カエルの王子様』の魔法の解け方は、お姫様が、カエルを壁に叩きつけて魔法を解くものです。
が、それでは…あまりにも…酷いと言うか、そんな話しを名前ちゃんに、聞かせるってのもなんなので、アレンジ編の絵本を雲雀が読んであげていると言う設定で、ご了承下さいませ。
* ATOGAKI *******
思っていた話と…若干ズレました!
黄色い縫いぐるみと雲雀さんの取り合わせネタは、前からあったんですが…こんな展開になるとは!?
名前ちゃんが、暴走しやがりました。
魔法ネタなんて最初予定なかったのになぁ?あれれ?
まぁ〜なんか、楽しかったんで自分的には良かったです。
さてさて、雲雀さんは、任務でイタリアへ行ってしまいましたぁ〜
次回は、新たな…キャラ出るかなぁ?どうかなぁ?
名前ちゃんが、暴走しなければ…新たな出会いがあるはずですなぁ〜。
クフフ…。←はっΣ(°□°;)この笑いはっ!!
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