(一万打記念)花火*1(雲雀編)
夏の熱い日差しの中、暑さを感じでいるのかいないのか…黒いスーツをスラリと着こなし並盛商店街をスタスタと歩く雲雀。
商店街の至る所に張られたポスターを見てふと足を止める。
「今日だったっけ…」
独り言を呟く。
毎年この季節になると貼られるこのポスター。今まで特に興味を示す事は無かったが、今年に限っては、いつもと違い興味が湧いた。
―8月○○日夜7時より―
「……」
***********
『おいしい〜』
縁側で小さな足をブラブラさせながら、草壁が切ってくれた自分の顔より幅のある大きいスイカを、幸せそうに頬張る名前。
「あ…そのまま食べたら服にスイカが…。横のスプーンで食べて欲しいんですけど…」
豪快な食べ方に、呆れ顔で注意する草壁。
『ほえ??だってーこっちのがおいしいもん』
食べ方でどれくらい味が変わるのかは疑問視するところではある。
だがそれよりも、口の周りをスイカまみれにしながらニコニコと笑う名前の着ている白い麻のワンピースだった筈のものが、スイカ色になって既に白いワンピースとは言えないものになってしまっている方をなんとかする方が先かもしれない。
食べ終わったら早速洗濯だな…。草壁は苦笑する。
『てつさん!すいかのたね、まいたらすいかなる?』
「どうですかねぇ」
『したらぁーすいかいーっぱいたべれるよね』
スイカの種を蒔き、庭にいっぱいのスイカが出来るのを想像して、ニマニマ笑う名前と、それを笑って聞いている草壁。
その背後から、ため息が漏れる。
「そんなに食べたらお腹壊すよ」
戻って来た雲雀が呆れた声で名前に突っ込と、その声に反応して嬉しそうに雲雀を見上げる。
『あーっっ!!きょうやくんおかえりなさぁーい』
縁側で、スイカ片手の名前。
「ワオ。なにその顔」
『う??』
本能の赴くままスイカに齧り付いていたという惨状が縁側に繰り広げられている。
「野生の小猿みたいだね」
「おさるさん??」
雲雀は、スイカの皿が置かれたお盆の上にあるお絞りを手にすると、名前の顔を拭いてやりながら横にスッと腰掛ける。
「野生的な食べ方だねそれ」
『えへへ。おさるさんかわいいね』
「いや…誉めてない。なんで、スプーン使わないの?」
『え〜っ。だってぇ。このほうがいいんだもん』
「いいって…その服…べたべただよ」
『おお??』
自分の胸元を見れば、スイカの色に変わってしまったワンピース。
あわわと慌てそれを手で擦ってみるものの、スイカでべたべたの手では傷口を広げるだけで意味が無い。
「それ、意味ないから」
『……。ごめんなさい』
雲雀と、草壁に謝る名前。
考えなしで汚れてしまった服に反省し、シュンと落ち込む。
「別に…汚れたのは着替えればいいよ。ただ次は、ちゃんとスプーンで食べなよ」
『うん』
雲雀は、使用されていないスプーンを手にすると、名前の食べかけのスイカをすくって自分の口に運ぶ。
「あまいね」
そして、もう一度すくうと次は名前の口に運ぶ。
スイカの乗ったスプーンをパクリと口にする名前。
『うん。おいしいィィ』
名前の機嫌が一気に回復して、雲雀に笑い掛ける。
「恭さんのスイカもお持ちしますか?」
後に控えていた草壁が声を掛けるが、それを断り、草壁に別の指示をする。
「哲。名前の浴衣を用意して」
「は?」
「今夜の並盛花火大会…行くから」
『はなび?』
ああ、そういえば毎年この時期だったと思い出す草壁。
「へい。では、名前さんと恭さんの浴衣用意しておきます」
「うん。あ、あと場所もね」
「では、関係者席を連絡して取っておきます」
草壁は一礼し、名前に視線を向ける。
「名前さんは、取り合えず…新しい服に着替えましょう」
『うん』
草壁について行こうと、縁側からピョコっと立つ。
雲雀は目でそれを追うと、名前の手を軽く掴む。
『うお?』
数歩歩いた所で止められて、掴まれた自分の腕の先の雲雀をキョトンと見つめる。
「哲…。名前の方は、僕がするからいい」
草壁は、雲雀を一瞬見て一礼し、名前の食べ終えたスイカだけを下げ部屋を出て行った。
『きょうやくん!』
「なに?」
『はなびたいかいて〜たのしい?』
「ん?」
花火大会に一度も行った事がない名前は、どんなだろうとワクワクする。
「大きい花火が、空に上がるんだよ。それは…綺麗だけど、見ている群れが咬み殺したくなる」
『はなびの、おっきいはなび…すごいねぇ』
想像し、『お〜っ』と天井を見上げて叫ぶ。
『んと、んと、おっきいはなびは、すっごくおおきいひとがもつんだねぇ』
感動の眼差しの名前。
「……そんな訳ないでしょ」
『およ??』
手で持つチビッ子花火しかした事がない名前は、きっと絵本に出てくるような巨人が手にしてするに違いないと想像していた。
『ちがうの?』
自分の想像を超えてしまい“?”マークをいっぱい飛ばしていた。
20090812
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