おうじさま。
『ごほんよんでぇ』
お気に入りの絵本を抱え、着流し姿で和室で寛ぐ雲雀の前に立つ名前。
手にしている絵本を見れば、名前のお気に入りの1冊。
「いいよ」
雲雀の承諾の言葉に、喜びながら定位置である雲雀の膝のにポスリと座り、小さな体を雲雀へと預ける。
雲雀の中にスッポリと収まった名前の体を抱きしめながら、名前が握りしめる絵本の表紙を見つめる。
「それ、好きだね」
『うん』
お姫様と王子様のお話。
悪い魔法使いに捕まってしまったお姫様を王子様が救い、二人は幸せに暮らすと言うありがちな話の展開。
この絵本の中の王子様が名前はいたくお気に入り。
『だてぇ、おじさまかっこいい!』
瞳をキラキラと輝かせる名前が可愛いのだが…雲雀は気に入らない。
絵本に描かれている王子様は、ありがちな金髪のスラリとした青年。
初めは気にも止めなかった事だが、何度も読む内に、名前がその王子のファンになっている事に気が付いた。
金髪なんてどこがいいんだか…
絵本の王子を見ると、見知った金髪の人物の顔がちらついた。
ムカツク…。
そんな雲雀の心中など分かる筈もない名前。雲雀の膝の上で足をバタつかせながら、お話が始まるのを待っている。
『きょうやくん。おはなしぃ〜っ』
「あ…」
待ちきれなくなった名前に早く読んでとせがまれ、雲雀は気持ちを切り替え、絵本のページをゆっくりと捲り物語を読み始めた。
「むかしむかし、あるところに…」
絵本に書かれた物語を、心地よい雲雀の声が語る。
雲雀の膝の上で、物語を聞きながら絵本のイラストを楽しそうに眺める名前。
ページを読み進め中盤。
名前のお気に入りである王子様が登場するページに差し掛かり、ページを捲る。
「……」
これ…。
声を出さず絵本を見つめる雲雀。
『ほえ?』
物語が止まった事に、膝の上で雲雀の顔を見上げ、不思議そうな顔で小首を傾げる。
名前の視線を受けながら、物語を読んでいないのに、雲雀は更にページを捲ると、ページにあるイラストと見つめ、ページの見つめる一点に、雲雀は指で触れた。
指で触れた場所には、黒い…
「クレヨン?」
ページを指で触れた感触で、クレヨンだと分かった。
絵本の一部に、黒いクレヨンが塗られている。
「……」
絵本を黒いクレヨンで塗った犯人は、自分の膝の上にいる名前である事が分かる。
その塗られた所は、どのページも決まった色の上に塗られている。
それは、王子様の金色の髪の上。
雲雀がクレヨンの上を触れていると、名前は笑いながら言う。
『あんね、おじさまだいすきだからぁ。きょうやくんとおんなし、いろにしたのぉぉ。えへへ』
「……」
笑う名前の頭を優しく撫で、口元を微かに上に上げる。
「名前の王子様は…僕なの?」
『うん!!そだよぉぉ』
やわらかい触り心地の良い頬をピンクに染めながら答える名前。
わたしのおじさまわぁ
きょうやくんだもん。
2013/6/17
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