寝ころぶ上に体を乗せて
冬の足音が聞こえるそんな季節。
そんな季節でも、ポカポカと暖かい日差しが降り注がれ、寒さに一息付けるそんな日もある。
昼間の暖かい日差しが眠気を誘う。
和室の庭へと通じる障子越しからも日差しが漏れる。
「ふぁ」
軽い欠伸を一つ付くと、黒い着流し姿の雲雀は体を畳に預ける様に横になり、黒曜石の様な黒い瞳をゆっくり閉じた。
静寂。
「……」
時が止まってしまったのかと思えるほどの静寂。
部屋には時を刻む時計すらも無く、秒針の音すら無い。
これが雲雀の日常。
ゴロリと寝返りを打つ。
「……」
何か足りない。
パタパタ。
静かな部屋に、黄色い小さな鳥。ヒバードが部屋の中へと飛んで来ると、雲雀の頭の上に小さな体をポフリと乗せる。
その行為に、雲雀も気にも止めず横になった体勢のまま。
ヒバードの登場に程なくして、廊下をから小さな足音が聞こえて来る。
その足音の主が誰なのかと言う事は、確認しなくても分かる。
『ヒバードぉぉ』
和室に姿を現したのは、小さな少女。
雲雀が大切にしている名前。
『あ』
ヒバードを追って来た和室に、雲雀の姿を見つけ、大きな瞳を更に見開く。
横になる雲雀の姿に小さく首を傾ける。
『おひるねぇ?』
眠っている雲雀を起こさないように囁くように小さな声。
名前の言葉に反応したヒバードが、その言葉を繰り返そうとするのに気づいた名前は、慌てながら側へと走り寄る。
「オヒル…」
『ヒバードぉぉ。しぃーだよぉぉ』
ヒバードよりも、慌てている名前の方が、雲雀の眠りを妨げる騒がしさなのだが、本人にとっては懸命に雲雀のお昼寝の邪魔をしないようにとしている。
名前は、そっと雲雀の様子を窺う。
目が覚めていない雲雀の動きに、小さく安堵の息を漏らす。
『ヒバードぉ。きょうやくわぁ、おひるねしてるからぁ、しーぃ。なんだよぉ』
「シー、シー」
『うん』
極力小さな声で話す名前。それに合わせてヒバードの声のトーンも小さくなる。
そんな名前の動きに、寝たふりをしている雲雀は口元が緩む。
なんて可愛い。
起き上がって名前を抱きしめ、柔らかく甘い名前を感じたいと言う衝動が込み上げてくるのだが、ここはグッと我慢。
名前がこれからどんな行動を起こすのか。
『ん…』
名前は、寝転んだ雲雀の髪に手を伸ばし、そっと撫でる。
小さな名前の手に、よしよしと撫でられるままの雲雀。
『えへへ』
頬をピンク色にさせながら名前は、嬉しそうに笑うと、撫でる手をそっと止める。
「?」
目を瞑っている雲雀に、名前の行動が分かる筈もなく、次の動きをただ待つだけ。
ひとしきり雲雀の頭をなでていた名前の次の行動は、雲雀の髪にそっと鼻を近づける。
『ふんふん。きょうやく、いいにおい〜』
雲雀本人には分からない雲雀の匂いを堪能し始める。
「……」
僕なんかより、名前の方が甘い匂いなのに。
雲雀が寝ていると信じきっている名前は、えへへと一人照れ笑いをした後、雲雀のほほに指でチョンと数回突っついたあと…
僕を突っついて楽しいのかな?
雲雀が不思議に思っていると
ちゅーっ。
雲雀の頬に指では無い、柔らかい名前の唇が触れ、また離れる。
自分の行為に照れながらも、満足気な笑顔。
側にいたヒバードが、名前の頭にポフリと乗りながら羽をパタパタと動かす。
「チュー、チュー」
『えへへ。いいぃ?ヒバードぉ。ないしょなんだよぉ?』
「ナイショ?」
『ないしょぉ〜』
照れ笑いの名前。
内緒と言っても、雲雀にはバレてしまっている可愛いキス。
『あんね、きょうやくわぁ、おしごとでつかれてんだよぉ。だからね、ねんねさせてあげんだよぉ。とね、おやすみのちゅぅなの』
雲雀と遊びたいのだけど、気持ち良く寝ているのに邪魔をしたらいけない。
ゆっくり休ませてあげたいと名前なりに思う。
が、やはり幼い名前は、本当は大好きな雲雀に甘えたい。
『とー。そだぁ、おふとんないかなぁ?』
このまま寝ているのでは、寒いのではないかと気付く。
自分がよく、遊び疲れて部屋でいつの間にか寝てしまった時、いつも暖かいブランケットを掛けてもらっている。
周りをキョロキョロと見ても、雲雀に掛けてあげられそうな物も見つからない。
『うー。どしよぉ』
悩む名前。
まま寝たふりをしている雲雀も、そろそろ起き上がろうかと思ったその時。
名前の中で、名前なりの名案を思い付く。
『そだぁ』
その一言に、雲雀は起き上がるタイミングを外してしまい、名前の思い付きにもう暫く付き合ってあげようと動かずにいると…。
ノシッ。
雲雀は自分の体にズシリと重みを感じる。
名前に気が付かれない様にうっすらと目を開ければ、雲雀の寝ころぶ上に体を乗せている名前の姿。
名前は、自慢気にヒバードに話す。
『わたしがおふとんになったげんのぉ。ヒバードぉ。すごーでしょ?』
ギュッと雲雀にしがみつく名前。
『えへへ。ポカポカすんだよ』
雲雀と名前の体温が重なり暖かい。
嬉しそうな名前に、雲雀は我慢出来ずに思わず笑ってしまう。
『ほぇ?きょうやく、おきたぁ?』
寝ていたのを起こしてしまったと驚く名前。
普通ここまでされて起きない人もいないと思うのだが…。
『おひるね…じゃましてごめんなさい』
雲雀の上にのしかかったまま、シュンとする名前。
傍目体見るとあまり反省している様には見えない体勢。
「ねぇ」
『ふぇ?』
「僕の上にあるのは、名前特製布団なの?」
『う?』
雲雀からの質問に、一瞬戸惑いキョトンとする。
雲雀は、名前を落とさない様にゆっくりと起きあがると、名前の小さな体を両腕で優しく抱きかかえると、そねまま抱き締めた体勢で再び畳にゴロリと横になる。
「名前布団も暖かくて良いけど、僕は、名前湯たんぽを抱き締めて寝る方が暖かくて好きなんだけと?布団は辞めて、湯たんぽにならない?」
優しく微笑み、湯たんぽの名前のおでこにチュッとキスをする。
『とぉ。したらぁ、おふとんなくてぇ、ゆたんぽなるぅ。きょうやく、ねんねする?』
可愛く名前に問われれば、本当は、可愛くて食べてしまいたい名前にイロイロしたい雲雀なのだが、雲雀の事を思ってくれる名前の言葉が嬉しく、小さく頷き、名前のおでこに自分のおでこをコツンと合わせて、名前を見つめる。
「そうだね。名前湯たんぽも手に入った事だし、少し寝ようかな」
『うん』
抱かれている名前は、雲雀の胸に体を更にすり寄らせて甘える。
可愛い名前の頭をゆっくりと撫でてやれば、雲雀が眠りに付く前に名前の方が先に夢の世界へと…。
ポカポカと長閑な昼下がりに、ほのぼのして甘くて暖かい場所。
心も体も名前に浸食されて。
甘美な可愛い媚薬。
手放す事など出来ぬ程に愛おしい。
僕の上に無断で寝転ぶなんて…名前にしか許されない行為だよ。
なんて大胆不敵な君。
2012/11/28
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