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おひさま。

ザクザク。
子供スコップで庭の土を掘り、出来た穴に種を一粒。
種の上に土をかけて、土をポンポンとスコップで叩く。

『ワクワクすんねぇ。おはな、どううくらいかなぁ』

種を埋めた場所にしゃがんでジッと見つめる名前。

『んーまだかなぁ…。そだぁ!おみずだぁ。おみずあげたらおっきくなるよ』

種を埋めただけで、そんな簡単に芽が出るはずもない。
それでも元気にパタパタと走って水を取りに行く名前の後を、ヒバードがついて行く。

『ヒバードぉ。おはなのたねぇ、うめたんだよぉぉ。おひさまみたいにおっきーおはなさくんだってぇー』

「ハナ、ハナ」

『そだよぉ。おななさいたらぁ。きょうやきんにみしてあげんのぉぉ』

そう言って、種を植えてから1週間は経った。
今日も今日とて、種を埋めた場所に名前はじょうろに水をたっぷり入れて、水を掛ける。

『たねさん。はやくおーきくなんだよぉぉ』

種を植えた場所にじょうろの中の水を全部かけ、その場所に大きな水溜りが出来る。

『んー。たねさん。ぜんぜんおっきくなんないよぉ。なんでぇ?』

一向に種を埋めた場所から芽が出ない水溜まりをジッと見つめる。
名前はきっと芽が出て、育って花が咲くと思って毎日その場所を眺める。
そんな名前の毎日の水やりは、いつも雲雀が居ない時。雲雀に内緒で、綺麗な花を咲かせて驚かせようと思ったから。
しかし、名前のそんな行動に雲雀が気付かない訳もない。
名前が庭で何か植物を育てようとしている事に気が付いていたが、名前が一人で頑張ろうとする姿にそっとしておく事に。
名前の行動は、雲雀の為と言う事は気が付かず…。

『うー。どしたらいいのかなぁ』

しゃがみ込んでいる名前の頭の上に、ヒバードがちょこんと乗って、名前と共にじっと地面を見つめ、不思議そうに首を傾げる。

『ヒバードぉ。たねさんね、ぜんぜん。おっきくならないんだよぉ?いっつもごはんでぇ、おみずあげてんのになぁ…』

しょんぼりとする名前に、ヒバードは頭の上から、名前の肩にちょこんと移動すると、ヒバードなりに元気付けようと名前の頬に自分の体を寄せる。

『ふえ?ひばーどぉぉ。くすぐったいよぉぉ!あははは…』

「名前をカタカナで。アソブ、アソブ、コッチ」

ヒバードが遊ぼうと誘えば、単純な名前は上機嫌になって、ヒバードの後を追って走り出す。

『ヒバードぉ!まてまてー』

「コッチ、コッチ。名前をカタカナで、名前をカタカナで」

名前が走って行ってしまった内緒の種を埋めたその場所に、そっと雲雀が立ち、その地面を見つめる。

「・・・・・・」

自分ひとりで種を育てようとしている事はいいが、その地面は水をやりすぎて池のように水溜りになっていた。
この水の量を毎日あげているのでは、どう考えても水のやりすぎで…芽が出ないのも当たり前。
雲雀は地面を見つめ、小さく溜息を付く。
さて、どうしたものか?

縁側に座って不機嫌そうに唇を尖らせ、足をブラブラと動かしながら座る名前。
視線の先は、種を植えたあの場所。
ヒバードが遊んでくれた時は、機嫌も直ったのだけれど、それは一瞬の事。やっぱり気になる種の事は頭から消えなくて、気持が沈む。

「名前」

『ふえ?きょうやくん』

いつもなら、雲雀が来れば嬉しそうに笑う名前なのに、今は元気が出せず、雲雀の顔を見上げるだけ。
雲雀は名前の頭をそって撫で、横へと座る。

「どうかした?」

『う゛…』

雲雀の問い掛けに、俯きながら小さな声を漏らす。

「ねぇ」

『あ、あんね…あんね…』

雲雀に問い掛けられれば、どうしても秘密に出来ない名前は、種を庭に埋めてもう何日も経つのに芽も出ない事を告げる。

「そう」

『あんね、おはなね、おひさまみたいなおはなさくんだってーそんでね、すごーっくおっきいおはななのぉ』

「お日様みたいな花って…向日葵?」

『ん…ひまあり?わかんない』

「どうかな?ねぇ、名前。これから出掛けようか?」

『おでかけ?』


雲雀の運転で出掛けた二人。
何処に行くのかも分からない名前は、雲雀に何処へ行くのかと尋ねれば、着けば分かるよと言われるだけ。
車は町並みから次第に郊外へ。

車は目的地に着き車外に出た名前は、目の前に広がる景色に驚きの声を上げる。

『ほえぇぇぇぇー!すごぉぉぉぉいよぉ。きょうやくん!みてぇ、おひさまがいっぱい』

名前の目の前に広がるのは、向日葵畑。たくさんの向日葵が名前と雲雀を迎える。

「これが向日葵だよ」

『ひまありぃ…すごぉねぇ』

沢山の向日葵に驚いた名前は、雲雀の足にしがみ付きながらその光景をマジマジと見つめる。あの庭の種が育つとこんな素敵な花がさくのかと気持がワクワクとする。

『おひさまみたいでぇ。かわいいねぇ』

向日葵畑を側で見ながら、向日葵の側に行ってたくて興味深々の名前。
向日葵の背は名前よりもずっと大きくて、近付けば向日葵を見上げなければならない程。
向日葵畑の中に行きたくてうずうずする名前は、雲雀の顔を見上げる。

「行ってくれば?ここで待ってるよ」

そう言ってやれば、名前は嬉しそうな声を上げ畑の中へと走って行く。
背の高い向日葵の中に小さな名前が、まるで絵本の小人が飛び跳ねて遊んでいるように見え、その光景に雲雀はクスリと口元を綻ばせる。

「可愛い子ですね?」

雲雀の横に、一人の青年が立ち話しかける。
その人物に、雲雀は特に興味もなく無表情にチラリと一瞬見つめただけ。
雲雀の視線に、不審者と思われたと思った青年は慌てながら、また話し続ける。

「あ、私、この向日葵畑の管理をしている者です。今年の向日葵もそろそろ終わりですけど、その最後に可愛いお客様が来てもらえて嬉しくてつい。あのー、お子さんですか?元気があって、まるで向日葵みたいですね」

雲雀の答えなど気にせず話し続ける成年に、不機嫌になりそうな雲雀だったが、名前を褒めてくれている事については悪い気分はしない。

「そうだ、よかったら向日葵持って帰られますか?」

ひとの良さそうな青年は、ニコニコと雲雀に笑いかける。
そんな雲雀と青年の元に、向日葵の中ではしゃいでいた名前がはしゃぎながら戻って来た。

『きょうやくん。ひまありぃすっごーおいっきねぇ。じゃんぷしてもとどかないよぉぉ』

嬉しそうに雲雀にじゃれながら向日葵の感想を話す名前に、雲雀はクスリと優しく笑って、名前を抱き抱える。
それを見ていた青年は、無表情だった雲雀が名前に優しい顔を向けるのを意外そうに見つめれば、名前と視線が合う。
雲雀の腕の中で名前は青年を見つめながら、誰かな?と小首を傾げる。

「お嬢さん。向日葵が気に入ったかい?」

『うん。ひまあり、おひさまみたいおっきーねぇ』

「良かったら1つあげるよ」

『ほんとぉ!!』

青年からの素敵な申し出に、名前は嬉しそうに顔を輝かせながら、雲雀の顔をチラリと見る。

「名前が欲しいなら貰えば?」

『うん!もらうよぉ!ありがとぉぉ』

向日葵畑を堪能し、帰り際に向日葵を貰った名前は、上機嫌で車に乗り込む。
運転席へ向かう雲雀に、青年は「良かったらまた来年もお子さんと来てください」と、人の良さそうな顔を向け伝える。

「そうだね、名前も気に入ったみたいだから、でも…」

「はい?」

「名前は、僕の子じゃなくて、僕の大切な子だから。間違えないでくれる?」

「は?」

助手席に乗った名前が、窓から向日葵を抱えながらぴょこんと顔を出す。

『きょうやくーん!!はやくー!ひまあり、てつさんとぉ、ヒバードにみしてあげよーよーぉ』

嬉しそうに雲雀を呼ぶ名前に、雲雀は小さく頷くと、雲雀の言葉に不思議そうな顔をした青年を後に、車へと乗り込む。

「あ!すみません。あの!これ」

青年は、自分のポケットの中から何かを取り出し、雲雀へと近付く。

「何?」

青年の手にしたものを、雲雀は受け取るとそれを見つめる。
渡されたのは、向日葵の種。

「よかったら、来年の夏に育ててみて下さい。名前ちゃんと一緒に」

『ほえ?きょうやくん。なに?なに?』

助手席の名前には、二人のやり取りがよく分からず、興味深々で身を雲雀の方へと寄せる。

「名前ちゃん。来年、大きな向日葵を育ててみてね。あと、来年もまたこの向日葵畑に遊びに来てくれたらうれしいな」

青年の言葉に、名前は大きく頷く。

『うん!またくんね。きょうやくんといっしょにくるよー』

元気な返事に、嬉しそうに頷く青年。

「名前。行くよ」

雲雀と名前は向日葵畑を後にする二人の車を、青年は手を振って見送った。

車の中で、向日葵をもらえた名前は上機嫌。
その隣で、名前と青年が楽しそうにしていた事に少々不機嫌になっていた雲雀は黙々と運転をしている。

『きょうやくん。ひまありいっぱいだったねー』

「そうだね」

『あんね、また、いこーねー。』

「そうだね」

『あんね、おにわのたねも、ひまありになんのかなぁ』

「……」

『したらぁ、すごーねぇ』

「名前。庭の種は…多分無理だよ」

『ほぇ。ひまありなんないのぉ?』

上機嫌だった名前は、雲雀の意外な言葉に驚きの顔を向ける。

「あの種は、今年は無理だよ。来年、一緒に向日葵の種を植えよう」

『う…だてぇ…』

手にした向日葵をギュッと持ちながら、寂しそうに俯く名前。
走る車は、信号に捕まり止ると、雲雀は名前の頭をそっと撫でる。

「僕と一緒には嫌かい?」

雲雀の言葉に、ブンブンと首を振る。

「今年は、今見た向日葵で我慢するんだね。僕は、名前と一緒に見れたから満足しているよ。名前の向日葵は、来年僕と育てよう」

『あんね、おにわのたねね、きょうやくんにおはな、みしてあげたかったのぉ』

雲雀の為にと思っていた名前は、残念そうな顔。
名前が自分の為にと埋めた種。

「僕のためだったの?」

コクリと頷く。

「そう。その気持だけで嬉しいよ」

雲雀は名前の頭にチュッとキスを送り、車をまた走らせる。


『きょうやくん』

「なに?」

『ひまありね、きょうやくんといっしょにすんね。そんで、おっきーひまあり、いっしょみよーね』

向日葵を見つめながら、向日葵みたいに明るく嬉しそうに雲雀に笑う名前。

「そうだね」


向日葵畑ではしゃぎ疲れたのか、助手席で向日葵を握りしめながら、名前はすやすやと寝息を立てながら寝むる。
雲雀はそっと、眠る名前に手を伸ばし、そっと頬を撫でる。

「名前は、僕の向日葵だよ」

夢の世界の名前には届かない雲雀の言葉。でも、名前の寝顔はとても嬉しそう。


車はのんびりと二人を乗せ、家路へと進む。

また来年。また一緒に。
二人で一緒に。
大きな向日葵を。


2011/8/28
2011/9/15転記




* ATOGAKI *****
2011暑中お見舞い企画ラスト。
今回お付き合い頂きありがとうございます。
皆様に支えられ、最後までなんとかやり切れました☆
お付き合い頂き本当にありがとうございます。
最後に…感想など頂けたら嬉しいです。(図々しくてすみません)(≧∇≦)えへ

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あきゅろす。
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