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8月30日*ふたりではなび*

『はなびぃ?』

目の前に置かれた手持ち花火セットをジッと見詰めながら、持って来てくれたハルに視線を移す。

「名前ちゃんにと思って、夏の風物詩と言えば花火。大きな花火をみる花火大会もいいですけど、手で持つ花火を、浴衣を着つつ…大好きな人と一緒に楽しむのも夏の風物詩。そして二人は、見つめ合って…はひ〜っ!!恥ずかしいです!私ったらなんて想像をぉぉぉぉ」

自分の想像に恥ずかしくなってしまい、両手で赤い顔を隠しながら、ハルは頭をブンブンと振り回す。
そんなハルの行動を、なんだか取り残されたように眺める名前。

『ハルちゃん、だいじょぶぅ?』

「はひっ。すみません!思わずラブラブシーンを想像しちゃいました」

『らぶぅらぶぅ?』

おっと、また余計に盛り上がる所だったと、ハルは「こほん」と一つ息を付いて気持を落ち着かせる。

「えっとですね、雲雀さんと一緒に花火楽しんでくださいねっ」

『うん。あんね、ハルちゃんもいっしょしよ〜よ〜』

ハルも一緒ならもっと楽しいと思う名前は、ハルの腕を引っ張っておねだりすると、されたハルも思わず一緒に花火を…と思ってしまうのだが、グッと堪える。
言うなれば、これはこの間の花火大会でのハルなりのお詫びだったりする。
みんなで無理やり引き込んだような花火大会だったから…せめてこの花火は、二人でラブラブに楽しんでもらいたい。きっと雲雀さんも嬉しいに違いないと。

「あ、あの…。残念ながら、ハル…夜はぁ…。えっとぉ、ツナさんと予定があるんです」

苦しい言い訳であるけれど、名前はハルの腕に絡みつきながらも『ちぇ〜』と残念そうな声を漏らすも納得する。

「名前ちゃん、ごめんなさいです。でも、雲雀さんと二人でも楽しいですよ」

『うん。きょうやくんといっしょ。たのしいよぉぉ。はなびぃうれしい!』

今夜の楽しいであろう花火にワクワクとする名前は、花火セットの袋をギュッと握りしめてニコニコ顔。

「あわわわ。名前ちゃん、そんなにギュッとしたら花火が!!」

『ほえぇぇぇ』

花火のを楽しむ前に、花火がぐちゃぐちゃになりそうな事態に二人は、アワアワと慌てて騒がしく盛り上がる。




「るん。るん」

名前が喜んでくれて良かったと、気分も軽く鼻歌交じりのハル。
きっと雲雀もこのサプライズを喜んで、名前ちゃんと仲良く花火を楽しむんだろうな…なんて想像すれば、無意識ににやける口元。

「なぁ。ハル…その締まりの無い顔…どうしたんだ?」

ニヤニヤとするハルに、ツナは我慢出来ずついに問い掛ける。

「はひ?私…ニヤニヤしてましたか?」

「自覚なし?」

呆れた顔のツナに、ハルは慌てて恥ずかしそうに意味もなく手を振る。

「恥ずかしいですぅ、私ったら…。実は今日、一日一善って訳じゃないですけど、とても良いことをして気分がいいので…きっとそれでつい」

いい事をしてにやけるってなんだ?なんだか意味が繋がらなく思え、ツナはハルの態度を不審に思う。

「いい事って、何やったんだ?」

「へ?あ…いやぁ…ん…」

よくよく考えると、このサプライズプランをツナに話してしまうとなんだかとても…不味い方向へ話が進みそうな気がして、でもハルの頭の中で上手い言葉が見つからず口篭る。

「ハル…もしかして…隠し事?オレに?まさかねぇ」

何気に黒いオーラを纏って、ニヤリを笑い迫るツナに、ハルが逃れられる訳もなく…ただただ蒼白した顔をするしかない。

はひぃぃぃぃ。ハル、ピンチですぅ!!!!




そんな危機がハルの元で起こっているなど思わない名前は、雲雀との花火にずっとワクワクし通しで、花火セットを眺めては『きゃぁきゃぁ』とはしゃいでいる。

『きょうやくん。まだかなぁ』

コロリと畳に転がってみるものの、ワクワクし過ぎていてもたってもいられない。
帰ってくる雲雀の姿が早く見たいと、名前は花火セットを手に入り口にちょこんと座って待つ事に。
程なくして戻った雲雀は、ハイテンションの名前に「お帰りなさい」攻撃を食らう。

『きょうやく!おかえんなさぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!!!』

嬉しそうに雲雀の足にしがみ付いて、甘える名前。

「ただいま。なんだか、何時もに増してテンションが高いね。何かあったの?」

甘える名前の顔をちゃんと見ようと、雲雀は名前を抱き上げ、興奮気味に熱くなった名前の頬に触れ、顔を自分の方へと向けさせる。
興奮で潤んでキラキラさせた目と、柔らかい頬をピンクに染めて…これまた可愛い顔。
そして、名前の手には花火セットが握られている。

『きょうやくん。あんね、あんね、はなびぃしよぉぉ。ハルちゃんがね、くれたのぉ。きょうやくんといっしょやってねぇってぇ、いってたよぉぉ。はなびねぇ、きょうやくんとやりたいよぉぉ』

可愛さマックスの名前のおねだりを、雲雀が断る訳もない。
それが、名前と二人で花火とあれば尚の事。

「いいよ。でもまだ少し明るいから…夕飯を食べた後、暗くなってからね」

『えぇぇ。まだできないのぉ?ふぇ…はなびぃ…したいなぁ』

待ちきれなくてしょんぼりする名前に、雲雀はクスリと笑う。

「それまで、僕と遊んでいればいいでしょ?」

雲雀からの素敵な申し出に、瞬間で上機嫌になって雲雀の腕の中ではしゃいで暴れる名前を抱えながら、雲雀も名前との花火が楽しみなのか何時もより少し足取り軽く部屋へと向かって行った。



夕飯も終え、草壁に折角だからと浴衣姿に衣装変えさせてもらった名前は、庭先で雲雀と花火を楽しもうと目の前に花火セットを広げる。

『きょうやくんわぁ、これねぇ。わたしねぇーこれぇ』

二人しゃがんで少し寄り添うように、地面に置かれた蝋燭に燈る炎に仲良く花火を近づければ、パチパチと可愛い色の花火が咲き誇る。

『はわぁぁ。きれぇねぇぇ』

二人の花火にはしゃぐ名前。
花火の光が二人の姿を照らし、また消えて暗くなる。

『ほわぁ。きえちゃたぁ。とぉ、つぎわぁどれぇ?』

雲雀の側にある花火を選ぼうと、雲雀に甘えながら寄りかかって次を選ぶ名前の体を、不意に自分の膝の間に引き寄せる。

『ほえ?』

「一緒に持ってやろうか」

雲雀が幾つもの花火の中から一本を選んで、名前に握らせた上からそっと自分の手を重ね、二人で花火に火を灯す。

『はなびぃ。たのしねぇ。いれだねぇ』

「そうだね」

花火の明かりの下、雲雀は名前に、少し甘えるように名前の体に寄り添い、幾つもの花火を咲かせて行く。
甘い時がこのまま続けば…。
花火をしながら、何気に名前の髪にキスをしたりして…雲雀は花火というよりも名前を甘く堪能し、じゃれ合っているそんな時。


「あれぇぇ?もう、花火始まっちゃってるんですかぁ?」

空気を読まない。
いや、ワザとらしい程の明るい声をさせながら、にこやかな顔でツナが現れた。

「……」

「おーっ。花火始まってんのかぁ。よぉ、雲雀。オレらも仲間にいれてくれよなっ」

ツナと共に現れた山本が、ニカッと爽やかに笑い…

「10代目の誘いだから、仕方なくだが来てやったぞ」

不満そうにしながらも…結局来ている獄寺。

「はひぃ…お邪魔します……」

折角のラブラブ計画が台無しになってしまったと、申し訳ないという顔をさせながら心配で付いて来たハル。
「たのしそうだね」と天然の微笑みの京子。
計5人。


『あぁぁー!!!ハルちゃん。ツナさん。ほわぁぁみんなきたぁぁ』

思いも寄らないみんなの登場に、喜んではしゃぐ名前と、邪魔な奴らが乱入にて来たと激しく迷惑そうな顔をする雲雀。

「やぁ、名前ちゃん。雲雀さんお邪魔します。なんか今日、雲雀さんの所で花火大会をするって聞いたもんで、やっぱり花火はみんなでやると楽しいかなぁって、遊びに来たんですよ」

そんな軽いツナの声が、雲雀を更に不機嫌にさせる。

「あ、心配しないでくださいね。俺達の分も含めて花火追加で持って来てますから。ほら」

「…別に、花火の心配なんてしてないよ。それより、これ何の嫌がらせなの?」

「へ?やだなぁ。やっぱり分かっちゃいました?だって、オレも名前ちゃんと一緒に花火したかったんですよ。独り占めはズルイなと思ったもんで…」

雲雀にニッコリ笑いかければ、雲雀は鋭い視線でツナを睨み返し、ボソリと呟く。

「沢田綱吉。後でぐちゃぐちゃに咬み殺す」

「その前に…逃げます」

邪魔者達の乱入は、非常に迷惑ではあるものの…名前が嬉しそうにはしゃぐ姿を見れば、溜息を付いて仕方ないと、邪魔者達を受け入れる。

ああ、本当に名前以外全員を咬み殺したい…。


雲雀さんの災難な…花火の夜。



20100901


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