8月9日*かきごおり*
シャカシャカと軽快な音を立て、氷が白く細かくフワリとしたものに変わり、ガラスのキラキラした容器に積る。
それを興味深々に見つめる名前。
『てつさん。これふあふあ?』
触ったら駄目かなぁと、遠慮がちに指す小さな指。
「氷ですから冷たいですよ」
『んん…』
容器に山の形に積もった氷に、イチゴシロップを掛け、白と赤のコントラストが生まれて、氷イチゴの出来上がり。
『おおぉぉ』
そんな小さな事にも感動して叫ぶ名前。
「出来ました。さて、恭さんもお待ちかねでしょう。部屋に持って行きますよ」
トレイにカキ氷を2つ乗せ歩き出す草壁の後ろを、カキ氷が気になってぴょんぴょんと跳ねながら歩く名前は、草壁のズボンをツンツンと引っ張る。
「ん?どうかしましたか?」
『それ、もちたい!』
草壁の運ぶかき氷を自分に持たせて欲しいとせがむ名前。
『だめぇぇ?』
小首を傾げながら期待いっぱいの瞳。なんでもやってみたいお年頃。
名前にどうしても甘くなる草壁が断る事が出来る筈も無く、心配気に窺いながら名前にそっと渡す。
手にすると思ったよりも重いトレイ。名前はでぎこちない動作でソロソロと運ぶ。
何時になく真剣な顔。
唇を尖らせながらソロソロと進む姿に、大丈夫だろうかと付き添う草壁。
危なっかしい名前の足取りに何度となく「だ、大丈夫ですか?」と慌てながら名前の背後で虚空を掴みながら声を掛れば、その度に、名前はカキ氷に顔を固定したまま『だいじょぶぅぅぅ』と大きな声を返す。
傍から見ればコントの様な動きの二人。
無事部屋の前に辿り着き、草壁は襖を開けてやれば「ありがと」と名前は元気にお礼を言いって、和室にそろりと足を踏み入れた。
部屋の先にある縁側に、着流し姿の雲雀が寛ぎながら名前の姿を見詰めている。
雲雀のいる縁側まであと少し。危なっかしい歩みでヨロヨロと進む名前を見守る雲雀と草壁。
目的地まで到着して一安心。名前は小さく一息付くと、トレイを足元に置き、カキ氷の一つをそっと零さないようにしながらゆっくりと雲雀に手渡す。
『きょうやくんのぶんだよぉ』
やり遂げた達成感に、満足気な顔の名前。
「ありがとう」
他人に対してあまり礼など言わない雲雀だが、名前にはサラリと告げ、よく出来ましたと頭を撫でてやる。
褒められ得意気に笑い返し、自分の分のカキ氷を手に雲雀の横にちょこんと座る。
『いただきまぁぁす』
早速カキ氷を口に運び、その冷たく美味しい味を堪能する。
『ちめたぁぁ。おいしぃねぇ』
のんびり縁側で二人仲良く食べるかき氷の味は格別。
あっという間に食べ終えてしまってなんだか少し残念そうにする名前。
『もぉぉっと、おっきなおやまみたくあったらいいのにねぇ』
「そんなに食べたらお腹壊すよ」
『えぇ〜、だいじょぶぅよぉ』
「食いしん坊すぎじゃない?」
『えぇぇぇぇ〜っ』
拗ねるように口を尖らせる名前の唇に、雲雀は指先で尖らせた唇の先にチョンと触れ小さく笑う。
「あひるみたい」
『ほえぇぇ』
じゃれるように触れ合う二人。
気付けば、草壁はいつの間にか器を下げ部屋から姿を消していた。
じゃれて遊んでいる内に、眠くなって来たのか雲雀の体に少し寄り掛かる様にしながら、名前は小さく目を擦する。
「眠い?」
『ふぅ?ねむないよぉ…だいじょぶよぉ』
眠いけど、雲雀ともっと一緒に遊びたくて首を振るものの、雲雀の手が優しく名前の頭を撫でれば、気持ちよくて思わずウトウトとしてしまう。
『ふ…ぇ』
堪えきれずコテンと雲雀の体に寄り掛かる名前を軽々と抱き上げ、自分の膝の上に横抱きにし、名前の髪を優しく撫でてやれば呆気なく夢の中へと落ちていく。
寝てしまっても雲雀と離れたくないと、雲雀の着流しを名前の小さな手がギュッと握っている。
その仕草が可愛く、雲雀は自分でも意識する事無く自然に口元を綻ばせる。
飽きる事無く雲雀の手は優しく名前の髪を撫でる。
小さく愛しい名前。
いつまでも一緒に。
20100809
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