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8月8日*たからもの*

「……」

一軒の店の前でジッと立ち、棚に飾られたある商品を見つめる。
ただそれだけならば、誰も特に気に止める事はない筈なのだが、何故か皆一度はその人物に目が行ってしまう。
特に通り過ぎる女性の視線はなんだか、見惚れている様にも見える。

何やら考える立ち位置なだけなのに絵になる人物。


しかし…その立つ場所に違和感を感じなくもない。

カラフルな可愛い商品が所狭しと並ぶ店に、ダークスーツ姿のスラリとした長身に切れ長の目に漆黒の髪。
総てが整ったその出で立ちの青年に、ファンシーショップと言うシチュエーションは誰が見て違和感を感じて動きが止まってしまう。
ただ本人は、そんな他人の視線など気にも留めずに、真剣な面持ちでそこに立っていた。

「あの…お客様。何か気に入ったのがありましたらお気軽に…どうぞ」

店の店員のひとりが、勇気を出して青年に声を掛ける。

「ん?」

チラリと見つめる青年の視線に思わず赤くなる店員だが、そこは仕事でありぐっと堪える。

「なにか気に入ったものがありますか?」

本心緊張しながらも、営業スマイル。

「これもらえる」

優雅に青年が指先が指す商品にを手に取ると、確認する。

「これ・・・で、よろしいですか?」

聞き返す行為に微かに眉を顰めながらジロリと睨む青年に、ビクリと肩を上げる。
どうやら、聞き返した事が気に入らないようで・・・。

「聞き返ししないでくれない?君、僕の話聞いていないの?」

「あ、す、すみません。聞いてました」

話をするのも面倒だという態度の青年。
見た目に見惚れるたものの、鋭い視線が体にピリピリと伝わって来る。

こ、こ、この客…危険過ぎない!?

相手に慄くのを知られるのも何故か危険な気がして、なんとかこの場を早く済ませて済ませてしまおうと努力する店員は、機械的な動作を始める。

「こちら、贈り物ですか?贈り物でしたらお包みしてリボンをお付けいたしますが?」

「うん」

緊張しながら商品を包装し赤いリボンを付け、可愛らしい贈り物となったそれを、青年に手渡し難関をクリアーする。
心中早く終わって欲しいと思いながら…。

「あ、ありがとう御座いました」

店員の声に、特に反応する事無くそのままスタスタと青年は去って行く。右手には、彼にはどう見ても似つかわしくない…可愛いショップバックを持って…。

「怖かったぁぁぁ…」

緊張がほぐれ胸を撫で下ろす店員に、影からコソコソ様子を見ていた他の店員が声を掛ける。

「ねーねー。今の人、超カッコイイね。ちょっと、この店には違和感あったけど」

「それよりなんか凄い怖い感じだった…疲れたよ」

「で、何か買ったの?」

「あ、うん。その…なんていうか、あれ、プレゼントみたいだったけど…あの人の彼女にってイメージでもないし…一体どんな人にあげるんだろう??」

「えー?なによそれ」

「あれ買っていったの」

「んと…あれ?うーん。もしや、プレゼントといいながら本人が使っちゃったりしてね」

「やだーそんな……だったら凄いよね」

想像力豊かな彼女達は、勝手に店内で盛り上がっていた。



思ってもいなかった買い物をした青年。雲雀は、袋を手にしながら屋敷へ戻ると、そのまま和室へと足を進める。
襖を開けると、コロコロと畳で転がる名前の姿があった。
名前は雲雀の姿を見ると勢い良く体を起こし、いつもの様に嬉しそうに雲雀の元へと走り寄る。

『きょうやくんおかえんなさぁぁい』

「ただいま」

名前を片手で軽く抱き上げ、いつもの様に名前の頬にただいまのキスを送る。

『きょーやくん。あんね、いまね、いもむしさんごこしてたのぉ』

「芋虫?」

『ゴロゴローってすんの、いっしょやろぉよぉぉぉ』

可愛い名前からの誘いではあるが、転がるはちょっと難しく…思案気味な顔を向ける雲雀だったが、

『ほぇ?それなに???』

ひばりの手にしていた袋に気が付いた名前は、芋虫ゴッコへの誘いは頭の中から綺麗に消え、興味深々でその雲雀の手にある袋に集中している。

「名前にお土産だよ」

『ほぇぇぇ???』

名前を畳に下ろし、手にしていた袋を渡すと、ビックリ眼でそれを受け取る名前。

『くれんの?わたしのぉ???』

大きい瞳を輝かせて嬉しさいっぱいの顔を雲雀に向けると、名前の頭を撫でながら雲雀は優しく笑って頷く。

『きょうやくん。ありがとぉぉぉぉ。ひばーどぉぉ。みてみてぇぇぇ、おみあげぇぇぇ』

雲雀が帰って来るまで一緒に『いもむしぃぃぃ』と遊びに付き合ってくれていたヒバードの方に、この嬉しいお土産の報告をする。

『うわぁぁぁぁ』

嬉しそうに袋の中にあるお土産の箱を眺める名前。

『おみあげぇぇぇだよぉぉぉ』

畳にぺたんと座って、袋をマジマジと見つめて続けて『わーい。わーい』と声を出す。
が…何故か袋を眺めているだけで、袋の中を一向に取り出さない。
雲雀は、不思議な動きの名前に近付いて隣に座る。

「開けないの?」

『ん?うーっ。だってね、あけんのもったいない。これきれぇだもん』

どうやら、包んである包装紙とリボンだけで既にお土産としての価値が成立してしまっているようで、中を開けてこれを壊してしまうのが勿体ないという事らしい。

「中の方がもっと気に入ると思うけど」

『うーんとぉ。きょうやくんきれいにあけてぇぇ』

じぶんでは上手く中身を取り出せないと、雲雀にお土産を出して欲しいとせがむ。

「普通…もらった人が開けるんだけど…いいよ。じゃ、ここに座ってくれる?」

名前を自分の上に座らせると、名前の膝の上でお土産の包装を解いて行く雲雀。開けるのは雲雀だが、名前の目の前で開かれていくお土産になんだか自分であけているような気分になれて、名前はワクワクとしてくる。
包装が解かれ、箱を開けると中から小さな黄色い丸みのある湯飲み茶碗様な…カップの様なものが姿を現し、それを名前の小さな手にちょこんと乗せてやる。

それは、黄色い鳥さんの形をしたカップ。小さめのカップなのだが、小さい名前の手にはには丁度いい大きさの物。

『ほぇぇぇぇ。とりさんだよぉぉぉ』

手にしたカップを頭の上に上げて、雲雀の方へと向ける。

「気に入った?」

『うん。かあぃぃぃねぇ。ヒバードみたいねぇ。ヒバードぉぉぉみてぇぇ。かあいいよぉ』

思った以上の喜びをする名前が可愛く、ギュッと抱きしめる。

「気に入ってもらえて良かった」

『きょうやくんありがとぉぉぉ。あ、てつさんに、これんなかに、いれてもらってくんね!』

早速使ってみたいと雲雀の膝からぴょこんと飛び降り、勢い良く走って行ってしまった名前。
雲雀は和室にヒバードと取り残される。

「……」



カップに飲み物を入れてもらった名前は、ソロソロと中身を零さないようにゆっくり歩いて雲雀の元へと戻って来た。

『みてぇぇぇ。むぎちゃぁ』

カップの中の麦茶を嬉しそうにそれを見せると、再び雲雀の膝に座りなおして嬉しそうにカップに口を付けコクリと喉を鳴らして飲む名前。

『えへへへ。これね、たからもん』

雲雀からもらったものは何でも宝物にする名前。
また一つ宝物が増えたと喜んでいる。

「宝物が増えたね」

『うん。たからもん。あんね、きょうやくんのみんなたからもんなの』

「そう」

麦茶を飲み終えた鳥さんカップを嬉しそうな顔で大事そうに抱えなかが、雲雀に向かってニコリと笑う。

『だってね、あんね、きょうやくんがわたしのいっとう、たからもんだからぁぁみーんなたからもんなの』

えへへと照れ笑いをする名前をギュッと抱きしめる。

「……」

『ほぇ???きょうやくん???』

抱きしめられて身動きが出来ずモゾモゾと動く名前。
雲雀は、名前の耳に顔を近づけると、名前の耳たぶをカプリと口にする。

『ほぇぇぇ???』

なんだかくすぐったくて、さらにジタバタする名前のリアクションに、雲雀はクスクスと笑って、名前の頬に手添え自分の方へと顔を向けさせると、名前の柔らかい頬に数度キスを送り、お互いのおでこををコツンと付ける。

「教えてあげる。僕の宝物も名前だよ」




さぁ、甘い時間はこれから…??



20100808


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