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8月7日*きんぎょ*

ゆらゆらと水の中で泳ぐ金魚。
ペットショップの店先の台の上に置かれた大きな水槽の中で泳ぐ金魚達の姿を、ちょっと背伸びをして眺める名前。

『あかいおさかなさん、かあいいね〜』

赤い金魚達が可愛く綺麗で、『ほぇ〜』と呟きながら、少し口を開けたままの顔で見とれている。

『おみずんなかきもちよさそーだねぇ。いいなぁ。いっしょしたらたのしなぁ』

金魚と一緒に泳ぐなんて無謀な叶わぬ望みを思う名前の頭の中では、金魚とすいすいと泳ぐ自分の姿の想像が完了しているらしく、クスクスと笑っている。

『あんね、おさかなさんはぁ、すいすいだからぁ、わたしもすいすいいっしょすんねぇ』

金魚に向かって楽しそうに話しかける名前の姿に、店の中の店員はクスクスと笑っている。

「それは無理じゃねぇか?」

『ほえ?』

名前の頭上から声がして、顔を上に向けると見知らぬおじさんが笑って立っている。

「金魚と泳ぐのは無理じゃねぇかなぁ」

名前の頭にポンと大きな手を置くと、おじさんはワシャワシャと撫でる。
知らないおじさんなのに、何故か笑って名前の頭を撫でる姿に何故か前から知っている人の様な気がする。
なんだか笑い顔が誰かに似ているような…。
不思議そうな顔をする名前に、更にニカッと笑い掛けるおじさん。

『おさかなさんといっしょだめぇ?』

自分の希望が無理だと言われ、残念そうな顔で小首を傾げ、おじさんに聞き返す。

「おっと、そう落ち込むなって、おっちゃんそんなつもりで言ったんじゃねぇんだけどな、チビ助は魚が好きなのか?」

『すきぃ。あかいおさかなさんかあいいよぉ』

「この魚はな、金魚ってえんだ。そっか、魚が好きなのか…。じゃぁ寿司も好きか?」

『おすしぃ??』

またもやちょこんと首を傾げる名前の姿を、微笑ましく見つめるおじさん。

『うん。おすしぃすきぃぃ。とね、たまごね、あまいのねおいしいよぉ』

寿司が好きだと言いながら、好きだと言うそのネタは魚じゃ無いぞと突っ込みたいと思ったが、嬉しそうな名前の顔を見ると突っ込むのも可哀想だと思い、「そりゃぁ良かったな」と名前の頭を撫でるおじさんに、大きく頷いてみせる名前。

「チビ助面白いな。おっちゃんにもチビ助みたいな孫が居たらいいのになぁ。オレん所の息子はまだまだ嫁をもらいそうもねぇしなぁ…」

『…まごてなに?』

なんだかよく分からなくて、?マークの名前に、

「おっと、おっちゃんの愚痴になっちまったな。チビ助は、この辺の子か?」

名前の事が気に入ったおじさんが質問すると、不満があるらしく、名前は頬を膨らませるた顔を向ける。

『ちびすけちがうよぉぉ。名前だもん』

名前は両手を上げ、自分の名前を大きく主張する。

「おっと、そいつは悪かった。名前ちゃんか、可愛い名前だな」

名前を褒められ、膨れっ面だった顔が直ぐにご機嫌顔に変わる。
名前のクルクルと変わる表情に、おじさんも楽しそうに笑う。

「どうだ?おっちゃん寿司屋をやってんだが、名前ちゃん食べに来るか?」

急に思いもよらないおじさんからのお誘いに、顔を輝かせた名前だったが、いつも草壁に言われている事を思い出し思い止まる。

知らない人にはついて行かない。

その言葉が頭のでグルグル。名前は残念そうな顔で首を振る。

『あんね、てつさんがね、しらないひとついてっちゃだめってぇ、おじさんしんないひとだからぁ、だめなんだよぉ……』

名前の心の中では、このおじさんはとてもいい人に思えるし、一緒にいて楽しいけれど…、お約束は守らなきゃと、おじさんにごめんねと顔を向ける。

「いやいや、そうだな、おっちゃん名前ちゃんがつい孫みてーな気になっちまったからいけねぇな、知らない人にはホイホイ付いていっちゃいけねーもんな、じゃぁ、また今度会った時に、おっちゃんの店に来てくれな。次ん時は、知らない人から昇格できんだろうしな」

『うん』

ニカッっと笑うおじさんに名前は元気に頷くと、「じゃあ、またな」とおじさんは自分の店に戻ると言って歩いて行く。
その後ろ姿に手を振って見送る名前。

『ばいばーい。まだねぇぇぇぇ。おさかなのおじさぁぁぁん』

名前の見送りに、手を振り返す。

「おっと、おっちゃんの店は、竹寿司ってーんだ。また今度なぁ、名前ちゃん」

『ばいばーい』

新たな友達が出来たと、ブンブン思い切り手を振り、見送って笑う名前。



 ※※※※※※

名前と別れ竹寿司に辿り着き、店の暖簾を潜ると店の中には息子の姿。

「おう、タケシ帰ってたのか」

「まぁな。オヤジ、どっか行ってたのか?ん?なんか、楽しそうな顔してんな」

「まぁな、とうちゃん。可愛い友達が出来たんでな」

「なんだそれ?」

不思議そうな顔の山本の横を、鼻歌交じりに横切ってカウンタの中に入ると、店の準備を始める。

「さて、上手い卵焼きの寿司を作んねーとな」



偶然に山本の父ちゃんと仲良くなった名前なのでした。



20100807


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