8月6日*おむすびころりん*
『てつさぁぁぁん』
ぱたぱたと音を立て、草壁に走り寄る名前。
その顔はとても楽しい事を発見してしまったと、ワクワクが溢れ出れるほどの輝く表情。
その名前から、不思議な言葉。
『あんね、あんね、おむすびぃ』
「は?」
『おむすびだよぉぉぉ?』
「おむすび?」
『うん』
大きく頷く名前。
なんの事だろうかと頭を捻る草壁。
昼ご飯はとっくに済ませ、おやつに食べたいと言う事なのだろうか?
『おむすびぃぃぃ』
なぜか懸命におむすびをせがむ。
そんなに好きだっただろうか?不思議に思っても、欲しがるおむすびを拒否する理由も特にない。
「おやつは、おむすびでいいということですか?」
『おやつぅ?』
草壁の問い掛けに何故か不思議な顔を向けた名前だったが、おむすびがもらえるならなんでもいいようで、とにかく頷いている。
『あんね、こーえんいくよぉ』
公園で、おむすびを食べてピクニックごっこでもするのだろうと理解した草壁は、小さなおむすびを2つ作ると可愛く包んで名前に手渡す。
『てつさん、ありがとぉ』
リクエスト通りのおむすびを手に入れ、名前は喜びながら公園に出掛けて行く。
その後をヒバードがパタパタと飛びながら付いて行く姿があった。
『あ〜ヒバード。みてぇ、おむすびだよぉぉぉ』
大切そうにおむすびを抱え公園に辿り着いた名前。
いつもとは違う方向へどんどんと奥へと歩いて行くと、小さな森の様に木々が並ぶ場所へと辿り着く。その中の一本の木の根元にちょこんとしゃがみ込む。
『ヒバードに、すごぉぉいの、みしてあげんねぇ、これだよぉぉ』
名前が指差す木の根元に小さい穴があり、どうやらこの穴が名前にとってとても大切なものらしい。
名前の小さな手が入るか入らないか微妙な大きさの穴。木々の影で穴の深さを見る事は出来ない。
『ここにわぁきとね、しろ〜ぃねずみさん、いんだよぉ』
しゃがんだ体勢で、頬杖をつきながらワクワクと穴を眺める名前と共に、ヒバードも名前の頭の上から穴の方に顔を向けている。
何故、穴の中に白いねずみなのか?
それは数日前、雲雀が名前に聞かせた日本の昔話。
[おむすびころりん]
おじいさんが気の根元の穴におむすびを落としてしまい、その中の白いネズミがおむすびのお礼にと、おじいさんに葛篭をあげる…そんな話。
そして公園で見つけた小さな穴。その穴を、お話の穴だと思ってしまうのは流石名前と言う所。
さっそく草壁にもらったおむすびを1つ穴の中に入れ、そっと耳を澄ます。
『ねずみさんいるかなぁぁ。おむすびあげっとね、ねずみさんよろこぶんだよぉぉ』
早く穴からネズミの声が聞こえないかと期待する。
『あんね、ねずみさんいたらね、ともだちなんの。きっとね、たのしよぉぉ』
昔話では、おむすびのお礼の葛篭がもらえるのだが、名前は葛篭よりも白いネズミ自体に興味があるようだ。
『まだかなぁ。ねずみさぁぁぁん。おーーーーいぃ』
穴に向かって声を掛けても答えは返って来ない。
『う…おるすぅ???』
それともおむすびが足りないのだろうかと、残りの1つもコロリと穴に入れてみる。
『……』
暫く待っても穴からの返答は全くない。
おやつとして草壁が持たせてくれたおむすび達は総て穴の中に転がって行き、名前のお腹の中には全く入る事も無く、おやつ抜きのまま白いネズミにも会えず。
『う……』
※※※※※
「で、おむすびを全部穴にいれたの?」
公園での出来事を残念そうに雲雀に話す名前。
まさか自分の話した昔話を信じ、ねずみ会いたさにそんな事をするねんて…。
『だてね、ねずみさんあいたかったんだよぉ』
お話だから、そんなネズミはこの世に存在しないと言ってしまうのも簡単だが、突き放す事も出来ず、雲雀にじゃれながら残念でたまらないと唇を尖らす名前の背を慰めるように、雲雀は優しく撫でてやる。
「それ、ネズミの穴じゃなかったんじゃない?」
『ちがうのぉ?』
「穴だからといって全部に白いネズミが居るはずないからね」
『そっかぁぁぁ。したら、おむすび…しっぱい』
間違えてしまったんだと思えば、せっかく草壁が作ってくれたおむすびに対してとても悪いことをしたと思い、また違った思いで落ち込みをする。
「ネズミがいる穴は特別だからね」
『そっかぁぁぁ』
雲雀の言葉に納得して頷く名前。
『たらね、あなあったらぁ、おむすびしないでね、ねずみさんいるかきいてみんね』
「ん?」
『とね、あなにね、ねずみさぁぁぁてよんでね、おへんじまつよぉ』
なんだかそれでいいのか微妙な所ではあるが、とりあえずおむすびが無駄にならない事はいい事だ。暫くは穴に向かって喋るかもしれない名前だが…すぐに他の事に関心が移ってしまうのも確かである。
『ねずみさんあったらね、なかよしなんのぉ。きょうやくんも、みしてあげんね』
「そう…だね」
『しろいねずみさんかあいいよぉぉぉぉ』
嬉しそうにする名前の方がもっと可愛いのに…と思う雲雀は、名前抱き上げ自分の膝に乗せる。
「ねぇ、ネズミさんと、僕以上に仲良くなったら駄目だよ」
クスクスと笑いながら名前の頭の上に、雲雀は自分の顎を乗せつつぎゅっと抱きしめる。
ネズミにも嫉妬?それとも冗談?
20100806
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