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8月5日*あたりのあいす*

公園の木陰のベンチに座る、名前と山本。
暑い日差しを避ければ、風がある分だけ暑さを感じるのが減った気分になれる。

「やっぱ日陰は少し涼しいな」

『うん』

名前には少し大きいベンチに座ると、自然と足がぶらぶらと動く。その動きを楽しみながら、ヘラリと山本に笑い掛ける。

「名前は、暑くても元気だな」

『うん。だてね、ごはんちゃんとたべてっもん』

「ん?あははは…そうだよな、やっぱ飯をちゃんと食べていればいつも元気だよなっ」

『そおだよぉぉ』

元気な名前を見れば、それだけで元気パワーを分けてもらえた気分になる。
山本は、名前の頭をわしゃわしゃと撫でて、元気が一番だよなと爽やかに笑い返す。

『たけしくんもげんきぃ?』

「ああ、オレもちゃんと飯食ってっからな」

名前と同じ答えを返せば、「おんなしだねぇ」お揃いを喜ぶ名前が可愛くて、暑いのも気にせず自分の方へと引き寄せる。

「名前」

『ほぇ?』

「アイスでも食べるか」

山本からの願ってもない提案を、名前が断る筈も無く、大きく頷き返す。

二人で仲良く手を繋いで並盛町の駄菓子屋に向かい、山本のオススメのホームランアイスを二つ買う。
店先にあるベンチに座ると、山本は名前の分のアイスを袋を開けて渡してやる。
「ありがとぉ」と名前の可愛いお礼の笑顔。
名前は、もらったアイスのソーダの水色にワクワクした顔をしながらパクリと食べる。

『ちめたぁぁぁ』

甘くて爽やかなソーダが口いっぱいに広がってとても涼しい。

「やっぱ、このアイスがうまいのなぁ」

『たけしくん、おいしいねぇぇぇ』

「だろっ」

二人ならんでアイスを食べる姿はとてもほのぼの。

「はぁ、うまかった。おっ」

一足先に食べ終えた山本は、アイスの棒を眺めて声を上げた。

『ほぇ?』

アイスと格闘中の名前は、なんだろうと山本に顔を向けると、アイスの棒を得意気に振る山本。

「このアイスな、棒に当たりって書いてあると、同じアイスがもう1本もらえるんだ」

『ほえ〜!!!!!』

「ほら、当たりだぜ。名前の方はどうだろうな」

『う゛…』

棒の頭は見えているが、まだ文字は見えて来ない。

「まぁ、こういうもんは、なかなか当たらねえから。のんびり食べていいならな」

当たりが知りたい名前が、無理やり早く食べないようにと、名前の頭をポンと叩く。

『うん』

しかし、アイスはいつまでも凍ったままの姿を保っている訳もない。暑さの中で、食べるのが遅い名前のアイスは、次第に溶け始め、アイスがポタリと垂れる。

『ふぇ…』

アイスと名前の格闘。
溶け切るのが早いか、食べ切るのが早いか…。

「名前大丈夫か?」

『う、う?』

大丈夫かと聞かれても、この状態がまだセーフなのかが分からない。とにかくアイスが無くなる前に食べなくちゃと頑張り、完食…したものの、手には溶けたアイスでベタベタに濡れてしまっている。困った顔をしながら手を山本の方へと掲げる。

『てぇ…あいすいっぱいついたよぉぉ』

「ははは、名前にはちょっと大きかったな、悪かったなぁ。手だけで服は大丈夫か?」

『うん。へーきぃ。あいすね、おいしかったよぉ。てぇあまい』

溶けたアイスの付いた自分の手をペロリと舐める。

「そっか、美味かったならよかった。どれどれ?」

山本は不意に名前の手に顔を近付けると、名前の指を口に含んで、指を舐める。

「ん〜名前の指はアイス味だな。名前は、甘くて美味いな」

周りに見ていた人がいたら赤面してしまうようなそんな驚く行為をサラリと行いながら、名前の手にを握って笑う。

『ちがうよぉ、あいすついてっから、あまいんだよぉ』

「ははっ。だなっ。さて、このままじゃ手がベタベタだしな、公園で手を洗うか」

『うん』

所詮名前相手に、甘い世界を共有する事は無理。
まぁ、今だけ名前を独り占めと言うだけでも言いかと、公園に向かって歩きながら思う山本だったりする。


『あ、たけしくん。ぼーなんもなかったぁ』

ちぇ。当たる気満々だった名前は、口を尖らせながら頬を膨らませる。

「そっかぁ、ハズレか、残念だったな」

『う…』

「次は当たるといいな」

『うん』

がんばるぅぅ。
頑張りようはないが、意気込みだけはある名前に、本当に可愛いいなと優しく微笑む山本の態度に、次は当てろよと応援されていると思った名前は大きく頷き返した。


公園でべた付く手を洗ってスッキリした二人。

「よし、これでスッキリだな」

『てーもぉへーきだよ。ほらぁ』

名前の目線まで腰をしゃがめていた山本にじゃれて、名前は小さな手を山本の頬にぴたっと付けると小首を傾げてみせる。

『ね?』

「そうだなぁ」

その手に、山本は自分の手を重ねて微笑み返す。

「あー、そうだ、名前に、これやるよ」

そう言って手渡されたのは、先程のアイスの当たり棒。

「今日は、もう1本食べちまったから、他の日にあのお店で、アイスと交換してもらえな」

当たり棒を手にし、見つめる名前。
まるで、大変高価な宝物をもらってしまったという程のビックリ眼で、当たり棒と山本の顔を交互に見詰める。

「ん?どうした?」

『これ…いいのぉぉぉ?だってね、あたりだよぉぉ。もっこもらえんだよ』

まさかそんなに驚いたリアクションが返って来るとは思わず、山本の方が驚いてしまう。

「ははは、遠慮すんなって。名前だから、オレの大切な当たり棒をやるんだぜ」

ちょっと大袈裟に返すと、名前は何度も『うん、うん』と、頭がくらりとする位に何度も頷き返す。

『たけしくんありがとぉぉぉぉ』

そんな小さなプレゼントに大感激な名前に「どういたしましてと」返し、名前の頭をワシャワシャと撫でる。



山本と、別れて帰り道。
当たり棒を眺めながら歩く名前。

『あったりぃ、あったりぃ、あたりぼーぉぉ。おいしーあいす、もぉひとつぅ♪』

不思議な当たり棒の歌を歌う名前は、不意にピタリと歩みを止め、当たり棒をジッと見つめる。

『……』



 ※※※※※

名前が戻るよりも先に、和室で既に着流し姿で寛いでいる雲雀。
廊下からバタバタと大きな音が響いて、その音は次第に近付いて来る。
この騒がしさはどう考えても名前。
雲雀は、クスリと小さく笑って襖の方へ視線を投げる。
勢いよく襖が開けは、予想通りに名前の登場。
外から一生懸命走って来たのか大粒の汗を掻きながら肩で息をしている。
その姿に、雲雀は不思議そうな顔を向けた。

「どうしたの?そんなに慌てて…」

『きょうやく!ただいまぁぁぁ。これあげる!』

雲雀の元に走り寄って差し出したのは、先程山本と食べたものと同じアイスの袋。

「僕に?」

『うん。あんね、あたりぼーね、もっこもらえんの、でね、おいしーぃぃのだからね、きょうやくんにもっておもてぇぇぇ、でね、あいすね、とけっからねはしったのぉ。ね、ね、おいしーよぉ』

早く食べてみてと渡され手に取ったアイスの袋は、どう考えても中身が半分以上溶けてしまっている状態に思える感覚。

「名前」

『ん?』

「……」

名前の期待の目にどう返していいのか分からず、とりあえず袋を開けて中を取り出すが、中身はやはり溶けかかっていて、アイスの大きさは半分位になり、後は袋の中で液体となっている。
取り出されたアイスが、自分が食べたサイズよりも小さい事に驚いて目をパチパチと瞬きさせる。

『あいす…ちっさい・・・』

頑張ったのに溶けてしまったアイスに落ち込む名前を前に、雲雀は小さいながらも形が残っているそれを半分、パクリと口にする。

「おいしいよ。ありがとう」

そう言うとその半分を、名前の口元へと運ぶ。

『ほえ?』

「美味しいものは、一緒に食べるともっと美味しくなるんでしょ?」

前に名前が雲雀に言った言葉。
微笑む雲雀に頷き返すと、雲雀の持つアイスをパクリと口にする。

『おいしぃぃぃねぇ』

「そうだね」

さっきよりも。もっともっと甘いアイス。


アイスを食べ終え、雲雀の膝にのって上機嫌の名前が、ふと棒をを見れば

『あー!!!!きょうやくんみてぇぇぇ。あたりぼー!!!!』


今度は、溶けてないアイスを一緒にね。





「ねぇ、そう言えば、最初のアイスはどうしたの?」

『とね、おそとでねぇ、たけしくんがいてね、いっしょたべたのぉぉぉ』

「ふーん。そう」

名前の頭を撫でながら、目をすっと鋭く細くする。

今度、山本武にお礼をしておかないとね…。

名前の頭を優しく撫でながら、頭の中では山本をどう咬み殺そうかなんて事を考える…雲雀なのでした。


20100805


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あきゅろす。
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