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8月3日*にわかあめ*

ざあぁぁぁ。

急に空が暗くなり、勢いよく音を立てて雨が降る。

夏特有の俄雨。

急に降ってくるとは思わなかった人々は、足早に雨を避けるため雨宿り。

「はひ〜っ。ずぶ濡れです…。名前ちゃん大丈夫ですか?」

散歩中だったハルと名前は、近くのお店の軒下で雨宿りするものの、二人は既にずぶ濡れ状態に等しい。

『だいじぶぅ』

濡れた事が面白いのか、元気に『びしゃびしゃぁぁ』と笑う名前に、災難だったと思った事も楽しい物に変わってしまって、笑うハル。
とは言え、このままでは風邪を引いてしまうと、気休めながらも持っていたハンカチで、濡れた名前を拭いてやる。

次第に雨の勢いが弱まり、空も徐々に明るさを取り戻し、見上げればその空に虹がうっすらと掛かっていた。

「名前ちゃん。見てください、空に虹がでてますよ」

ハルが指差す方を見れば、綺麗な虹。

『ふおぉぉ。すごお〜っ。ハルちゃん、きれえねぇー』

宝物を発見したみたいに顔を輝かせる名前に、ハルも頷き笑い返す。
二人で共有出た楽しさが、更に気持ちが高まる。
笑いあう二人。

くしゅん。

「はひっ」

名前の小さなクシャミで、ハルはピタッと動きを止める。

「そうでした!このままじゃ風邪を引いてしまいます。ん〜。ここからならツナさんの家が近いです。タオルを借りましょう」

『うん』

頷きながらも、また“くしゅん”とクシャミをする名前。

「はひーっ。ダッシュです!!!!」

『ほえぇぇぇ!?』

ハルは、名前を抱き抱え走り出す。
それ程重くない名前だが、ハルが抱えながら走るのは至難の技。
ツナの屋敷に到着した時には、ハルの体力は限界で息も絶え絶え。

「ハル、どうしたんだ?そんなに疲れて…それにずぶ濡れじゃないか」

ツナに答えようと息を整える為に、数度小さく深呼吸をするハルの横で、『だいじぶぅ?』と名前は心配そうにハルの体を擦りながら、ツナにハルの代わりにとこの状態を名前なりに話し出す。

『あんね、あめざーざーでぇ。くしゅんてなったらね、ハルちゃんが、だしゅてはしてぇ、んと、んとぉ』

「はひ〜。疲れました…。ツナさんすみませんが、名前ちゃんが風邪引いてしまうと大変なのでタオルを貸してください」

「んー。それより風呂に入ったらどう?濡れた服も乾かさないとだろ?」

「そうですね…」

ツナの勧めで、二人は風呂に仲良く入り、サッパリとした気分で人心地付くことが出来た。





夕方、ツナの屋敷から帰った名前。
畳でゴロリと転がってヒバードと共に遊んでいた。
程なく雲雀が外出から戻り、名前のいる和室に現れると、雲雀の姿に気付いた名前は、嬉しそうに奇声を上げてパタパタと走り寄り雲雀の足に勢いよくしがみつく。

『きゃぁぁぁぁー。きょうやくんおかえりなさぁぁぁい』

足に引っ付いた後、その手を上げ、雲雀の方へ万歳のポーズを向ける。
雲雀は軽々と名前を抱き上げる。

「ただいま」

滅多に他人に見せない笑顔を名前に向ける雲雀。

『あんね、あんね、ハルちゃんとね、おそらにね、いろんないろがあんのみたんだよぉぉ』

今日見た虹の事を雲雀に話し出す。

「いろんな色?」

『うん。あめざーざーふったらね、おそらにあったの!すごい?』

「俄雨があったから、虹が出たんだね」

『きょうやくんみたぁ?』

「今日の虹は見てないよ」

『う……。とね、とね、こんどね、いしょみようね』

今日の虹が一緒に共有出来なくて、少しションボリした名前だったが、今度一緒に見たいと、雲雀に柔らかい体をすり寄らせる。

「うん。そうだね…」

甘える名前の髪に、顔を近付けながクスリと笑う。
が、そこで先程から感じていた違和感を更に深く感じ、目を細める。

「……」

『?』

なんだかいつもの雲雀と違う様子に、キョトンとする名前。
雲雀は名前の髪を、クンクンと匂いを嗅いでいるようだった。

「ねぇ。今日…ほかにも何かなかった?」

『ほかぁ?』

名前は、小首を傾げつつ今日の出来事を思い出返す。

「匂い…」

『ふぇ?』

クンクンと自分の腕に鼻を付けたり、服の嗅ぐ名前ではあるが、なんの事やら一向に分からない。

『きょうはねー、あとねーあんね、おそらみたあとね、あめざーざーでぇびしゃびしゃなってぇハルちゃんとぉ、ツナさんのおふろはいったぁよぉ』

「……ふ〜ん」

低い声で呟くと、名前を抱えたままスタスタと歩き出す。
廊下を歩く途中、草壁とすれ違う。

「恭さん。どこか行かれるので?」

「風呂」

「風呂ですか?」

「名前の着替え準備しておいて」

「へい」

いつもより早い入浴。
それに何やら不機嫌そうな雲雀の態度。
不思議に思いながらも、雲雀の機嫌を更に損ねてはと……草壁は準備の為に動き出す。


『きょうやくん、おふろ?』

お風呂入ったのに…何故もう一度お風呂?何でだろうと問い掛ける。

「僕以外の匂いなんて有り得ない」



― 名前の体に、僕以外の匂いなんていらないよ。 ―




20100803


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